簿記の小噺・業務的意思決定 〜ある営業マンの価格交渉〜

原価計算の業務的意思決定の小噺

今回は、簿記1級の原価計算で学習する業務的意思決定をテーマにした小噺だ。

ある営業マンの価格交渉のはなし

社員 課長、仮契約ですが、交渉成立しました。
課長 そうかそうか。で、契約内容はどうなった。
社員 はい、来期は、今期比30%多く買ってもらえます。
課長 おー、よくやった。これは社長賞ものだぞ。
社員 ただ、ちょっと、条件がつきまして・・・
課長 ん?なんだ?
社員 25%の値下げを要求されたんです。まあ、販売量が30%増えますんで、大丈夫だと思って、了承してきました。
課長 ばかもーん
社員 は?何かまずかったですか。売上は増えるはずなんですが。
課長 いくら増えると思う?
社員 30%増と25%引の相殺で5%アップでしょうか。
課長 おいおい…うちの商品いくらで卸してる?1個1万円だろ?
社員 はい。それが年間1,000個で売上は1,000万円です。
課長 ということは、来期はいくらで何個売るつもりなんだ?
社員 25%引きですから 7,500円ですね。それを年間1,300個です。
課長 で、売上はいくらになる?
社員 7,500円×1,300個ですから、電卓で計算してっと。えーっと、975万円ですね。あれ、電卓壊れてる?
課長 いや、電卓じゃなくて君が壊れてるんじゃないかな。ちなみに、この製品の原価知ってるかな?
社員 知らないっす。
課長 ざっくりだが、1個6,000円だ。だから今までは、1個4,000円の利益が出ていた。年間1,000個で400万円の利益だ。
社員 はあ。
課長 新契約だと、利益はどうなる?
社員 えーと、原価6,000円のものを7,500円で売るので1,500円ってことですか。それが年間1,300個ですから、電卓で計算して、えーと195万円。あ、電卓壊れてる。
課長 いや、だから壊れてるのは電卓じゃなくて君だろう。利益半減だぞ。
社員 ・・・
課長 ぼーっとしてないで、謝罪して仮契約取り消してこーい
社員 ひー

業務的意思決定を肌感覚で知る

この話は、業務的意思決定の基本中の基本だ。業務的意思決定会計とは、日常の業務において「この注文は受けた方が得かどうか」「工場で使用する部品を内製するのと外部購入するのどちらが得か」「このまま売るのと追加加工して売るのどっちが得?」といった意思決定を会計情報にもとづいて行うものだ。

この分析手法の1つにCVP分析がある。CVPとは、コスト(費用)のC、ボリューム(数量)のV、プロフィット(利益)のPの略のこと。 つまり、いくらのものを何個販売したら、どれだけ利益が出るか、それを分析している。そして損益分岐点や安全余裕率といった指標を用いて、販売目標などを決定する。

だけど、この会話はそれ以前の話。 CVP分析の理屈はさておき、大切なのは、まず前提として、数字感覚を肌で感じることだ。 実は、値下げっていうのは、計数的にとてもインパクトが大きい。

ちょっとやそっと販売量を増やしても利益は追いつかない。その割にお客さんにはインパクトが少ない。 これは、多分、商売やっている人は感覚的に分かっている。

値下げセールで、爆発的に売れしたはずなのに、儲かってない・・・ってことを経験しているからだ。 まずは、CVP分析の公式を覚える前に、肌でこういう数字感覚を掴んで欲しい。

本当はいくら損したのか?それは貢献利益で考える

さて、ここからもう少し突っ込んで考えてみよう。 このあとの話は、日商1級の知識が必要になるけど、それほど難しくないので勉強をしたことない人も考えてみて欲しい。

ポイントは原価だ。
問題なのは、この課長の言っている原価6,000円が、全部原価なのか直接原価なのか、ということだ。仮に、この原価が全部原価だとしてみよう。

例えば、この商品の変動費が4,000円で、固定費2,000万円、そして1万個製造しているとする。この場合、全部原価は、次のようになる。

全部原価:4,000円+2,000万円÷1万個=6,000円

ここで、考えなければいけないのは、貢献利益だ。 販売数が増えようが減ろうが固定費は変わらない。変わるのは変動費、ひいては貢献利益だけだ。だから、本当に損しているか得しているかを計算するなら、貢献利益に注目しなければいけない。

今までは、変動費4,000円のものを1万円で売っていたわけだから、1個あたりの貢献利益は6,000円(=1万円−4,000円)。それが、年間1,000個だから600万円の貢献利益だ。

今までの貢献利益:600万円

新契約では、販売価格を7,500円にしたので、1個あたりの貢献利益は3,500円(=7,500円−4,000円)。それが、年間1,300個だから455万円の貢献利益だ。つまり、145万円損している。

新契約での貢献利益:455万円 → 145万円の損

つまり、上の会話では、400万円の利益が195万円になって、205万円損しているように課長は言っているけど、本当のところは、145万円の損、というのが正しい。まあ、それにしても損には違いないけどね。

直接原価計算によるセグメント別損益計算書

このように、一言、原価といってもそれが直接原価なのか、全部原価なのかによって利益計算は大きく変わる。また、全部原価計算なら、そのうち固定費部分がいくらなのかによっても利益は変わる。

さらに言えば、この固定費がやっかいで、この製品固有の(この製品の製造販売のためにしか使わない)固定費と、他の製品とも共通で使っている固定費というのがある。これをどう、計算するかで、またまた利益は変わる。

既に1級勉強している人へ。
直接原価計算のセグメント別損益計算書っていうのは、結局こういう計算をしているんだ。こういう話がベースにあるってことを意識して欲しい。

まだ、1級を勉強していない人へ。
1級になると、このあたりの考え方や計算方法を学ぶことになる。はっきりいって面白いよ。どうやったら儲かるのか!話だからね。


関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です