150回日商簿記1級・詳細解説【工業簿記編】

感想

正直、問題に対して批判的なことを書くのはあまりいいことでは無いのは理解しているのですが、本問については少し残念に思うところがあります。

コンピュータどころかAIがこれからの時代を担うかもしれないという現代。我々は今後どのようなスキルを磨いていくべきなのか。そんな時代に、この問題?と思いました。受験生のいったい何を検定したいのか。

本問、論点的には2、3級レベルです。例えば材料費の計算は単なる先入先出法ですから論点的には3級です。 しかし計算が煩雑です。難しいとかではなくてただ面倒。 表計算ソフトでも使えば一瞬で終わることを手計算で処理(いまどきそんなことをしている企業は皆無でしょう)する問題です。

それをいかに時間内にノーミスで行えるか。1級というのはそういう能力を検定する試験だったのでしょうか。残念だなと思いました。

なお、検査点を工程の中間点と終了点に設けて、そこでの検査数量を把握させるなど良質な論点もあるのです。ここが分かっていない方は、2級からやり直しです。良い論点だと思います。しかしこのような出題の仕方ではせっかくの良質論点も台無しかなとも思います。

なお、本問で、そもそも問題文が読み取れなかった方は、まずいです。出題のされ方が典型パターンではありませんでしたが、レベル的には2級です。読み取りに苦労された方は、勉強の仕方を見直しましょう。

計算方法はわかっているけど、計算ミスをした方は残念でした。 現試験委員は、出題パターンに強い癖があります。 本質うんぬんよりも、この先生特有の出題パターンを知ったうえでの解法テクニックを知った方が合格に近づけます。 対策を取る必要があります。

問題概要

2級レベルの単純総合原価計算です。ただし、材料費の計算が煩雑です。また、製造間接費の計算も面倒です。エクセルなら1行式書いてコピーするだけの秒殺作業ですが、手計算するとなると面倒です。これらの集計をいかにノーミスで出来たか、それが全てです。問題としては極めて簡単でした。

しかし、読み取りにくい問題表現、煩雑な計算、本試験での緊張で要求されるノーミスなどを考えると、実際に得点するのは少なからず難しかったかもしれません。

問1 材料費の計算

資料2の①と②から次のような一覧を作成して集計します。

日付 数量 単価(代価) 付随費用 金額 単価(原価)
前月繰越 100 500 0 50,000 500
12月3日 15,000 480 120,000 7,320,000 488
12月7日 6,000 500 54,000 3,054,000 509
12月13日 6,000 500 54,000 3,054,000 509
12月18日 15,000 490 120,000 7,470,000 498
合計 42,100     20,948,000  

 

  • 当月材料仕入高は、12月3日から12月18日までの金額を合計するだけです。20,898,000
  • 材料消費高は、上記合計金額から月末在庫金額を控除して求めます。
  • 前月繰越および当月仕入合計42,100kgに対して、出庫量合計が42,000kg(=5,000kg+10,000kg+5,000kg+5,000kg+10,000kg+7,000kg)なので月末に100kg(=42,100kg−42,000kg)の在庫があります。先入先出法ですから、この100kgの単価は12月18日の@498円を適用します。
  • よって、材料消費高:20,948,000円−@498×100kg=20,898,200

問2 単純総合原価計算における正常仕損費

ここからが本番です。

生産データの作成

  • 製品A
月初
(材)0個
(加)0個
完成
2,000個
(うち100個が正常仕損)
当月投入
(材)2,500個
(加)2,400個
月末
(材)500個
(加)400個
  • 製品B
月初
(材)100個
(加)80個
完成
2,000個
当月投入
(材)2,000個
(加)1,960個
月末
(材)100個
(加)40個

当月投入費用の計算

材料費

先入先出法によって、出庫金額を算定します。難しくはありませんが面倒です。以下はエクセルで表を作成していますので一瞬で出来ていますが、手計算ではかなり神経を使うことでしょう。(私自身、本試験中、繰り返し見直しました。)

  単価 出庫 在庫 出庫額
A 12/1 500 100 0 50,000
12/3 488 4,900 10,100 2,391,200
B 12/3 488 10,000 100 4,880,000
A 12/3 488 100 0 48,800
12/7 509 4,900 1,100 2,494,100
A 12/7 509 1,100 0 559,900
12/13 509 3,900 2,100 1,985,100
B 12/13 509 2,100 0 1,068,900
12/18 498 7,900 7,100 3,934,200
A 12/18 498 7,000 100 3,486,000

 

  • 上記のAの合計:11,015,100円
  • 上記のBの合計:9,883,100円
直接労務費
  • A:@1,500円×1,500時間=2,250,000円
  • B:@1,500円×1,200時間=1,800,000円
製造間接費

