第146回日商簿記1級・リアル詳細解説(会計学)

第146回日商簿記1級・会計学

続いて会計学の解説を公開します。こちらも、綺麗事ではなくて、実際に解きながら何を考えていたのかを含めて紹介します。なお、会計学以外の科目については、以下をご参照ください。

まずはざっと全体を見渡す

いつもと同じ形式です。第1問が理論問題、第2問と第3問が計算問題です。第3問は、P社、S社とありますから連結のようです。普通に第1問から解いていくことにします。

第1問

ノーマルもしくは若干簡単な理論問題です。全問正解したいところです。(イ)が遡及適用か修正再表示かちょっと迷う所ですが、”財務諸表に反映させる”という箇所から修正再表示が導き出せると思います。

(ロ)の総合償却は、出来ないといけません。これは、多分3度目の出題です。試験委員、この用語好きなんですね。

(ハ)の償却原価法は、以外と盲点かもしれませんね。私は最初、”毎期一定の方法”を”毎期一定額の”と読み違えてしまい、一瞬、定額法か?とも思ったのですが、いやいや、”毎期一定の方法で取得価額に加減”って決まり文句じゃないか、と気付いて、償却原価法を導けました。

(ニ)は簡単です。キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュ・フローの表示方法といえば、間接法か直接法。営業収入だの商品仕入による支出だのとのセリフが出てくれば、これは直接法。出来ないといけません。

(ホ)はちょっと難しいかもしれません。資産グループが将来キャッシュ・フローを生み出す、という箇所から、あ、減損会計の話だ、って気付けるかどうかですね。すると、のれんと共用資産はワンセットのテーマとして学習しているはずですから、”のれん以外のものを”と言われれば共用資産が出て来るはずです。

ここは、最低3箇所出来ていてほしいです。4箇所できていれば合格ラインでしょう。私は全問出来ました。(そりゃそうだ)

第2問

雑感

ぶっちゃけて言ってしまえば、私は、設問1と設問2しか出来ませんでした。設問3も何とか食らいついたのですが、出来ませんでした。(解答は書いたのですが、間違っていました。)

いくらなんでも、こりゃひどいだろうと思い、ソースを探したところ、見つけました。

公認会計士協会が公表している金融商品会計に関する実務指針の設例21そのままです。数値が若干違うだけでで、まんま同じ問題です。

実務指針というのは、会計士が監査を行うさい実務上の会計処理に対応するためのガイドです。そこに掲載された設例を、数値だけ変えて1級の試験に出す事自体、どうかと思います。
 
まあ、出来ないですよ。1級受験者はもとより、税理士も会計士も出来ません。ですから、埋没します。結果、ここに手を出して時間を費やした人が損をした、ということです。

ただしです。4つの解答箇所のうち、最初の問1は単なるデリバティブの時価評価ですから、これは取れたはずです。また、機転を聞かせれば問2も取れます。

こういう、一見して、見たことの無い問題でも部分的に得点出来る箇所はあるものです。そのあたりをどれだけ丁寧に拾えるかが合否の分かれ目です。

前提知識の解説

まずオプションが何のかを分かっていないとちんぷんかんだと思いますので、ご存じない方は、この記事のオプション取引のところを読んで下さい。面倒なら飛ばして結構です。まあ、ざっくり言えば保険みたいなものです。(保険料を払う代わりに、万が一のときには損失が補填されます。しかし、その万が一が起きなければ保険料が無駄になるイメージです)

そして、コール・オプションというのは、買う権利なんです。プット・オプションは、売る権利です。権利ですから放棄できます。まず、ここまで基礎として知ってください。

本問の場合、プット・オプションですから、1ドルあたり115円で10万ドル分売る権利を買ったということです。たとえば、直物レートが1ドル110円だとしましょう。今、10万ドル持っているとして、それを外為市場で円に替えたいとします。いくらになるでしょう。普通なら1,100万円にしかなりません。しかし、プット・オプションを行使すれば、1ドルを115円で売る権利があるのですから10万ドルを1,150万円で売る権利があるということです。

これ、すごいのは、別に手元に10万ドルなくても構わないという点です。日本円でしか持ってなくても、それを外為市場でドルに交換して、次の瞬間にプット・オプションを行使すればいいわけです。具体的には1,100万円を10万ドルに交換して、即座に売れば1,150万円になります。

ということは、このプット・オプションは直物レートが110円のとき、1ドルにつき5円の価値、10万ドル分持っているなら、50万円分の価値があるということです。(1,100万円が即座に1,150万円になるのですから)

さて、ここで問題文を見てください。中段に表があると思います。で、オプションの価値と書かれていて、決算日(3月31日)直物レート110円のところが7.7円(うち時間価値2.7円)と書かれています。7.7円のうち2.7円が時間価値なら、残りの5円は何でしょうか。これが本源的価値です。つまり、このプット・オプションそのものの価値です。先ほどの1ドルにつき5円の価値がある、という話のことです。

