149回日商簿記1級・詳細解説【工業簿記編】

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感想

個人的にはいい問題だなあと思いました。こういうオリジナリティのある問題を作ってみたいもんだなとも。ただしそれは練習用とか学習用としてであって、検定試験という観点では、ちょっと疑問も感じました。それは、連鎖がひどいからです。ミスをするとそれ以降の問題はほぼ全滅です。そういう意味で、実力測定を意義とする検定試験には合わないなと感じる部分もありました。しかし、それを差し引いても良い問題でした。

問題概要

一見すると本社工場会計をテーマにしているようですが、そこが主論点ではありません。本問は、標準原価計算ベースの勘定分析問題(推定問題)です。この点で140回の過去問に極めてよく似ています。多分、同じ作問者でしょう。140回はちょっとクセが強すぎて難ありの問題でしたが、本問は難易度、分量、解き味ともにほど良かったと思います。

問1 標準原価(原価標準)の計算

いきなりのサービス問題です。ここで落とすと、点数もさることながら、この後の設問にも連鎖しますので致命的でしょう。

  単価 数量 金額
直接材料費 4,000 0.2 800
直接労務費 2,000 0.3 600
製造間接費 4,000 0.3 1,200
      2,600
  • 月間製造間接費予算2,480,000円÷正常直接作業時間620時間=@4,000円。なお、@4,000円のうち固定費分は@2,400円(=1,488,000円÷620時間)、変動費分は@1,600円。

問2 直接材料の実際消費量および実際直接作業時間の推定

ここからが本番です。通常の標準原価計算は、実際消費量が判明していて、そこから標準原価差異を求めますが、本問はその逆で、標準原価差異が判明していて、逆進して実際消費量を求めるわけです。差異分析の時短テクを使うと簡単です。

生産データの作成(仕掛品勘定)

月初
(材)200個
(加)100個
完成
1,900個
当月投入
(材)2,100個
(加)2,000個
月末
(材)400個
(加)200個

差異分析による時短テク(実際消費量の推定)

標準 @4,000円 ×0.2kg×2,100個 =①1,680,000
      =②1,688,000
実際 ×④実際消費量 =③1,694,330
  1. ①は標準原価であり1,680,000円である。
  2. 材料消費量差異は①−②でありT/Bから8,000の不利差異と判明している。よって②は1,680,000+8,000=1,688,000円である。
  3. 消費価格差異は②−③でありT/Bから6,330の不利差異と判明している。よって③は1,688,000+6,330=1,694,330円である。
  4. @4,000円×④実際消費量=1,688,000円より、実際消費量=422kgである。

差異分析による時短テク(実際直接作業時間の推定)

標準 @2,000円 ×0.3時間×2,000個 =①1,200,000
      =②1,190,000
実際 ×④実際直接作業時間 =③1,196,000
  1. ①は標準原価であり1,200,000円である
  2. 直接作業時間差異は①−②でありT/Bから10,000の有利差異と判明している。よって②は1,200,000−10,000=1,190,000円である。
  3. 賃率差異は②−③でありT/Bから6,000の不利差異と判明している。よって③は1,190,000+6,000=1,196,000円である。
  4. @2,000円×④実際直接作業時間=1,190,000円より、実際直接作業時間=595時間である。

問3 残高試算表の推定

決算整理前残高試算表が何を意味しているのかを問う問題であり良問です。まさに工業簿記です。

①仕掛品勘定

①の仕掛品勘定は月末仕掛品原価を表しています。本問は標準原価計算を採用していますから、月末仕掛品棚卸高に標準原価を掛けて求めます。

月末仕掛品単価:@800円+(@600円+@1,200円)×50%=@1,700円
月末仕掛品原価:@1,700円×400個=680,000円

②操業度差異

操業度差異を求めるにあたり、その前提として製造間接費能率差異の検証を行います。

製造間接費能率差異は、標準作業時間と実際作業時間の差に標準配賦率を掛ける場合と変動費率を掛ける場合の2通りが考えられます。そこで本問がどちらを採用しているのかを検証します。

問2から、実際作業時間が595時間であり、標準作業時間が600時間であることから、5時間の有利差異であることが分かります。また、T/Bより製造間接費能率差異は20,000円の有利差異です。よって、20,000円÷5時間=@4,000円を掛けていることが分かります。

原価標準によれば、標準配賦率は@4,000円ですから、本問は能率差異を標準配賦率にもとづいて算定していることが分かります。よって、操業度差異は実際作業時間と基準操業度との差に固定費率を掛けて求めます。(もしも、能率差異を変動費率にもとづいて算定しているなら操業度差異は標準作業時間と基準操業度との差に固定費率を掛けて求めます。)

操業度差異:固定費率@2,400円×(実際作業時間595時間−基準操業度620時間)=△60,000円

③製造間接費予算差異

これは、予算許容額(@1,600円×595時間+固定製造間接費予算額1,488,000円=2,440,000円)と実際発生額との差から求めます。で、問題文のどこかに製造間接費の実際発生額が書かれているのだろうと、くまなく探したのですが、これがどこにも書かれていないのです。・・・なぜ?