資料3にもとづいて活動にプールされたコストをAとBに配賦します。こちらもエクセルで表を作成していますので一瞬で出来ていますが、手計算ではやや神経を使うことでしょう。(材料費ほどではありませんが)

  金額 配賦基準総量 Aの配賦基準 Bの配賦基準 Aの配賦額 Bの配賦額
マテハン 32,260,000 500 40 20 2,580,800 1,290,400
機械作業 3,500,000 7,000 2,440 976 1,220,000 488,000
段取 1,000,000 500 125 50 250,000 100,000
中間品検査 10,000,000 12,500 ①2,500 ③1,900 2,000,000 1,520,000
完了品検査 12,000,000 12,500 ②2,000 ④2,000 1,920,000 1,920,000
設備関連 18,002,400 600 50 50 1,500,200 1,500,200
合計         ⑤9,471,000 ⑥6,818,600
  • ①Aの中間品検査は、完成品2,000個+月末仕掛品(80%なので中間検査済み)500個=2,500個
  • ②Aの完了品検査は、完成品2,000個
  • ③Bの中間品検査は、完成品2,000個−月初仕掛品(80%なので前月に中間検査済み)100個=1,900個
  • ④Bの完了品検査は、完成品2,000個

製品Aの正常仕損費の計算

あとは単なる単純総合原価計算(原価配分方法:先入先出法)です。

月初
(材)0個
(加)0個
完成
2,000個(c.18,579,580円)
(うち100個が正常仕損)
当月投入
(材)2,500個(11,015,100円)
(加)2,400個(2,250,000円+9,471,000円)
月末
(材)500個(a.2,203,020円)
(加)400個(b.1,953,500円)
  • a.11,015,100円÷2,500個×500個=2,203,020円
  • b.(2,250,000円+9,471,000円)÷2,400個×400個=1,953,500円
  • c.貸借差額より

さて、完成品原価18,579,580円(2,000個)のうち100個が正常仕損です。かつ、廃棄に11,420円かかっています。よって、正常仕損費は、以下のとおりです。

18,579,580円÷2,000個×100個+11,420円=940,399円

問4 売上総利益

問4では、上記問2の①から⑥までが問われています。また、それ以外に製品Aと製品Bの売上総利益が問われています。

製品Aの売上総利益

  • 売上:@15,000円×1,900個=28,500,000円
  • 売上原価:18,579,580円+11,420円=18,591,000円
  • 売上総利益:28,500,000円−18,591,000円=9,909,000

製品Bの売上総利益

まず売上原価を算定します。

月初
(材)100個(494,200円)
(加)80個(374,145円)
完成
2,000個(c.18,700,000円)

当月投入
(材)2,000個(9,883,100円)
(加)1,960個(1,800,000円+6,818,600円)
月末
(材)100個(a.494,155円)
(加)40個(b.175,890円)
  • a.9,883,100円÷2,000個×100個=494,155円
  • b.(1,800,000円+6,818,600円)÷1,960個×40個=175,890円
  • c.貸借差額より
  • 売上:@15,000円×2,000個=30,000,000円
  • 売上原価:18,700,000円
  • 売上総利益:30,000,000円−18,700,000円=11,300,000

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150回日商簿記1級・詳細解説【工業簿記編】” に対して1件のコメントがあります。

  1. 田中 より:

    度々すみません。過去問学習を心がけたせいか、今回の工業簿記の論点も問一のみしかできませんでした。勉強の方法を変えた方がいいとありますが、初見の問題を読み取るためには教科書の例題を完璧にして、過去問学習にうつる。その過程で基本書での、理解を心がけて本質から理解するということでしょうか。以前ご紹介されてた本を参考にしようと考えています。

    1. pro-boki より:

      >初見の問題を読み取るためには教科書の例題を完璧にして、過去問学習にうつる。その過程で基本書での、理解を心がけて本質から理解するということでしょうか。

      他の方のコメントにも書いたのですが、極論すれば、工原は、とりあえずは解けなくてもいいのです。計算なんて後回しでいいんです。ただし、「この計算は何のために行われているのか」「その背景にある考え方は何か」「なぜ、そのように計算するのか?他の方法ではまずいのか?」といったことを説明できるようなレベルになることが大事なんです。
      そうなると、問題文の読み取りも出来るようになりますし、計算も自然と出来るようになります。

      じゃあ、それはどうやると出来るようになるかと言えば…。まずは、考えることですよね。テキストにやり方が書いてあるからそれを覚えちゃおうじゃなくて、なんでこういうふうにやるんだろう?他のやり方じゃなんでいけないんだろう?ってことを考えることです。で、「あ、そうか、そういうことか」と分かった感覚(腹落ち感)を得るまで頑張るんです。踏ん張るんです。もちろん人に聞いてもOKです。とにかく答えを合わせるより、腹落ち感を得ることを優先する。これが勉強方法を変えるという意味です。

