第199回全経上級・原価計算レビュー

リクエストが複数ありましたので、取り急ぎ、原価計算だけやってみました。解説記事です。

第1問 フリーキャッシュフローと企業価値

第1問レビュー

評価の難しい問題です。良問だとは思うのですが、簿記の検定試験で出すのはどうかという感じです。FCFと企業価値の算定は、簿記の問題というよりファイナンスの問題です。

確かに本質を理解していれば設備投資意思決定の問題に置き換えることも可能です。その点で出題意義はあるのでしょうが、しかし、そもそもこれ簿記なの?という思いもありちょっと違和感を覚えます。ちなみに1級では出題実績ありません。

この問題、多分、問3の②以降は埋没すると思います。せっかくの良問だけに、もったいない感じはします。

フリー・キャッシュ・フローとは?

最初に、フリー・キャッシュ・フロー(FCF)という用語について説明します。多分、引っ掛かりどころだと思いますので。

これ、いろいろ定義があるので細かいこと言い出すと難しくなります。ざっくりいきます。

FCFは、企業が稼いだお金から企業が継続にするのに必要なお金(材料費だったり人件費だったり販管費だったり税金だったり)を全部引いた後のお金のことです。つまり、債権者や株主に帰属するお金であり、自由に分配できるお金です。

具体的な計算式はいくつかあるのですが、簡易版としては、キャッシュ・フロー計算書の「営業CF+投資CF」です。例えば営業CFで1,000万円稼いで、投資CFで300万円を投資に使ったのなら、700万円は自由に使えるよねっていう感じです。ここから債権者に利息払ったり、借入金の返済したり、株主に配当金払ったりします。

もう少し詳しい計算式もあります。
FCF=税引後営業利益+減価償却費−設備投資額±正味運転資本増減額
などです。このあたりは、いくつか式があります。試験で出るときは、指定されると思われますので、従えばOKです。

さて、株主は、なぜ、株式に投資するかというと、このFCFに期待しているからです。株主は何の見返りもないなら株なんて買いません。企業が成長して、余剰のお金(FCF)を生み出して、その配当がもらえると信じているから株を買うのです。(厳密ではありません。イメージでとらえてください。)

だったら、この株式投資が、割にあうかどうかは、この企業が将来生み出すFCFで測定すればいいじゃないか、という話になるわけです。

例えば30万円で株を買うとします。毎年3万円の配当金(≒FCF)が5年間得られるとします。そこで、株を売却します。25万円くらいで売れると予想しています。この投資について検討します。ちなみに30万円の資金を調達するのに7%の支払利息がかかります。

これって、30万円の設備投資をして、毎年3万円のCFが5年間得られて、耐用年数到来後に設備が25万円で売れる場合の正味現在価値を割引率7%で計算しなさいっていう問題と同じなんですね。

ということで、このような前提知識があれば、あ、これって設備投資意思決定会計の問題といっしょじゃないか、という判断もつくのですが、全経上級受験生にそれを求めるのは、うーん、どうでしょう。

解説

まあ、そんなことで、前置きはこのくらいにして、解説します。

問1

負債40,000(資本コスト5%)、純資産40,000(資本コスト?)の加重平均資本コストは7%である。自己資本コストを求めよって問題ですね。

うーん、負債の資本コスト5%は税引前なんでしょうか?税引後なんでしょうか?それによって解答変わるのですが。

税引後なら、
(5%+?)÷2=7% なので、9% です。

税引前なら、
(5%×0.7+?)÷2=7% なので、10.5% です。

問2

FCFを求めなさいという問題です。さきにも書いたとおり、FCFは色々な定義があるので、問題文の指示に従うしかありません。

FCF:税引後利益2,100+減価償却費9,400+支払利息2,000×0.7=12,900です。

これ、次のように考えると理解しやすいかもしれません。
PL作ってみます。

売上 80,000 CIF
減価償却費 9,400  
その他費用 65,600 COF
営業利益 5,000  
支払利息 2,000 COF
税前純利益 3,000  
法人税等 900 COF
税引後利益 2,100  