では、時間的価値というのは何でしょうか。これは、このオプションが権利である、という点に関係しています。もし、直物レートが120円になったとしましょう。今、手元に10万ドルあります。これ、日本円に交換すれば1,200万円になります。当然ですが、このとき、プット・オプションは行使しません。(行使してわざわざ1,150万円にする人はいません。)

つまり、直物レートが115円を切ったら、プット・オプションを行使することで、1,150万円になるし、直物レートが115円以上なら、プット・オプションを放棄することで、絶対に損しない状態を作ることが出来るのです。すごいでしょ。オプションって。価値あると思いませんか?その代わり、このオプション自体を買う時に結構なお金を取られるのです。本問の場合、1ドルあたり3.8円と書かれていますから、10万ドル分ですと38万円ですね。

さて、この権利、いつまでも使えればいいのですが、そうはいきません。期限があります。本問の場合、決済日までです。この期限までの期間が長ければ長いほど、オプションの価値は高くなります。だってそうでしょ、長ければそれだけ儲けるチャンスが増えるのですから。

よって期限まであとどれくらい期間があるのか、それによって、オプションの価値は変わります。それが時間価値です。本問の場合、3/31の時点では、期限まであと2ヶ月あるので時間価値は1ドルにつき2.7円あるわけですが、4/30の時点では、期限まであと1ヶ月しかないので、0.9円になってます。当然ですが、5/31の時点では、0です。(問題資料には載ってませんが)

以上、正直言って、これって簿記の知識なの?違うでしょ。という気がします。ファイナンスの論点ですね。あと、投資(投機)とかやっている人ならまあ割と普通の話ですが、そうじゃない人は別に知らなくても全く問題ないと思います。ですので、一応参考まで書いてみましたが、ほんと、参考程度に知っていればいいと思います。

設問1と2の解説

上記にも書きましたが、プット・オプションの時間価値がどうしたとか、完全に簿記の範疇を超えてますので、こんなのは知らなくても問題ないと思います。

しかし、それでも設問1は解けるはずです。諦めちゃった方、ちょっともったいないです。

設問1は、決算日におけるB/S上でのオプションの金額です。以前の記事でも書いたのですが、デリバティブって(ヘッジではなく)単体で見れば、売買目的有価証券と会計処理は同じです。それさえ覚えていれば解けたはずです。

問題文に、決算日においてオプションの価格は7.7円と書かれています。それを10万ドル分持っているのですから、77万円です。それだけの話です。

また、設問2も機転がきけば解けかもしれません。売上の立った日(輸出日)のレートは111円ですのでまずは、1,110万円の売上が立ちます。そして、このとき、オプションの価値が1ドルにつき4.9円あるわけです。つまり49万円ですね。しかし、これを買うのに38万円掛かっているのですから、それを引いて11万円の収益です。これを売上に加減するのですから、1,121万円です。

設問3と4の解説

出来る必要も、知る必要もないと思います。どうしても知りたい方は、金融商品会計に関する実務指針のP142をご覧ください。

第3問

雑感

出ちゃったか、という感じです。

事業分離で対価で株式をもらって、結果として支配してしまうケースです。いわゆる逆取得というやつです。これ、ご存知の方も多いと思いますが、134回の商簿でほぼ同じ問題が出題されています。

まさか、もう出ないだろうと思っていただけに、ここは、軽くしか講義をしていませんでした。受講生には申し訳ないことをしました。

1点だけ、口酸っぱく言っていたのは、「事業分離において、逆取得になっちゃったら、それはもうグループ内での取引とみなして、簿価だからね」ということです。つまり、グループの中で、事業を右から左に移しているだけなのだから、その時点で時価処理しちゃまずいでしょ、ということですね。これを覚えていてくれていれば、設問1と設問2は取れたと思うのですが、どうでしょうかね。

設問3の逆取得における連結も、134回で出ていたので、授業でやろうと思えば出来たのですが、必要なしと判断して切ってしまいました。後悔しています。ただ、それでも出来ないのはのれんと資本剰余金くらいで、あとは、単なる連結ですから、部分点は取れたと思うんです。諦めずに食らいついて部分点取ってくれていればいいのですが。

設問1

逆取得ですから、簿価で処理します。ちなみに私は講師でありながらなんとパーチェス法でやりました。顔から火が出るほど恥ずかしい。

簿価ですから、甲事業資産15,000千円と甲事業負債2,000千円をS社に引き渡して、対価として、13,000千円を得たということです。

S社から得た株式の時価は@95千円×150株=142,500千円ですが、これはパーチェス法の考え方であり、本問では間違いです。

設問2

事業をもらったS社にしても、簿価で引き継ぎます。それだけです。増資した分は13,000千円であり、その40%を資本金としているのですから、13,000千円×40%+7,000千円=12,200千円です。簿価であることに気付いていれば簡単です。

