簿記の小噺・発生主義とは 〜学園祭の経理係〜

学園祭の経理係

学園祭の経理と、一般企業の経理、何が違うのだろう。そんな身近な話題から会計の本質に迫ってみよう。といっても元ネタは、この本なんだけどね。この本のコラムに触発されて書いてみました。

学園祭で喫茶店

来月の学祭での喫茶店、経理はBさんでいいよね。確か簿記1級持っているだっけ?完璧だね。
はい、大丈夫です…けど、別に私じゃなくても大丈夫だと思いますよ。Aさんでも出来ますって。
いやいやいやいや。むりむりむりむり。借方とか貸方とかだっけ?もう全然むり。この前、簿記3級の勉強したけど、3日であきらめたもん。
でも、学祭ですからね。現金の出し入れの記録だけでOKです。借方、貸方とか出てきませんから。
ん?お小遣い帳感覚で経理ができるってこと?またぁ、うそばっかり~
本当ですって。現金の出し入れだけ記録してください。
いや、学祭といっても舐めちゃあいかん。普通の喫茶店はちゃんと経理してるでしょ。うちもちゃんとやらないと。
喫茶店かどうかが問題なんじゃないんです。1回限りかどうかが問題なんです。
どういうこと?
えっとですね。普通のお店って、永久に続けるってことを前提にしているんです。
ま、潰れること前提にはしないから、当然だね。
すると、儲かってるかどうかを確認するのにどこかで期間を区切らないといけませんよね。ずーっと営業し続けているわけですから。
ふむふむ
で、普通は四半期とか1年で区切るんですよ。すると、営業し続けている中で、無理やり区切りを入れて計算するもんだから、いろいろ問題が起きるんです。
たとえば? 
買ったけど、まだ払ってないお金があるけど、これ費用?とか、100万円で買った機械、10年使うつもりだけど、まだ1年しか使ってない。このとき100万円を費用にしていいの?とか。
うーん、なるほど、色々面倒なんだね。
でも、学祭って1回限りじゃないですか。無理やり期間を区切るも何も2日間で自動的に終わるわけですよ。そして、買ったものも売ったものも最終的には全部、現金で精算するわけですよね。
なるほど、確かに最終的には全部現金で精算しちゃうね。
そうです。で、入ってきたお金よりも出ていったお金が少なければ儲かったって分かるわけです。
だから、現金の出入りだけ管理すればいいっていったんだね。
そういうことです。
なるほど。なんか出来そうかも。

なぜ簿記は面倒くさいのか

なぜ簿記は難しいんだろうか。この本質的な疑問について、なんとか簡単に説明出来ないもんだろうかと思って、この会話文を書いてみた。

企業は、事業をずっと継続することを前提にしている。だから決算書などを作るのにあたって、ある一定の期間を人為的に区切らなければならない。

一般には1年間の経営成績を損益計算書という形で公表する。そして、その時点の財政状態を貸借対照表という形で公表する。でも、現実には事業はずっと継続している。それを無理やり区切るわけだから、色々ルールが必要になる。「この費用は、この期間に入れていいのかな?お金は払ったけどサービスを受けるのは来期だよな」なんて場合もある。

つまり、期間という概念があるから難しいんだ。 これが、1回限りのプロジェクトなら話は簡単だ。プロジェクト終了時点で全てを現金で精算すればいい。儲かっているかどうかがすぐ分かる。 つまり、1回限りのプロジェクトなら現金のやりとりだけを記録すればいいわけだ。

この考え方の大切さは2級までしか勉強していないと、なかなか感じられない。 1級の設備投資意思決定会計を勉強しはじめると出て来る概念だ。

今までの会計は利益を最大のテーマにしてきた

日商簿記1級の原価計算の最大の山場の論点は、設備投資意思決定会計だ。試験にもよく出るし、実際役に立つ。

さて、初めてこの設備投資意思決定会計を勉強したときに、多くのひとは何となく違和感を覚える。 それは、損しているか得しているかの判断を「利益」じゃなくて「キャッシュ・フロー」で判断するからだ。

 だって、それまで工業簿記や原価計算で学習してきたことは、すべて利益を計算対象にしていたはずだ。製品原価を計算するのだって、損益計算書を作って利益を求めるためだし、CVP分析だって、利益を出すためにどれだけ売ればいいかを計算するものだ。とにかく「利益」がテーマだった。

それが、設備投資意思決定会計になった途端に、利益?いえ、それは考えません。大事なのはキャッシュ・フローです、ってな具合にちゃぶ台がひっくり返されちゃうのだ。

多くのテキストは、なぜ、そうするのか、この点について根本的な説明をしていない。(表面的な説明はあるけどね) だから、なんとなくモヤモヤしたまま勉強することになって、最後は暗記で乗り切ろうという不幸な道に進んでしまう人が出てくるわけだ。

なぜ設備投資意思決定会計はキャッシュ・フローで判断するのか

この会話文を読まれたみなさんは、設備投資意思決定会計をキャッシュ・フローで算定する理由は分かっただろうか?

それは、設備投資意思決定会計は、学園祭の喫茶店と同じだからだ。 プロジェクトは永遠には続かない。設備を除却するまでの1回限りだ。学園祭とは違い期間は5年とか10年とか長いかもしれない。でも、1回限りであるという点では、学園祭と同じだ。

だったら、いちいち期間を区切って精算する必要なんてない。プロジェクト終了後に全部現金で精算すれば、簡単・確実に儲かっているかどうかが判断できる。 だから、設備投資意思決定会計は、キャッシュ・フローベースで算定するんだ。

設備投資意思決定会計では、このほかに、時間価値の割引計算とかNPVやIRRなどの評価方法を学習するけど、それはおまけみたいなものだ。 一番大切なことは、そのプロジェクトは、どれだけのキャッシュ・フローを生み出すのか、その算定である、ってことをしっかり覚えておいてほしい。


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