簿記の小噺・総合原価計算 〜財布を忘れた彼女〜

総合原価計算の度外視法の小噺

今回は、簿記2級の工業簿記で学習する総合原価計算の度外視法をテーマにした小噺だ。「度外視法」って言葉がとっつきにくいよね。何となく計算方法は知っているけど、これはいったい何をしているの?と。そんな人に読んで欲しい。

財布を忘れた彼女のはなし

この前、飲み会でひどい目にあったよ。
ん?どうした?
先輩(男)とマネージャ(女)と俺の3人で飲みに行ったんだよね。
うん。
で、会計になってさ、マネージャが財布忘れたっていうんだよ。あれだけ飲んでだよ。
ん、まあ、飲んだ量と財布忘れたのは関係ないと思うけど。
で「お金貸しましょうか」って言ったら、先輩が「いやいやマネージャには普段からお世話になっている。今日くらい俺とお前でおごろう」って言うんだよ…
なるほど。
ま、それもそうかなって思って3人分の9,000円を俺と先輩の2人で払ったんだ。
度外視法だね。
ん?度外視法って、あの総合原価計算の仕損の計算で使うやつ?
そう。だって、本当は3人で払うところを、彼女さんはいないことにして2人で負担したんでしょ。だから度外視法。
ああ、なるほどね。
それで怒ってるの?別に怒るほどのことでもないと思うけど。
違うよ。その後、知ったんだけど、先輩とマネージャって付き合ってるらしいんだよ。
あらら。それはそれは。
だったら、先輩が彼女の分くらい全額負担するべきじゃない?
確かに、これは完成品が仕損費全額を負担すべきパターンだね。
でしょー。って、おい、俺は仕掛品か。
まあまあ。 
しかも、俺もマネージャのこと… 
おおお。それはそれは。

度外視法

日商簿記2級の工業簿記で登場する総合原価計算の仕損の処理。度外視法を学ぶはずだ。たぶん、初学者のほとんどの人がつまずく箇所だろう。そもそも言葉が悪い。普段、「度外視」って言葉使う?「その問題は度外視します」って言う?言わないよね。だからとっつきにくい。

でも、この度外視法、実務では普通の処理だったりする。この会話文もそうだけど、日常でもよく起きる。たとえば、私が以前、写真屋さんを経営していたときのこと。実は出荷量の3%くらいはロスになる。検品をして色や濃度が出荷基準に満たないとそれを弾く。だから「今日の出荷量は1,000枚だった」といっても、実際には1,030枚プリントしていたなんてことはよくあることだ。

で、仮に今日消費した印画紙と現像液代が1万円だったとしよう。このとき、いちいち「実際には1,030枚プリントしたから、1枚あたりの原価は約9.7円で…」なんて考えない。1万円の原価で1,000枚出荷したから1枚の原価は10円だ、って考える。その方が普通でしょ。

これって実は無意識に度外視法で原価計算しているんだ。だって、30枚のロス分を無視して計算しているじゃない。このように計算簡略化のためにロスを無視する計算方法を度外視法って言う。言葉はとっつきにくいけど、そんなに難しく考える必要はないんだよね。

非度外視法

ロスを無視しない方法もある?って思うよね。もちろんある。これを「非度外視法」という。ロスに掛かったコストを計算して、完成品や仕掛品に負担させる方法だ。

この会話文で言えば、仕損費に相当するのはマネージャの飲み代3,000円。それを先輩と後輩で負担する、という考え方が非度外視法だ。つまり、先輩と後輩、それぞれ自分の飲み代3,000円に加えて、マネージャの飲み代3,000円の半分1,500円を負担するわけだ。結局1人の支払いは4,500円。これが、非度外視法。

一方、最初から合計額9,000円を先輩と後輩の2人で分けて1人4,500円とするのが度外視法だ。

非度外視法と度外視法の意味、理解できただろうか?ちなみに日商簿記2級では度外視法しか出てこない。非度外視法は日商簿記1級で登場する。

ちょっと余談

ところで「非度外視法」っておかしな言葉だと思わない?度外視って無視するって意味でしょ、それに「非」をつけて「しない」という意味にする。結局「無視しない」ってこと。それって、何も言っていないのと同じような気が…

余談だけど、春の七草にオニタビラコという草がある(別名ホトケノザ)。「タビラコ」は田平子って書くんだけどこれの大きいのを「オニタビラコ」って言う。「オニ」っていうのは大きいって意味ね。そして「オニタビラコ」の小さめのサイズがあってこれを「コオニタビラコ」って言う。「コ」は小さいって意味。・・・ってそれ「タビラコ」と同じだよね。非度外視法って言葉聞くと、いつもこのこと思い出す。

オニタビラコ(春先で至る所で咲いている)

総合原価計算の仕損の処理

この会話文では、マネージャの飲み代を誰が負担するか、という話で、結局、先輩の彼女なら、先輩が負担すべきだ、というオチにしている。これ、仕掛品勘定で言えば、マネージャの飲み代が「仕損費」、先輩が「完成品」で後輩が「仕掛品」だ。

そして、度外視法を採用すると、自動的に、先輩と後輩がマネージャの飲み代を負担することになる。つまり、度外視法っていうのは、基本的に「完成品」と「仕掛品」の両方に自動的に仕損費を負担させる方法だ。

ただし、例外があって、これは、どうみても完成品だけが負担すべきだろうっていう場合は、完成品だけに負担させることも可能だ。この会話文では、マネージャと先輩が付き合っているなら、先輩が負担すべきだろう、っていう話だ。

工業簿記では「完成品だけが負担すべきだ」という判断を、加工進捗度で判断する。仕掛品の加工進捗度が仕損発生点よりも手前なら負担義務はない。後ろなら負担義務がある。完成品は加工進捗度100%だから、必ず負担する、という感じ。

こんな風に、工業簿記は、単に計算方法を覚えるのではなくて、日常のイメージとあわせて勉強していこう。


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