設問3

これが難しい。知らないと出来ないでしょう。しかし、もう過去に2回も出ているので、今後は出来るようにしておかないといけませんね。いくつかやり方はありますが、ここでは、こう考えると分かりやすいという私なりの解説を紹介したい思います。

まず、もともと(甲事業を移転する前)のS社との連結を考えます。

諸資産 1,000 評価差額 1,000
資本金 7,000 S株 5,700
資本剰余金 600 非株 3,600
利益剰余金 400    
評価差額 1,000    
のれん 300    

ここで、もっとも難しいのは、S株の金額をいくらにするかです。

まずは、P社の個別F/S上でのS株の簿価を考えてみましょう。13,000千円です。この13,000千円で何を支配しているのかを考えます。それは、1つにはもともと(甲事業を移転する前)のS社の事業の60%です。もう1つは、もともとP社が持っていた甲事業の60%です。まあ、これはもともとP社が100%持っていたので、40%失ったとも言えます。

そして、上記仕訳は、前者のもともと(甲事業を移転する前)のS社との資本連結です。S株とのれん以外は何ら問題ないと思います。

問題はS株です。これは、資本連結ですから時価です。甲事業の対価として、@95の株式を150株もらっていて、うち40%の支配を失ったわけですから、次の式で計算されます。

@95千円×150株×40%=5,700千円

もしくは、甲事業を移転させる前のS社の価値は@95千円×100株であり、その60%を支配しているわけですから、

@95千円×100株×60%=5,700千円

という計算でも構いません。必ず同じ金額になります。これさえ分かってしまえば、のれんは差額で出せます。

続いて、移転した事業の分です。

資本金 5,200 S株 7,300
資本剰余金 7,800 非株 5,200
    資本剰余金 500

P社の持つS株の簿価は、13,000千円であり、もともと(甲事業を移転する前)のS社の60%支配に5,700千円を要したのですから、移転した事業の60%支配には、残りの7,300千円を要したと言えます。

そして甲事業13,000千円をもともと100%支配していたのに、今や60%しか支配していないわけで、残りの40%は、非株の持分です。よって、非株持分は13,000千円×40%=5,200千円です。

結果、P社からすれば、500千円儲かっていますが、これは非株との取引であり、損益取引ではなく資本取引です。ですから、損益にするのではなく、その他資本剰余金で処理します。

以上の連結修正仕訳から、のれん300千円と、資本剰余金2,500千円(=P社2,000千円+修正仕訳500千円)が導き出されます。

最後に

設問3は、完璧に出来なくても大丈夫だと思います。それよりも、上記の連結修正仕訳が出来なくても、取れるところだけ取るだけでかなり得点出来るので、それを逃さない、という姿勢が大切です。

  • 資本金や利益剰余金は、P社の金額そのままです。これは連結の基本です。
  • 諸資産や諸負債も、単に時価評価して足すだけです。これは連結の基本です。
  • 甲事業の資産と負債だって、簿価を書くだけです。
  • 非株持分も、単にいつもどおりの資本連結をすれば8,800千円は算定できます。

結局、得点出来ないのはのれんと資本剰余金だけであって、言うほど得点出来ないわけではないのです。一番マズイのは、鼻から「ああ、これは出来ない」と諦めてしまうことです。今回、このあたりで得点出来なかった方は、食らいつく、というワザを修得しましょう。


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第146回日商簿記1級・リアル詳細解説(会計学)” に対して1件のコメントがあります。

  1. ニュートリノ より:

    分かりやすく詳細な解説をいただきまして、感謝致します。

    第2問では見慣れない用語に怖気づいてしまいましたが、オプション金額は計算できなければいけなかったと反省しました。
    連結会計が2級の試験範囲になり、1級では今回の第3問レベル程度が今後も普通に出題されると見てよろしいですか?

  2. pro-boki より:

    >連結会計が2級の試験範囲になり、1級では今回の第3問レベル程度が今後も普通に出題されると見てよろしいですか?

    はい、そう思います。
    現試験委員が連結にかなり重点を置いているのは間違いないと思います。
    今後の出題レベルにしても今回と同じもしくはそれ以上のものが出てくることでしょう。
    既存テキストでは足りていないと思います。スクール等では、補講が入ることでしょう。私も補講を予定しています。このあたり、独学者は不利かもしれません。

    ただし、大事なことは、日商簿記1級が相対試験であるということです。
    問題の難易度が上がるからといって、合格しにくくなるわけではありません。
    どのような問題が出ようと、上位10%に入れば合格できます。
    そういった点も考慮したうえで、どこに重点を置いて学習すべきかの戦略が大切になってくると思います。

  3. ニュートリノ より:

    富久田先生、渾身の解説をいただき、ありがとうございました。
    上位10%に入れるような解答力が必要であり、そのためには何をどう捻られても一定の点数が取れる、上っ面の勉強ではない本当の意味での基礎固めが求められるのだと思い知らされました。

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