147回日商簿記1級・詳細解説【工業簿記編】

はじめにこれだけは言いたい

最初に言っておくと、本問は「学習用」としてはかなり良質な問題だと思う。受講生に個別原価計算の意味を理解してもらうという点で大変有用な教材だ。しかし、検定試験(スキルが一定以上あるかを客観的に測定する)として見ると疑問を抱かざるをえない。

この問題って簡単なの?

本問を出題した試験委員は「まあ、簡単だよね。2級範囲?」くらいの気持ちだったと思う。そのとおりだと思う。論点的には2級だ。落ち着いて問題文を正確に読み取って表計算ソフトを使えば瞬殺だ。この解答解説を執筆するにあたって、エクセルで検算したけど、ものの数分で完璧に集計出来た。

つまり、簡単なのだ。問題としては。事実、解答解説会でそう言明しているスクールもある。「今回の問題は、普通もしくは簡単だった」と。

そうだろうか。

ローカルルール資料の読み取りと煩雑な計算

この問題、まず、資料が読み取りにくい。所与されている資料は法的にフォーマットが決まっているわけではない。様式は各企業の自由だ。つまり社内ローカルルール資料だ。こういう資料を他人様に読んでもらうのであれば、分かりやすく記載することが望まれる。社会人の常識だ。

わざわざ分かりにくく書いておいて、計算ミスをさそって、それに引っかかるかどうかで、その人を値踏みするようなことは一般社会では行われない。そんなことで能力は測定されない。

そして、計算の煩雑さ。さきにも書いたけど、本問の集計は、エクセルを使えば一瞬だ。だけど、人間はそういう集計が得意ではない。だからこそパソコンが爆発的に普及したのだ。そんなことは人間がやる仕事ではないと。現代はそういう社会だ。(まあ、この問題はそこまで言うほど煩雑な計算ではないけど、緊張しているなかで、初見で、かつ時間を制限されたらミスを引き起こしそうな要素が結構ある)

簿記1級っていうのは、そういうエクセルを使えば一瞬で出来ることをいかに人間が正確にトレース出来るかを競う試験なのだろうか。だとしたら残念だ。(多分、試験委員はそこまで考えていない。しかし受ける方からしたら気になる点ではあるだろう)

試験委員は何を測定したかったのだろうか

そもそも、これ114回工簿のリニューアル(悪く言えば使い回し)問題だ。114回は伝説の回で合格率が3.5%だった。工簿のせいだと言われている。いくら傾斜配点して下駄を履かせても10%行かなかった回だ。

114回の工簿もエクセルを使えば瞬殺だけど人間がやると大変だねって問題。そっくりだ。このときもかなり紛糾した。だからもう出ないと思ったけど試験委員が変わっているから、また出たねと。そんな感じだ。

ちょっと(かなり?)嫌味っぽくなってしまって申し訳ない。

私も結構な数の作問をしているから僭越ながら作問者の気持ちは分かる。これくらいなら出来るだろうと思って出したのに、全然出来ていなくてびっくりすることとか、ネタに困って、昔の問題焼き直したりとか。よくあることだ。

で、たくさん作ってきて、分かってきたことは、ある種の問題は本当に知りたい実力が測れないということだ。

ワンミスが連鎖して全滅に近くなる問題。文章が読みにくく、かつ、ミスをさそう問題。計算量が多く煩雑な問題。そういう問題は真の実力(この真という意味を正確に表現することは難しいけれど、あえて言えば、パソコンを使えば誰でも出来るような計算を正確にトレースするようなスキルではなくて、実社会において会計を使って意思決定をするようなリーダー的役割を果たせるかという意味を想定している)を測れない。

落ち込まないでほしい

だから、もし、この問題に対峙して「問題としては理解出来るし簡単だと思ったけどケアレスミスして大量失点した」という人がいたなら(というかたくさん知っている)、そんなことで落ち込まないでほしい。

大丈夫。事故にあったようなものだ。

今回の147回は原価計算を除き、どれも、どこかでヒトクセもフタクセもあった。そのクセに引っかかったからといって実力が無いわけではない。たまにはこういう回もある。どうか腐らないで勉強を続けて頂きたいと思う。

ちなみに、そういうクセの存在にすら気付けない人は、今回の試験を「結構簡単でしたよね?」とのたまわったりするけど気にしないように。

問1 ロット別個別原価計算

さきにも書いたけれど、本問は114回の工簿の焼き直し問題だ。それを解いたことのある人は、本問を簡単に感じたことだろう。特に今回は114回よりも資料の量が少なかったので簡単だった。

要は資料をどれだけうまくまとめられるか、そういう問題だ。まとめ方を知っていれば簡単、知らずにその場の数分で考えなければならないならかなり大変だと言えるだろう。

材料費の仕入単価(①の答え)

材料費については問題文(2)から読み取る。

引取費用の予定配賦率は、2,520,000円÷36,000kg=70円/kgである。内部副費は購入代価予算7,200万円に対して900万円の予算を組んでいるので、購入代価の12.5%(=900万円÷7,200万円)を予定配賦する。つまり、内部副費は購入代価に12.5%を掛ければよい。次のように一覧表を作ると分かりやすい。