そこで、はたと気付きます。これって、T/Bの貸借差額から求めるのかな?と。うーん、まあ、ここまでの計算があっていれば差額からも算定出来るけど、本当にそうして算定させようとしているのだろうかと。だって、差額で出すとかそんなの小学生の計算ですよ。私が作問者ならそんな野暮なことはさせません。しかし、いくら考えても他に出す方法が見つからないので、貸借差額で出しました。

借方合計が25,887,230円で、貸方合計が25,885,230円だったので、差額は2,000円(予算差異)でした。

以上、ここまで出来ていれば少なくとも足切りは逃れていることでしょう。しかし、どこかでつまづくとこの先の問題で得点することは困難であり、足切りの可能性が出てきてしまいます。

問4 工場の月次損益計算書

工場のP/Lを作ります。答案用紙には「売上高」が記入済みであり、売上原価と営業費を算定するようになっています。そして問題文には「工場で発生する標準原価差異は月次決算で工場側の売上原価に賦課する」との指示があります。この指示を見落とさないようにして算定します。

工場の売上原価の算定

工場の製品勘定(A製品)
月初製品
300個
当月販売
2,000個
当月完成
1,900個
月末製品
200個(実地198個)

まず答案用紙に記入済みの売上高7,000,000円を検証します。工場におけるA製品の当月販売数量は2,000個であり、本社における当月仕入量は500個であることから、外部販売分が1,500個であると読み取れます。この情報に基づいて売上高を算定します。外部販売@3,600円×1,500個+本社へ販売@3,200円×500個=7,000,000円となり、計算があっていることが分かります。

売上原価は原価標準が@2,600円ですからこれに当月販売の2,000個を掛けて、標準原価差異を加算して算定します。

売上原価:@2,600円×2,000個+標準原価差異48,330円=5,248,330円

工場の営業費

これは、丁寧に集計するしかありません。

  • 販売費:210,000円
  • 一般管理費:150,000円
  • 貸倒引当金繰入:売掛金1,600,000円×1%-貸倒引当金12,000円=4,000円
  • 棚卸減耗費:@2,600円×(帳簿200個−実地198個)=5,200円
  • 前払費用:△30,000円
  • 未払費用:50,000円

すべて合計して389,200円です。

なお、資料7の減価償却費は製造間接費として製造原価に算入済みであり営業費ではないので、ここに算入してはいけません。ご丁寧に問題文には「工場負担の減価償却費については、期中に必要な会計処理をしている」と書かれてあり、ああ、試験委員の優しさだねっと思った次第です。

問5 企業全体の月次損益計算書

ワナに気付けるか

問題文には「答案用紙に示されている企業全体としての月次損益計算書を完成しなさい」とあります。素直に読めば答案用紙に記載済の売上高11,200,000は「企業全体としての売上高」であると思うわけです。

ここにワナがあります。結論から言えば、この売上高は、企業全体のものではありません。気付かないと痛い目にあいます。私は痛い目にあいました。

検証出来るなら検証する

ここまで、かなり順調に解き進んできた私としては、この最後の問5も高をくくって取り組んでいました。「答案用紙に示されている企業全体としての月次損益計算書」とあるので企業全体の売上原価と営業費を算定したのです。

しかしです。なぜか営業利益がマイナスになってしまうのです。おかしい。記入する場所がない。最初は計算間違いだろうと何度か計算をやりなおしたのですがやっぱり赤字です。うーん、おかしいです。

黒字が多すぎるなら費用の見落としが考えられます。しかし赤字なので費用の見落としはありえません。とすると収益(売上高)の見落とし?と思ったのですが売上高は答案用紙に記載されていますからありません。

おーい、どういうことだよー。と本試験中かなり悩みました。救いだったのは時間に余裕があったことです。そこで腰を据えて考えることにしました。検証できる数値があるときはなるべく検証する。これはケアレスミスをなくすための重要なテクニックです。

答案用紙に記載されている売上高を検証する

そこで答案用紙に記載されている売上高11,200,000を検証することにしました。企業全体の売上高は次のように計算できます。

工場の製品Aの売上:@3,600円×1,500個=5,400,000円
本社の製品Aの売上:@4,000円×400個=1,600,000円
本社の製品Bの売上:@8,000円×1,200個=9,600,000円
合計:16,600,000円

…んんん?なんか金額が違うぞ。11,200,000円じゃないぞ。なんだこりゃ?お、本社の売上だけを集計すると11,200,000となるぞ。ということは、答案用紙に書かれているのは企業全体ではなくて本社のみの売上高なのかあぁぁぁぁぁぁぁ…ってことに気付いたわけです。

そして、よくよく答案用紙を見ると、合計欄のあとに本社営業利益と工場営業利益の記載欄があって、内部利益控除をして、差額から全社的営業利益を求めるようになっています。