支払利息を除外してネットキャッシュフローを計算します。

売上80,000−その他費用65,600−法人税等900=13,500です。

この13,500は、株主と債権者に帰属するキャッシュです。なお、債権者側から見ると、2,000は受取利息であり収益ですから30%の税金が取られます。つまり、600は、COFです。よって、13,500からその分を引きます。

13,500−600=12,900

これが、FCFです。わかりにくければスルーしてください。ここは、もう簿記の範疇を超えていると思います。(だからこそ、全経の試験委員も問題文に計算式を書いたのだと思います)

問3

①上記FCF12,900が5年間継続して、5年後のターミナルバリュー72,000である場合の企業価値を算定しなさい。

要するに、毎年12,900のCFが5年間に渡って得られて、5年後の除却時に72,000で設備が売れる場合の正味現在価値(割引率は7%)を求めなさいっていうのと同じ問題です。ターミナルバリューって用語がいやらしいですね。要するに残存価額のことです。勘の良い方は分かったのではないかと思います。

12,900×4.1*1+72,000×0.713*2=104,226
*1 7%の5年年金現価係数
*2 7%の5年現価係数

②上記FCF12,900が無限に継続する場合の企業価値を算定しなさい。

ああ、これは知らないと出来ないですね。知っていれば瞬殺なのですが。
ざっくりいうと、毎年12,900を永久にもらえる債券があるとして、それ、いくらなら買う?っていう問題と一緒です。割引率は7%です。
永久なら無限大なんじゃないの?と思うかもしれませんが、そんなことないのです。試しに10年、50年、100年、300年で計算してみます。

10年:12,900×50年年金現価係数=90,604
50年:12,900×50年年金現価係数=178,030
100年:12,900×100年年金現価係数=184,073
300年:12,900×300年年金現価係数=184,286

どうでしょう。最初のうちはどんどん増えていきますが、年数を経るごとに伸びはゆるやかになっていきます。例えば、50年間もらいつづけて178,030なら、100年間だったら倍になりそうじゃありません?そうはならないのです。184,073にしかなりません。たったの6,043しか増えていません。

なぜなのか。もう100年とかで割り引いちゃうと、割引きが大きすぎちゃって、CFの価値が極めて小さくなるからなんですね。例えば100年後の12,900なんて、現在価値にするとおよそ15しかありません。そんなのをいくら足しても、もう大して増えないのです。ということで、これは無限に発散するのではなくて、収束します。

じゃあ、その収束した金額をどうやって計算するかですが、これ計算式がありまして、極めて簡単です。

「年々のCF÷割引率」です。

なぜか?

高校生のときに無限等比級数っていうのをやりましたよね。そこで学んでいるはずです。理系の人は必ずやります。文系の人はどうでしょう。やってないかもしれません。知らんけど。

数学的な証明も比較的簡単なものですが、ここまで来るともう簿記じゃなくなるので省略します。

とにかく、毎年もらえる12,900÷割引率7%=184,286で計算できます。

知ってるか知らないかが勝負を分けたと思います。会計士受験生と理系出身者にとって有利だったと思います。

問4 以下のケースのFCFを計算しなさい。

売上 90,000 CIF
外注加工費節約 3,000 CIF
減価償却費 15,000  
人件費 32,000 COF
その他費用 30,000 COF
営業利益 16,000  
法人税等 4,800 COF
税引後利益 11,200  

税引後利益11,200+減価償却費15,000=26,200

もしくは、上記のCIFとCOFを集計してもOKです。同じ答えになります。

問5 企業買収額を求めよ

これ、問題文を読み替えると、

1年目から5年目まで問4の26,200のCFが得られて、6年目から無限に13,100が得られるような投資があるとして、その割引現在価値を求めなさい

っていう問題に置き換えられます。

1年目から5年目までもらえる26,200の現在価値は、26,200×3.993=104,616.6 です。

6年目から無限にもらえる13,100の現在価値は、13,100÷8%=163,750 です。

ただし、この163,750は、5年後にもらえる現在価値なので、今現在(0年目)の現在価値に割り引くためには、5年後の現価係数0.681をかけないといけません。ということで、この企業の価値は、

104,616.6+163,750×0.681=216,130です。

M社の将来の価値も見込むと、これだけ価値があるのです。で、M社を買収すると、この216,130の価値をもらえる一方で、40,000の負債も抱え込むので、これを控除します。

