講師が出題傾向を本気分析(1級工業簿記編)

日商簿記1級・工業簿記の出題傾向を本気分析

工業簿記の出題傾向には偏りがみられる

前回は、日商簿記1級原価計算の出題傾向を本気分析した。今回は工業簿記だ。
工業簿記は、原価計算以上に出題内容に偏りが見られる。それは、標準原価計算の出題がずば抜けて多いということだ。2番手には総合原価計算が続く。この2論点だけで全体の3分の2近くを占めており、その他の論点は、たまにパラパラと出題されるだけだ。

したがって、標準原価計算に最重点をおき、続いて総合原価計算を押さえるのが基本だ。この2論点は、スクール各社から出される直前予想とは関係なく、押さえておいてほしい。

ただし、標準原価計算をマスターするには、工業簿記の冒頭で学習する勘定連絡をしっかり理解していることが前提だ。そのあたりがあやふやなまま細かい論点(例えば配合差異、歩留差異など)を含んだ総合問題に突入すると、途端に行き詰まるだろう。

勘定連絡に自信がなければ、いったん2級に戻って学習するのも効果的だ。近いうちに、1級の工業簿記をしっかりマスターするための勘定連絡総復習問題を作ってアップするので、待っていてほしい。

過去問の出題傾向

過去24年間の出題実績は以下のとおりだ。一番右の列は24年分の出題実績の累計、それ以外は4年間ごとの出題実績だ。また、出題論点ごと、出題実績の多い順に並べてある。

  2004-2007 2008-2011 2012-2015 1992-2015
標準原価計算 5 4 3 22
総合原価計算 0 1 2 9
個別原価計算 2 0 1 4
部門別原価計算 1 1 0 5
予算管理 0 1 0 3
直接原価計算 0 1 0 2
費目別計算 0 0 1 2
本社工場会計 0 0 1 1
合計 8 8 8 48

実に全48回のうち22回と、50%近くが標準原価計算だ。続いて総合原価計算が9回。この2つの論点でおよそ3分の2を占めている。

しかし詳しく見ていくと、最近の出題傾向には変化がみられることが分かる。もともと標準原価計算は、コンスタントに出題される論点なのだが、直近の3回は出題されていない。このようなことは過去20年間において一度も無かったことだ。かわって、総合原価計算と個別原価計算の出題急増している。

この傾向は、たまたまなのか。すなわち今後再び標準原価計算が増加するのか、それとも本格的に出題傾向が変わってしまったのか。興味深いところだ。

また、上記出題実績表では、個別原価計算と費目別計算を分けて表記しているが、実際には複合されて出題されることも多くある。両論点とも、ここ3年間で急増した論点だ。しばらくの間(2004年~2011年くらい)ほとんど出題されず、もう試験委員は出題するつもりがないのではないか、とすら思われていたが、試験委員が変わって復活した感じだ。

上記を踏まえて出題傾向の本気分析

講師の考える最近の出題傾向

最近、あきらかに出題傾向が変わってきている感じがする。近年、もっとも驚いたのが140回と141回の出題内容だ。140回は本社工場会計という形をとっているが、その本質は勘定分析だ。少なくともここ20年間で初めての出題パターンであり、戸惑った受験生が多かったはずだ。また、141回はまるまる費目別計算で、これは実は85回の焼き直しだ。つまり、およそ19年ぶりの出題となったわけだ。

このように、工業簿記は、試験委員の変更にともない、ガラッと出題傾向が変わった。ただし、難易度的にはそれほど高くはなく、比較的、基本を重視している傾向がみられる。一昔前はマニアックな論点を深堀するような問題が出題され、正直、できるかできないかは、ひらめきと時の運といったようなこともあったが、最近は、そのようなことはないようだ。

講師の考える工業簿記の対策

まずは基本をしっかりおさえることだ。特に今更ながら2級レベルの基礎が大切だ。

講師をしているスクールで、確認テストとして出題した2級レベルの工業簿記総合問題の出来が非常に悪かった。勘定のつながりと、財務諸表作成という工業簿記の基本があやふやなのだ。

また、たとえば標準原価計算にしても差異の計算方法は知っているが、その意味を理解していない、という受講生が少なくない。そのレベルで1級に進んでしまうと、差異はより複雑化するので、まったくついてこれなくなってしまうだろう。まずは2級レベルから復習をし基礎固めをすることが大切だ。

総じて言えることは、2級の範囲を本当の意味で完璧にすれば、1級でもすでに60点以上分は取れるということだ。そこにあと10点から20点を積み上げていくイメージが正しい点数の取り方なのだと思う。

どのような論点が出るのか、予想も大事だが、それ以前に、2級をパーフェクトにすること。特に勘定連絡と財務諸表の作成をしっかりおさえること。次に、(出題頻度No1の)標準原価計算に力を入れること、これが工業簿記におけるおすすめの対策だ。


