ミニ講義・標準原価計算(パーシャル・プランとシングル・プラン)

なぜいくつもの記帳方法があるのか

標準原価計算には、複数の記帳方法があります。2級で学習するのはパーシャル・プランとシングル・プラン、1級になるとこれに修正パーシャル・プランが加わります。また、この他に材料受入価格差異という論点も絡んできて、結構複雑です。

これらをパターン暗記しようとすると辛くなってきます。「あれ?修正パーシャルプランのときって製造間接費の差異はどこに書くんだっけ?」みたいな感じで、混乱するのです。

そもそも、なぜ、このようにいくつもの記帳方法があるのでしょうか?それぞれの記帳方法のメリットとデメリットは何なのでしょうか。記帳方法は、このあたりの理由が腹落ちしてくると、自然と覚えてしまうものです。

標準原価計算の記帳方法と責任会計について講義を行いましたので、そのときに使用した講義スライドの一部をブログ記事用に編集し公開します。


 

差異の意味と責任

問題

以下の差異は誰に責任があるのでしょうか?

  1. 材料費価格差異、材料費消費量差異
  2. 賃率差異、作業時間差異
  3. 製造間接費予算差異、能率差異、操業度差異

解答

   経営
管理
人事
部門
購買
部門
営業
部門
工場
部門
直接材料費 価格差異      
数量差異          
直接労務費 賃率差異      
作業時間差異          
製造間接費 予算差異        
能率差異          
操業度差異      

◎…もっとも責任がある ◯…責任がある △…若干の責任があるもしくは影響がある

解説

工場における差異分析はそもそも何のために行っているのでしょうか。これは、端的に言えば能率管理と業績評価のために行っています。つまり、管理者が作業のムリ・ムダ・ムラをチェックし、業績評価を通じて改善を促し、今後の効率的な経営につなげていくのです。こう書くと何か難しそうですが、ざっくり言えば、上司が部下の仕事ぶりを見て、叱咤激励しつつ、能率悪いことしていたら改善をうながす、というイメージで捉えればいいでしょう。

さて、この差異というのは、大きく分けて率の差異(価格差異、賃率差異、予算差異)と数量の差異(数量差異、作業時間差異、能率差異)の2種類に分けられます。(なお、操業度差異は少し特殊な差異で、どちらにも分類されません。これはちょっと脇においておきます。)

ここで、大事なことは、率の差異は、一般に工場では管理出来ないということです。例えば原料の価格差異をイメージしてください。これは購入する部署の責任です。一般に原料の購買業務は、資材調達部や購買部の管理下にあるわけで工場の管理下ではありません。

また賃率差異も同様です。工員を雇用するさいのベースとなる給与は、一般に会社の方針として決まっているはずです。そして、最終的には採用時に人事部が決定します。これが、景気動向によって(人材不足や人余りが生じて)は予定通りにいかないことも考えられます。価格差異は、このような理由で発生します。いずれにしても、工場の責任ではありません。

ただし、賃率の低い新人でも出来るような仕事を、賃率の高いベテランにやらせた場合、賃率差異が生じます。これは工場に責任があります。ですから「率の差異は、100%工場に責任がない」とは言い切れません。場合によっては管理可能ですし責任もあります。

こういったことを勘案すると、差異と責任の関係は、上記のような表になります。特に大切なのは、◎のついている箇所です。数量差異は工場にとってとても大切なのです。例えば、材料消費量差異は運搬中にこぼしたり仕損によって発生します。この原因を分析し今後の活動に活かせば、将来のコスト削減につながるからです。

記帳方法と責任会計

問題

パーシャル・プランと関係が深いのは、次のどれでしょうか?
 個別原価計算  総合原価計算
 全部原価計算  直接原価計算

シングル・プランと関係が深いのは、次のどれでしょうか?
 個別原価計算  総合原価計算
 全部原価計算  直接原価計算

解答

パーシャル・プランは総合原価計算と、シングル・プランは個別原価計算と強く結びついています。

解説

そもそも差異は、早く把握できるのなら、それに越したことはありません。より早く改善のための対策を打てるわけですから当然です。ですから、製品が完成したあとにようやく差異が把握できるよりも、製造のために倉庫から材料を出庫した時点で差異が把握できれば、その方が優れているわけです。

では、倉庫係に言いつけて、出庫のたびに差異を把握すればいいじゃないかとも思われますが、そうも簡単ではないのです。というのも差異を把握するには「本来はこれだけの消費量で済むはずだ(標準消費量)」と「実際にはこれだけ消費(出庫)してしまった」という2つの情報が必要だからです。倉庫係が前者の情報を持っていなければ差異を把握しようがありません。

ここで、総合原価計算を考えてみましょう。総合原価計算は、一般に連続して生産を続けています。ですから、どこかで期間を区切って完成品や仕掛品の量を計測しないと、どの材料をどれだけ消費すべきだったのかが把握出来ません。つまり倉庫からの出庫時点では差異は把握できないのです。では、いつ把握出来るかと言えば、それは仕掛品勘定が確定したときです。

一方で、個別原価計算はどうでしょうか。個別原価計算には「製造指図書」という、製品を作るための仕様書のようなものが存在しています。つまり、どの材料をどれだけ消費すべきかということが明確に記されているのです。この「製造指図書」にもとづいて、倉庫から出庫するわけですから、完成しなくても、差異は把握出来るのです。つまり、材料勘定が確定すれば、もう差異は把握できるのです。

お分かりでしょうか。パーシャル・プランとは、差異を仕掛品勘定で把握する方法であり、シングル・プランとは各費目の勘定(材料費勘定や労務費勘定)などで差異を把握する方法です。これは、工場が適当に選んでいるわけではなく、その生産形態に応じて選んでいるのです。

上記の理由から一般に、個別原価計算を採用している工場はシングル・プランで、総合原価計算を採用している工場はパーシャルプランで記帳しています。ただし、これは絶対的なルールではありません。たとえば個別原価計算を採用していても、パーシャル・プランで記帳することは可能です。差異にそれほど重要性がなく、毎回、倉庫で記帳する手間が負担なら、そういうこともあるでしょう。ですから「強く結びついている」という表現を使っています。

修正パーシャル・プランとは

問題

なぜ修正パーシャル・プランがあるのでしょうか?

解答・解説

仕掛品勘定には、工場が何をどれだけ消費しどれだけ製造したのかが、記されています。これ、見方によっては、工場の成績表のようなものです。ということは、仕掛品勘定に不利差異があると、工場の責任のようにも見えてしまうのです。
先にも解説しましたが、率の差異(価格差異や賃率差異)は工場では管理不能であり、責任がありません。ですから、このような率の差異は、仕掛品勘定には載せたくないのです。

そこで、率の差異だけは、各費目の勘定(材料費勘定や労務費勘定)で把握し、数量の差異だけ仕掛品勘定で把握しようという記帳方法が考えられたのです。これが修正パーシャル・プランです。

つまり、責任の所在と帳簿の記載を一致させるために、修正パーシャル・プランがあるわけです。


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