 購入量購入代価引取費用内部副費合計単価金額
月初400kg@2,300920,000
当月1,500kg@2,000@70@250@2,3203,480,000
1,500kg@1,940@70@242.5@2,252.53,378,750

①は材料の仕入高が問われているので、3,480,000円+3,378,750円=6,858,750円

直接材料費(②の答え)

②の直接材料費だが、これだけを単発で解答するならショートカットがある。

上記の表から材料勘定の借方合計は、400kg+1,500kg+1,500kg=3,400kgで、金額は、920,000円+3,480,000円+3,378,750円=7,778,750円だから、ここから、材料在庫金額を引けばいい。

何キロ消費したかといえば、資料(1)の数量の個数から判別すればよい。

(150個+300個+200個+250個+200個)×2kg=2,200kg

ということは、期末在庫は、3,400−2,200kg=1,200kgだ。

10/23に購入したのは1,500kgだから1,200kgの単価はこのときの単価である@2,252.5円であり、金額は@2,252.5円×1,200kg=2,703,000円だ。

よって、直接材料の消費金額は、7,778,750円−2,703,000円=5,075,750円

なお、ここでケアレスミスしやすい点としては、ロット#116の200個と#123-1の10個を算入してしまうことだ。#116は月初仕掛品であり、材料は始点投入だから先月に投入済みである。当月消費分に算入してはいけない。

また、#123-1は補修であり代品製作ではないので、材料は消費していない。まあ、引っかる人がいてもおかしくはない。

製造間接費(③の答え)

③の製造間接費は、資料Ⅱを読み取れますか?という問題。

正直なところ、製造現場とはいえ「研究開発費」と明言しているものを製造費用に算入してよいものか悩んだ。これ販管費じゃないの?

しかし「直接作業時間にもとづいてロット別に実際配賦している」と問題文に書かれているので、もう会計基準を度外視するしかない。この試験においては、基準より工簿の試験委員の方が偉いので、仕方ない。913,000円を製造間接費に算入する。

あと、製造関係の減価償却費が830,000円であり「直接作業時間にもとづいてロット別に実際配賦している」とあるので製造間接費に算入する。で、その他の水道光熱費とかは?と思ってくまなく問題文読んだけどどこにも書いてない。えっこれだけ?

なんかリアリティ設定したいんだかしたくないんだかよく分からない問題だなと思いつつ、913,000円+830,000円=1,743,000円とする。

実際配賦なので配賦率も計算してみる。第1工程と第2工程の直接作業時間の合計が830時間。配賦率は、1,743,000円÷830時間=2,100円/時間ときれいに割り切れた。よって、合っているのだろうと判断する。

指図書別製造原価計算表(④〜⑥の答え)

材料費、直接労務費、製造間接費、外注に関するコストを集計すればよい。いかにノーミスで集計できるか。
あえて言えば、材料費の集計が先入先出法なので若干面倒。次のような一覧表を作成して丁寧にやるといいだろう。

ロット数量(個数)数量(kg)単価金額
1211503002,300690,000
1223001002,300230,000
5002,3201160,000
1232004002,320928,000
1242505002,3201,160,000
1252001002,320232,000
3002,252.5675,750

あと案外忘れがちなのが製造間接費。普段、そんなミスしない人でも本試験の緊張でやらかす可能性がある。それから、さきにも書いたけど、#123-1は補修なので材料費は発生しない。このあたりだろうか。注意点は。以上より、正しく集計すると次のようになる。

ロット月初材料費第1工程第2工程製造間接費外注合計完成販売在庫
1161,200,000250,000210,000240,0001,900,000
121690,000100,000175,000252,000180,0001,397,000
1221,390,000200,000375,000525,000360,0002,850,000
123928,000140,000237,500346,500240,0001,892,000
123-137,50031,50069,000
1241,160,000160,000168,000300,0001,788,000
125907,750200,000210,0001,317,750
  • ④の製品完成高は、表の完成の箇所に◯が付いている金額を合計すればよい。
  • ⑤の売上原価は、表の販売の箇所に◯が付いている金額を合計すればよい。
  • ⑥の在庫金利は、表の在庫の箇所に◯が付いている金額の0.1%だ。

損益計算書(⑦・⑧の答え)

損益計算書を作成して、営業利益と売上高営業利益率を求める。

売上高:8,950,000円
売上原価:5,258,000円
その他費用:以下の合計で2,081,000円
 本社研究開発費1,200,000円
 減価償却費450,000円
 修理代金36,000円
 その他販管費392,150円
 在庫金利2,850円

以上より、
営業利益:8,950,000円−5,258,000円−2,081,000円=1,611,000円
営業利益率:1,611,000円÷8,950,000円=18%