よって、216,130−40,000=176,130です。

第2問 事業部制とCVP分析

第2問目レビュー

やさしい問題でした。目安所要時間は15分、満点を狙える問題でした。間違えが許容されるのは問4くらいです。他の部分をミスすると厳しい結果となりそうです。

解説

問1 直接原価計算の損益計算書

「貢献利益」を記入する問題でした。これを間違えてしまうようですと、不合格でも仕方ないといえます。

問2 全社的な損益分岐点分析

これも2級レベルの問題でした。秒殺してもらいたい問題です。

貢献利益率:495,000÷1,000,000=0.495
回収すべき固定費:個別固定費430,000+共通固定費80,000=510,000
損益分岐点売上高:510,000÷0.495=1,030,303.3…切り上げて、1,030,304

問題文に指示があるとおり、端数は切り上げます。(損益分岐点売上高の問題なので、仮に指示がなくても切り上げます)ミスをするとしたら、この端数の処理くらいでしょう。

あとは、この1,030,304を、A:B:C=2:3:5で按分しておしまいです。

問3 A事業部の損益分岐点分析

これも秒殺してもらいたい問題です。A事業部が共通固定費の回収に貢献するということは、言い方をかえるならセグメント・マージンがプラスでなければいけないという意味です。つまり、セグメント・マージンをベースにして損益分岐点分析をすればいいわけです。これを読み取れるかどうかという問題でした。

貢献利益率:120,000÷200,000=0.6
回収すべき固定費:個別固定費130,000
損益分岐点売上高:130,000÷0.6=216,666.6…切り上げて、216,667

問4 B事業部の損益分岐点分析

少しだけ骨のある問題でした。とはいえ易しい問題です。この読み取りに苦労された方は、CVP分析の基礎的な考え方が出来ていないのかもしれません。

CVP分析は、貢献利益によって、固定費を回収するという考え方をします。損益分岐点売上高を算出するのであれば、この回収すべき固定費を貢献利益率で割ればいいわけです。

ということは、CVP分析の問題を解く時は、「貢献利益率は?」と「回収すべき固定費は?」の2点さえ問題文から読み取ってしまえば、それで解決するわけです。

その視点からいうと、本問は、A事業部の業績が不振でセグメント・マージンが△19,000です。これをB事業部とC事業部の貢献利益をもってして回収しなければいけないということです。

そして、B事業部とC事業部は、それぞれ個別共通費として120,000と180,000がかかっており、さらに共通固定費として80,000を回収しなければなりません。

つまり、トータルで19,000+120,000+180,000+80,000=399,000を回収しなければなりません。

あとは、これを回収するための貢献利益率を算定すればおしまいです。

B事業部とC事業部の売上が同じということですから、加重平均貢献利益率は、(B事業部貢献利益率0.5+C事業部貢献利益率0.45)÷2=0.475です。

よって、損益分岐点売上高(B事業部とC事業部の合計)は、399,000÷0.475=840,000です。B事業部だけの売上高が問われていますから、解答は、840,000÷2=420,000です。

第3問 機会原価とは

かっこよく言うなら「ある代替案を選択したことで逸失する他の代替案を選択していれば得られたであろう利益額のうち最大のもの」です。

なお、こんなにかっこよく書かなくても、伝われば配点来ます。たとえば「ある代替案を選択すると、それを選んでいなければ得られたはずの利益をあきらめることになる。この失った利益を機会原価という」でも部分点は確実にきます。

ただし、厳密に言うと、これでは少し言葉が足りないです。

代替案が3つ以上あると、選ばれない代替案が2つ以上になります。この場合、その複数の選ばれなかった代替案から得られるはずだった逸失利益のうちの最大の額が機会原価となります。よって「最大のもの」というワードは入れたいところです。

例えば、

Aプラン:アルバイト先Aに行く。1,000円しかもらえないけど、好きな人がいる。
Bプラン:アルバイト先Bに行く。2,000円もらえる。
Cプラン:アルバイト先Cに行く。3,000円もらえるけど、嫌いな上司がいる。

A,B,Cプランが相互排他的代替案だとして、ここでAプランを選択すると、機会原価は3,000円ということです。