簿記の小噺・CVP分析 〜損益分岐点分析が難しい理由〜

CVP分析の小噺

今回は、簿記2級の工業簿記で学習するCVP分析の損益分岐点をテーマにした小噺だ。試験では、CVP分析に必要な条件が全て書かれていて、あとは計算するだけだけど、現実はそれほど簡単ではないんだ。そんな実務に即したリアルな話を書いてみた。

工業簿記は具体的なイメージがつかめるとぐっと力が付く。特に2級受験生(もちろん1級受験生もOK)に読んで欲しい。

うちでも損益分岐点分析やりましょう!

社員 店長、うちの店も損益分岐点分析やりましょう。
店長 ん?急にどうした?
社員 この前、研修で会計講座に行ったじゃないですか。そのとき教わったCVP分析がとても便利なんです。是非うちでもやりたいと思って。
店長 ああ、CVP分析か。確かに出来るものならやりたいね。でも難しいよね。
社員 私におまかせあれ!研修で計算方法をバッチリ教わったので大丈夫です。
店長 おお、心強いね。ただ問題はそこじゃないんだよね。
社員 え?そこじゃない?じゃあどこが問題なんですか?
店長 費用を変動費と固定費に分けるのが難しいんだ。
社員 え?そこ?
店長 じゃあ、うちのお店の毎月の固定費って何だと思う?
社員 えーっと、店舗の家賃と正社員の給料と・・・ぐらいですかね?
店長 電気代はどう?
社員 使えば使うほど掛かるから変動費ですよね。
店長 そうかな?全く使わなくても基本料は固定で掛かるよね。
社員 あ、そうか。ってことは電気代は、固定費と変動費が混じってる?
店長 そう。あと、正社員の給料は確かに固定だけど、残業代は変動費だよね。これも固定費と変動費が混じっているね。
社員 確かに・・・しかも、残業代の変動費は、人によって時給が違うわけですね。新人は安いけど、主任は高い。
店長 結局、費用ってそういうのがごちゃーっと混じってるわけ。それを完璧に固定費と変動費に分けるっていう作業は現実的に無理なんだ。
社員 じゃあ、CVP分析は結局出来ないってことですか?絵に書いた餅?
店長 いやいや、そういうわけでもないんだよ。完璧に固定費と変動費に分けることは出来なくても、アバウトに分けることは出来る。いくつか方法があるんだ。
社員 もしかすると、それが固変分解?あの高低点法とかの・・・
店長 正解!

固変分解ってそもそも何?

日商簿記2級の工業簿記で固変分解を学習したとき、「まあ、計算方法は分かるとして、そもそもこれは何?」という印象を持たなかっただろうか。

これ、ほとんどのテキストは説明不足だと思う。たいていは、計算方法が書いてあるだけだ。「その計算処理は何のために行っているのか」これを知ることが工業簿記をマスターするための近道。何のための計算かが分からないと単なる暗記になってしまう。

で、固変分解。最初のころは、なんで今さら固定費と変動費を分ける必要があるんだろう?って思った。だって、たいてい試験問題には固定費はいくら、変動費はいくらって書いてあるじゃない、と。

でも、実務をやってみて分かった。確かに厳密に固定費と変動費を分けるのは難しい。実務ではどうやっているかというと、多分ほとんどの企業は、費目別精査法というのを採用している。

ざっくり言えば、この費目は変動費、この費目は固定費と費目別に分けてしまうという方法だ。(中には、1つの費目の中で変動費と固定費が混在していて、まあ、ざっくり50%ずつだね、なんていう分け方をしたりもする)

うち(写真屋)の場合、家賃と電気代と人件費は固定費として分類していた。まあ、現実には、電気代は使用量によって変動するから変動費なんだけど、その変動幅は小さくて、だいたい毎月一定だったから便宜上固定費扱いしていた。

それから、人件費もそう。厳密には、社員は固定給だから固定費で、アルバイトは時給制だったから変動費なんだけれど、現実には、これも、毎月あまり変動しなかったから固定費扱いしていた。

でも、直接材料費は、変動費扱いとして計算していた。写真屋の直接材料は印画紙と現像液だ。これは、もうほぼ売上に比例して発生する。だから変動費扱いだった。

このように、うちは、費目別精査法によって変動費と固定費を分離して、売上予測やCVP分析を行っていた。ただ、結構アバウトだったので、本当は、簿記で学習する高低点法や最小自乗法を使った方が正確だったかもしれない。

そもそもCVP分析って意味あるの

上の会話文にもあるけれど、なぜ、面倒な計算をしてまで費用を固定費と変動費に分解するかといえば、それはCVP分析をやりたいからだ。そして、CVP分析というのは、予測のつきにくい将来のための計算だ。あくまでも推計のための計算。

それなのに、固定費と変動費の分解だけ超厳密にやってもあまり意味が無いんじゃないかと思うんだ。

さらに言えば、CVP分析をグラフで表現するときって、売上の線も費用の線も直線で書くでしょ?でも、現実には違うよね。操業度が増えれば、たいてい費用は緩やかな曲線となっていく。労務費だったら経験値が増えて慣れてくるし、材料費だったら大量購入でディスカウントされるからね。

もっと言えば、予定を超えて操業度が増えると今度は逆に急カーブを描いて、コストは跳ね上がる。予定外に生産することになると残業代が余計に掛かったり、無理に材料を仕入れようとすると足元見られて高く買わなければいけなくなったりするからね。

このように、費用線が直線ってことは、現実にはあり得ない。つまり、CVP分析ってそもそもが、アバウトなものなんだ。だから、固変分解だけ最小自乗法を使って厳密にやっても、正直、あまり意味があるとは思えないんだ。

じゃあ、CVP分析に意味がないかと言えばそんなことは無い。とても意味がある。 経営をしていく上で、目安があるか無いかっていうのはとても大きい。

「CVP分析によれば、損益分岐点販売量は1,000個」だったとしよう。CVP分析はアバウトなので、本当は800個だったり1,200個だったりするかもしれない。 でも、そんなことは、どうでもいいんだ。だいたい1,000個売れば黒字になるという目安があることが大事なんだ。

いったい何個売れば黒字になるのかさっぱり分からない、という状態では、経営方針も販促計画も人員配置計画を立てようがない。 それに対して、最低でも1,000個売るぞ!となれば、それを起点にいろいろ動きようがある。そして現実には、動きながらいろいろ問題点を修正していけばいいんだ。

だから、CVP分析が出来るかどうは実務ではとても大きい。そして、それをするためには費用を変動費と固定費に分けなければいけない。 2級の工業簿記は、そういうことを勉強しているんだ。


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