問1の最後にひとこと

ちなみに、冒頭の材料費の計算でミスをすると(例えば内部副費の算入方法を間違えるとか)③の製造間接費を除いて全滅する。下手すると足切りだ。

いくら商業簿記、会計学、原価計算でがんばっても、それらで70点近く取れていても、この工業簿記のワンミスで、すべてムダになる。内部副費のワンミスって、そこまで過酷な罰を負わなければいけないほどの罪なのかねと思う。なので、この①〜⑧の配点は軽くなるんじゃないかと推察している。(というか軽くしないととんでもない合格率になってしまうので傾斜せざるを得ない)

問2 品質原価計算

一転して簡単な問題だ。理論問題だけど、語群から選択する問題。瞬殺だと思ったのだけど、うちの受講生(の中のかなり優秀と思っていた人)に聞いたら、出来なかったという。

「戦略的原価計算」の「品質原価計算」のチャプターで、PAFアプローチの分類方法っていうのを授業でやったはずなのに…と思ったけど、実は個別原価計算と品質原価計算は別の論点であり、仕損はいわゆる失敗原価であるっていう点とつながっていないのかもしれないと思った。

いわゆる、品質原価計算は、大きく分けて品質に適合させるためのコスト(予防原価、評価原価)と適合しなかったゆえに発生してしまうコスト(失敗原価)があるよってことを、もっと大きな視点から説明すべきだった。反省。

そういう意味では良問だと思う。

あと、失敗原価は目に見えるコストだけじゃなくて、そのせいで企業の評判が落ちて売れなくなってしまう(品質が悪くなければもっと売れたのに…)ことで失う利益を機会原価として算入する考え方もある。

特に日本はこの傾向が強くて、この機会原価を高く見積りがちだ。そのため、失敗原価を極力ゼロに近づけようという「ゼロ・ディフェクト」戦略がとられることがある。これは現場での改善活動が主体で「QCサークル」とよく似ている。

今回、機会原価を問うてきているということで、次はこの「ゼロ・ディフェクト」「QCサークル」あたりが出てもおかしくないかも。

問3 品質原価計算の例

失敗原価って具体的に何よ?っていう問題。

なんというか。知っている人は瞬殺。知らない人はいくら考えても分からないという問題。まあ◯×なので、テキトーに解答しても50%の確率だけど。

アの検査費用は「評価原価」だから×。

イの売上値引は微妙。なぜ値引いたのか、それが問題。品質的な瑕疵のせいなら失敗原価。現実にはそれ以外もあると思うのだけど…。まあこれは◯でしょう。

ウの製造工程技術は「予防原価」なので×。

エの得意先がライバル企業に切り替えたことによる損失額っていうのも、その理由が問題であって、それが品質に起因するなら失敗原価でしょう。よって◯。現実には、それ以外かもしれないけど、まあ、先の「機会原価」の具体例ってことなんでしょうね。

147回日商簿記1級・詳細解説【工業簿記編】” に対して1件のコメントがあります。

  1. nagisa より:

    今回の先生のおっしゃる通り、問題を問いている際「Excelがあれば集計ぐらいすぐにできるのに…」と何度思ったことか…。
    ただ、123-1の補修費に材料費を集計してしまい(材料を10個20kg使って補修したのかと思ってしまいました。)、最終的に営業利益率が綺麗な数字にならなくて本試験中の時点でかなり凹みました。
    集計時間が短縮できたところで、補修費に材料費を集計しないということを全く意識していなかったので問題は時間ではなかったな。と反省です。(あとは出来てだけに余計悔しい!)

    今回の試験を受けて改めて、問題文を読み取る力、何を問われているかは勿論ですが、ここを引っかけたかった
    んだろうな。と出題者の意図を読み取ろうする意識も必要ではないのかと思わされた試験でした。

    何はともあれ悔しいです(笑)

    1. pro-boki より:

      114回でも似たような引掛けがありました。ですから、114回を解いた経験がある方は有利だったでしょうね。そういう意味では、3〜4年学習を続けているベテランの方には有利だったかもしれません。

      まあ、補修費に材料費を集計しない、というのは「そこ、代品製作じゃなくて補修だから注意してね」と言われれば誰でも気付くでしょうけど、緊張の中、限られた時間内で、初見で解いて引っ掛かったとしても仕方ない気がします。

      こういう問題があまり良くないなぁと思うのは、あまり勉強してこないで個別原価計算をろくに分かっていない人も、しっかり本質を理解していて、単にケアレスミスでワンミスした人も、同等に扱われてしまうことですね。

      入学試験とか入社試験なら構わないと思うんですよ。だって、そういう人(煩雑な計算をノーミスで処理出来る人)を取りたいんでしょ?だから、そういう問題を出す。大学とか企業がそういう人を取りたくて、そういう問題を出すのは自由です。勝手にやればいい。私だったらそういう企業はこちらから願い下げですが。

      しかし、日商簿記は公共性のある”検定試験”です。そこに違和感を覚えるのですよ。

      とはいえ、まあ、文句を言っていてもはじまりませんから、それを含めて対策立てて合格するしかないですね。毎回、こんなんじゃないですしね。

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