ミニ講義 関連記事


工業簿記 関連記事

講師が出題傾向を本気分析(1級工業簿記編)” に対して1件のコメントがあります。

  1. 独学者 より:

     先生、こんにちは。

     現在、過去問を解いていますが、140回工業簿記が全然ダメで、これが本番でなくてよかった・・・と思っているところです。
     恥ずかしながら、普段書いているボックス図と工場の前TBが頭の中でつながっておらず、1問目で手が止まり、前TBの材料の額に価格差異が含まれているとか、賃金・給料や製造間接費の額が原価差異だということに気付くのに、数十分かかりました(本番なら確実に落ちてます)。
     このほか、製造原価報告書で、製造間接費配賦差異(しかも空欄・・・)で予定額になるよう調整するとか(通常の差異の扱いと逆です。)、棚卸減耗費の計算で「棚卸減耗引当金」なるものを戻入れするとか、押さえていないことだらけでした。

     1点、[資料I]の製品勘定について質問があるのですが、よろしいでしょうか。
     解答を見ると、製品勘定については、本社が期首、工場が期末の額をあらわしているようなのですが、これが資料から読み取れませんでした。
     手元の2級テキストの本社工場会計の章を見ると、本社-工場間の製品のやり取りは
    【本社】製品 xx / 工場 xx
    【工場】本社 xx / 製品 xx
    という仕訳が書かれているのですが、これだと、本社の製品勘定は期首残高にならない(と思う)ので、こういう仕訳が切られている訳ではなさそうです。

     何となく、本支店会計のように考えた上、工場には売上原価勘定がある一方で本社にはないので、工場では売上原価対立法、本社では3分法みたいな感じ(?)で、
    【工場】本社 28,560 / 本社へ売上 28,560
        売上原価 26,520 / 製品 26,520
    【本社】工場より仕入 28,560 / 工場 28,560
    という仕訳を切っていて、決算整理仕訳で、本社で「仕繰繰仕」ならぬ「仕製製仕」を行うのかなあと考えました。
     ただ、これは、解答を見て、無理やり「本社が期首、工場が期末の額」という結論に合うよう仕訳を考えただけです。

     初見でこの問題を見た場合に、製品について「本社が期首、工場が期末の額」を表わしているというのは、どこを見て判断すればよろしいでしょうか。

    1. pro-boki より:

      申し訳ないですが、いま、直前期対策でちょっと時間がないので要点だけ。

      140回の工簿はかなりイレギュラーな出題なので出来なくて当然くらいの気持ちで大丈夫です。これで自信をなくされませんように。私もこれ、試験当日に、他の講師や会計士と一緒に解きましたがみなさん出来ていませんでした。このタイプの出題は初出であり、まずもって出題意図を把握するのに時間が掛かりました。分かってしまえば、どうということはない(つまり、なぞなぞみたいなもので、初めて出されると難しいけど、ネタを知っていると簡単)タイプの問題です。

      >製品勘定については、本社が期首、工場が期末の額をあらわしているようなのですが、これが資料から読み取れませんでした。

      これは、私も最初、気付いていませんでした。ただ、問題文に「内部振替価格280千円」とあり、「本社の期末在庫は4個で、棚卸減耗はない」と書かれているわけですから、当然に本社の製品勘定の金額は「280×4=1,120」と思うわけです。ところが、前T/Bを見ると「560」と書かれている。はて?どういうこと?と考えて、「あ、そうか」と分かったくらいのレベルです。なるほどなぁいい問題だ、あとでネタとして使わせてもらおうとも思いました。ただ、それにしてもちょっと指示が足りないよなとも思いましたが。

      独学者さんが書かれているとおり、本社は三分法を採用しています。これは、本社の前T/Bに製品、仕入、売上の3つの勘定が備えられていることからわかります。もし売上原価対立法を採用しているなら、「仕入」勘定があるのはおかしいです。また、製品の額も期末在庫の数量4個×280=1,120になっているはずです。これが560ということは、売上原価対立法ではないのです。もちろん、分記法でもありません。分記法なら、売買益の勘定がないとおかしいからです。よって三分法しか考えられません。三分法ですから、製品勘定は期首在庫を表しているわけです。

      ただ、まあ種明かしされれば簡単ですが、緊張した本試験で、初見で、これを読み解けっていうのは厳しいですよね。工簿というより、商簿ですから。しかし、今やすでに出てしまったわけですから、再び出たら出来る人も結構いるでしょう。その点では対応しておきたいところです。

  2. 独学者 より:

     丁寧なご説明ありがとうございます。
     できなくて当然とアドバイスをいただいて、少しだけ(?)安心しました。

     製品勘定については、大変よく分かりました。前TBの勘定から会計処理方法を推測し、その上で勘定の数字の意味を考えるという、特殊商品売買なんかの問題のようなテクニックを工業簿記で使うとは・・・。
     ただ、次に出てもいいよう、しっかり理解しておきたいと思います。

     直前期でお忙しいところ、重ね重ね、ありがとうございました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です