ああ、そういうことか。とりあえず本社だけの営業利益を求めて、これに工場の営業利益を足して、最後に内部利益を消して、結果的に全社的営業利益を求めるってことか。なるほどと。

ここに気付いていなかったら問5は全滅でした。恐ろしや。

本社の売上原価の算定

本社の製品勘定(A製品)
月初製品
0個
当月販売
400個
当月仕入
500個
月末製品
100個
本社の製品勘定(B製品)
月初製品
400個
当月販売
1,200個
当月仕入
1,000個
月末製品
200個(実地197個)

売上原価:A製品@3,200円×400個+B製品@6,000円×1,200個=8,480,000円

本社の営業費

これも丁寧に集計するしかありません。

  • 販売費:1,212,000円
  • 一般管理費:900,000円
  • 貸倒引当金繰入:売掛金2,800,000円×1%-貸倒引当金16,000円=12,000円
  • 減価償却費:200,000円
  • 棚卸減耗費:@6,000円×(帳簿200個−実地197個)=18,000円
  • 未払費用:72,700円

すべて合計して2,414,700円です。

内部利益控除

工場が本社に製品を送付する際に付加した内部利益@600円(=@3,200円−@2,600円)を控除する必要があります。本問では、本社のA製品の月末帳簿棚卸高に内部利益が含まれているため、これを控除します。なお、もし、本社にA製品の月初在庫がある場合は内部利益の戻入れを行う必要があります。内部利益の控除は、本支店会計や連結会計における未実現損益の消去と同じ考え方です。

内部利益控除:@600円×A製品の月末帳簿棚卸高100個=60,000円

 

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149回日商簿記1級・詳細解説【工業簿記編】” に対して1件のコメントがあります。

  1. 匿名 より:

    お世話になります。

    棚卸減耗費:@2,600円×(帳簿200個−実地198個)=5,200円 を私は売上原価に集計してしまいました。

    この為、売上原価、営業費用を間違えてしまい、4~5点ほど落してしまいました。

    固定概念で棚卸減耗費→原価というイメージで回答をしてしまいました。

    棚卸減耗費は、営業費用ですか?

    1. pro-boki より:

      >棚卸減耗費は、営業費用ですか?

      なるほど、良い質問ですね。

      まずは製造業を前提にお話します。
      これ、棚卸減耗費がどこで発生したのかによります。

      材料勘定で生じた棚卸減耗費は間接経費です。つまり、インプットに対してアウトプットが少ない(材料が減ってしまった)のは、製品を作るための犠牲であると考えるわけです。この場合、棚卸減耗費は製造間接費(間接経費)として製造原価を構成します。
      仕掛品勘定では棚卸減耗費とは言いません。これは仕損とか減損に相当します。
      製品勘定で生じた棚卸減耗費は販売費です。
      よって、いずれにしても、製造業で棚卸減耗費が売上原価に算入されることはありません。

      一方、商業(商品を仕入れて販売する形態)の場合、棚卸減耗費を売上原価に算入することはあります。(原価性がある場合のみです)

      言われてみて、なるほど、確かにこれは間違いやすい点だ、と思いました。

  2. Jack 276boot 777 より:

    プロ簿記受講生のJack と申します。お世話になります。
    質問なのですが、問1の原価標準の設定において、製造間接費を変動費と固定費の合算値で製品一個あたりの標準を設定するとあります。

    問題文中に「製造間接費に関しては直接作業時間を配布基準とする変動予算を用いて標準を設定する。」とあります。
    この一文から直接原価計算で標準を設定せよというようにとれます。
    売上原価を販売個数で割れば全部原価になるので直接でないことは明らかですが、どうか解説をいただけないでしょうか。

    1. pro-boki より:

      はい、お答えします。

      多分ですが、「製造間接費に関して…変動予算を用いて…」の「変動予算」の箇所を「変動費だけで計算しなさい」というふうに読み取ってしまったのではないでしょうか。

      もし、そうなら、それは読み間違いです。
      「変動予算」というのは製造間接費の予算設定方法の話です。変動費だけの予算という意味ではありません。具体的には、次の3つのことです。1と2は2級でもやってますよね。
       1.固定予算
       2.公式法変動予算
       3.実査法変動予算
      このうち、2と3のことを変動予算といいます。

      つまり、問題文の意図は「製造間接費に関しては、操業度に応じて予算許容額が変動するように予算を設定しています」ということです。本来、単に「変動予算」と言った場合、実査法の可能性もあるのですが、本問に関しては、資料に与えられた情報からは公式法変動予算でしか計算できないので、こちらを指示しているのだな、と読み取ります。

    2. Jack 276boot 777 より:

      なるほど、公式法変動予算で設定された固定費、変動費を含む製造間接費をもって標準を設定するという意味だったのですね。
      間接費の固定予算は総額で固定ということであり、製品と仕掛品の個数で割り当てれば
      当然その個数に従って増加していきますよね。

      明確なご説明ありがとうございます!

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