第164回日商簿記1級本試験・レビュー【工原編】

今回、第164回の工原の試験内容について講評および解説を執筆しようとしているのですが、そもそも問題自体に不適切な点が多すぎて戸惑っています。

今回の問題は、工業簿記、原価計算ともに(理論問題を除き)ほぼ簿記2級の学習内容だけで解ける問題でした。まさに時間を掛けて簿記1級の勉学に励んだものが馬鹿を見るという試験であり、まことに不適切だと考えます。

試験委員の方は各級の出題範囲をご理解されていないのでしょうか。今一度、日本商工会議所にご確認されてはいかがでしょうか。それとも簿記2級の作問を依頼されたと勘違いされたのでしょうか。

また、試験時間が90分の試験であるにもかかわらず30分未満で終わってしまうようなボリュームでした。途中退出者が多数出ている現状をどうお考えなのでしょうか。こちらも今一度、日本商工会議所に試験時間をご確認されてはいかがでしょうか。

さらに、工業簿記では直接原価計算と全部原価計算が、原価計算では総合原価計算が問われていました。科目と出題内容が逆のようです。今一度、試験科目の内容をご確認されてはいかがでしょうか。

本問は、問題としての難易度、ボリュームともに簿記1級の問題とは言えず、これでは受験生の実力など測定できません。

また、相変わらずの指示不足がありました。

原価計算・第2問・問1で正常仕損費と異常仕損費を問うていますが、これは、正常仕損費を配賦したあとの金額が問われているのでしょうか、それとも配賦前ですか?指示不足です。

問3で完成品原価と月末仕掛品原価が問われており、ここでは明確に「仕損費を考慮したあとの金額」と指示されています。一方、問1では指示がありません。この点から、配賦させたいときは、わざわざ指示をしているので、問1のように指示がないなら配賦しなくて良いのだろうと判断をした受験生も少なくありません。

一方で、注意書きの(1)に「異常仕損品にも正常仕損費等の負担を考えること」という記載があります。この点からは配賦後の金額が求められているとも読み取れます。

結局のところ、問1の正常仕損費と異常仕損費は、正常仕損費配賦前の金額が求められているのですか?配賦後ですか?どちらともとれます。

配賦前なら、正常仕損費は6,076円、異常仕損費は5,444円です。
配賦後なら、正常仕損費は0円、異常仕損費は5,500円です。

各スクールは、空気を読んで「0円を答えさせることは意図していないだろう。だから正常仕損費は配賦前の6,076円だ。一方で、異常仕損費については、注意書きの(1)に指示があるのだから配賦後の金額を答えさせたいのだろう。だから5,500円だ」という方針で解答されているようです。

確かに1つの見解ではありますが、あくまでも雰囲気と空気を読んでそう解釈されているだけです。解答が0なのはおかしいよねとか、注意書き(1)が問1よりも前に書かれているから反映しておいたほうが安全だよね、程度の根拠です。理論的な根拠があるわけではありません。

明確な指示が無いがゆえに、受験生は問題の本質とはかけ離れた空気の読み取りに労力を消費することになります。いったい何を検定しているのですか。これは簿記1級の試験ではないのですか?

試験難易度が2級レベルになってしまっていることも、ボリュームが極端に少なすぎることも、工簿と原計が逆になってしまっていることも、指示不足があることも、いずれも校閲および校正を行えば容易に判明することです。校閲や校正すらも行わずに1万人を超える受験生に対してこのような問題を出されているのでしょうか。

本問について、受講生から多数のご質問を頂いておりますが、正直なところ議論に値する問題とは思えませんのでお答えは控えたいと思います。

全経上級でも過去に作問上のトラブルが発生したことがあります。この点について、協会の方がお詫びされて試験委員が変更になりました。その後の全経上級の問題は良問です。受験生に対する誠意を感じます。良い試験です。みなさん受験を検討されてください。これは、全経上級の役員の方が簿記会計に精通されており、また、簿記会計の教育についても学会などで真摯に議論をされておられるからだと思います。

ぜひ、日本商工会議所におかれましても、現状を把握いただき善処されることを切に望みます。

第164回日商簿記1級本試験・レビュー【工原編】” に対して6件のコメントがあります。

  1. まさゆき より:

    かつて先生にお世話になり、第158回の1級に合格した元プロ簿記生です。
    先生のレビューを拝見させていただき、工原は相変わらずのようですね。試験は運も必要だと思いますが、受験生の努力がきちんと身を結ぶような問題であってほしいと改めて思いました。
    私が受験した第158回の問題もかなり不備があり、出題者の意図は何なのだろうと考えながら解いていたことを思い出しました。あの時は運が良かったのかな、と今でも思います。
    お身体、お大事になさってくださいね。

    1. pro-boki より:

      こんにちは。ご無沙汰です。
      お元気ですか。

      どんな問題でも構いませんが、誠意が感じられる問題だと嬉しいのですけどね。

      やっつけ仕事というか、試験に対しても受験生に対してもリスペクトが感じられない問題が続いています。受験生がどれほどの時間を掛けて努力されているかを見てきているだけに、このような出題が続いていること本当に残念です。私の感性の問題かもしれませんが。

      コメント、ありがとうございました。

    2. まさゆき より:

      富久田先生、お返事ありがとうございます。
      私は、幸い元気にしています。
      私事ですが、8月に税理士試験の簿記論、財務諸表論、消費税法を受験する予定です。
      3科目とも初日なので、まずは無事に受験出来るよう頑張ります。
      消費税法の理論暗記に手こずり、簿記論はぶっつけ本番で挑みますが、プロ簿記で鍛えていただいた現場対応力を発揮して頑張ります。

  2. masabon より:

    以前、貴スクールでお世話になりましたmasabonです。
    今更ながらのお尋ねなのですが、原価計算の第2問の問1、正常仕損費と異常仕損費の解答をそれぞれ6,076円と5,444円としました。
    正常仕損費はともかく、異常仕損費は各専門学校の模範解答は5,500円が殆どで、大原簿記のみが別解を記載していました。
    私は5,444円と自信を持って解答した(配賦前)のですが、配点はあるでしょうか。
    よろしくお願いします。

    1. pro-boki より:

      これは分からないです。指示不足の問題ですから正答が何かを論じること自体に意味が無いように思えます。また、配点があるかとのことですが、試験後に大幅な調整が行われているようですからなおさら分からないです。

      済んだことは過去原価。ましてや我々には管理不能なことですから忘れて前を向くのが吉かと。

  3. masabon より:

    ご返信、ありがとうございました。
    そうですね。先生がいつも仰る通りです。
    合格発表日を待ちたいと思います。

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