  2. 兄個人丸 より:

    いつもすっきりした講評に関心しています。60才を越えてから簿記に挑戦し始め、独学に拘っているためか、
    なかなか1級に合格することができていません。今回、工業簿記で、はまってしまった点が2点あります。
    一つ目は、材料の価格が時系列となっていて、先入先出法だったので、月末仕掛品に使われた材料も、
    12月18日に購入され、12月21日に投入された材料が使われているはずと考えてしまったことです。
    ところが、仕損品は何時発生したか記載がない。ということは、どの日に投入された材料かわからない。
    となってしまい混乱してしまいました。
    二つ目は、製造間接費の配賦に関してです。中間品検査、完了品検査に関して、月末仕掛品Aは完了品検査を
    していないし、月末仕掛品Bは中間検査も完了品検査もしていません。ですから、月末仕掛品は、
    製造間接費からこれらの部分を除いて計算しなくてはならないのではと考えてしまいました。
    そうして計算してみると、割り切れない数値が頻出し、きっと間違っていると思いながら、
    時間もなくなって、なんともならなかったという感じでした。

    1. pro-boki より:

      なるほどですね。お気持ちは少し分かります。ただし、根源的な箇所で勘違いをされています。
      説明が難しいのですが…。

      まず、先入先出法というのは、あくまでも原価配分計算をするための”仮定”にすぎない、ということはご理解されていますか?棚卸資産の単価を計算をするうえで、何かしらのルールを設定しないと計算できないから、「先入先出法」とか「平均法」という仮定があるのです。
      本問は、総合原価計算ですから、実際のモノの流れと材料費の計算における先入先出法は無関係なのです。この意味、ご理解できますでしょうか。(わかりにくいかもしれません。)
      ちなみに、この原価の配分とモノ流れにおける関係性を出来うる限り紐付ける計算方法もあります。それが個別原価計算です。もし、本問が個別原価計算であれば、仕損がどの製造指図書から発生したのか、そしてその製造指図書にはどの材料が使われたのか、その材料の単価はいくらか、といったモノの流れを追った計算が必要です。
      このあたりは、工業簿記の根源的な考え方の部分です。ただ、テキストなんかでは詳しく書かれていないので難しいかもしれませんね。

  3. わーさん より:

    日商簿記1級150回を受けたものです。
    工業簿記に関して質問です。
    私は製品Aの売上総利益を求める際、廃棄費用を正常仕損とみなさず売上原価を出し売上総利益を求めたのですがこの問題は別解として加点されたりはしませんでしょうか?

    1. pro-boki より:

      日商の採点基準は公開されていませんので、あくまでも個人的な推測になってしまうことをご承知おきください。
      そのうえで残念ながら別解とは認められないと思います。

      理由は以下のとおりです。

      別解として認められるためには、この廃棄コストに原価性がないことが読み取れないといけません。

      原価性の判断基準は、原価計算基準の第5項に記載があります。
      それによれば、ざっくりですが、経営(=製造、販売)に関連しないこと、異常な状態で発生した場合が非原価項目であると書かれています。

      この廃棄コストは製造に関連していますからその点で原価性があります。
      問題なのは異常な状態で発生したものかどうかです。
      問題文にその点については何も記載がありませんが、何も記載がないということは、とりたてて異常な状態ではなかったのだろうと読み取るべきだと思います。よって、これを非原価項目とし、売上原価に算入しないという判断は不正解とされると思います。

  4. 兄個人丸 より:

    兄個人丸です。コメントありがとうございました。
    根本的なところで勘違いしているというご指摘は、その通りだなあと思います。
    総合原価計算での先入先出法などは、あくまで仮定だという点は、
    まだ腑に落ちるというところまでは至っていませんが、
    個別原価計算との比較で説明された点は、よくわかりました。

    年を取ってから簿記を勉強し始めたためか、よく簿記の語句や文章の意味を、
    自分の経験などから、勝手に取り違えることがあります。
    そういう意味では、未だに”総合”の意味をうまく把握できていないと思います。
    他の例で言うと、”直接”原価計算で変動”間接”費が含まれるという点なども、
    今は理解できていると思いますが、当初は非常に不合理と感じました。
    なぜ、直接原価計算と言うかな、変動費原価計算という方が分かりやすいよなとか。
    どうも、会計、簿記の用語は、一般的な用語と解釈されるような語句で、
    特別な意味を持たせてある様な気がしていて、そういった点の理解で
    躓いているような気もしています。
    本質的な点をちゃんと学習していないことが原因ではないかと思っています。
    学習方法については、よく考えてみます。
    コメントありがとうございました。返信は、特に、必要ありません。

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