世界で一番分かりやすい設備投資意思決定会計・第1回講義

設備投資意思決定会計をやさしくマスター・第1回講義
設備投資意思決定会計を学習するメリット
日商簿記1級合格を目指すなら、設備投資意思決定会計の習得は欠かせない。出題頻度No.1論点だ。しかも安定して出題されている。詳しくは、下記を参照して欲しい。
それだけではない。社会で一番役に立つのも設備投資意思決定会計の知識だ。
「いや、私、設備投資とかしないし…」なんて思っていない?
そうじゃない。「不動産投資を検討しているけど本当に得なのか」とか「住宅ローン、繰り上げ返済した方が得なのかしら?」とか「この企業の株価は適正?」とか、その知識を活かす場は、本当にたくさんあるんだ。社会で、そして実務でも、役立つ知識だと実感するはずだ。
また、他の資格、例えば中小企業診断士なんかでも、設備投資意思決定会計の知識は多いに活かされる。1級レベルを学習しておけば、それは大いなるアドバンテージだ。一次試験の財務会計レベルの問題なら何の準備もなくいきなり解けるだろう。
そう。設備投資意思決定の学習は、メリットが多いのだ。だから、しっかりマスターしてほしい。上っ面ではなく本質から理解してほしい。そんな思いでこの記事をみなさんに贈ろうと思う。
この記事が対象としている読者レベル
設備投資意思決定会計をまったくのゼロから語ると、それは、それは大変な量になってしまう。
ここでは、日商簿記1級の学習を始めて、ざっくりと、どのようなものかは分かっている、といった方を想定している。具体的には、ざっとテキストを読んだとか、練習問題の1問くらいは解いたことがあるくらいのレベルだ。まったく、学習経験の無い人にとっては少し難しく感じられるかもしれない。その点了承してほしい。
それでは始めよう!
設備投資意思決定会計問題を解いてみよう
もっとも基本的な問題をやってみよう(時間価値の理解)
問題1
0年度末に240万円を現金で投資すると、1年度末から3年度末にわたって毎年100万円を得られる投資案がある。この投資案は得かどうか、正味現在価値法を用いて検討しなさい。なお、資本コスト率を10%とする。
解答
86,852円の得
解説
設備投資意思決定会計の基礎知識が全くないと、「240万円投資して300万円もらえるなら、60万円得じゃない?」と思うことだろう。まあ、普通に考えれば合っている。
しかし、それは時間価値を一切考慮しない場合だ。時間価値を考慮すると「今もらえる100万円と1年後にもらえる100万円は価値が違う。同じ額もらえるなら、今もらった方が得だ。1年後の100万円は価値が低い」と考える。じゃあ、1年後の100万円は、今現在の価値にするといくらなのか。それは、次のように計算する。
100万円÷1.1≒909,091円
なぜ1.1で割ったのか。それは資本コスト率が10%だからだ。100%+10%=110%(=1.1)だ。
この計算が何を意味するか。それは「年利10%の利子がもらえる銀行に909,091円を預けたとする。すると1年後には10%の利子がついて100万円になる。だから、1年後の100万円と今現在の909,091円は同じ価値だ」ということだ。設備投資意思決定会計を学ぶのであれば、まず、この時間価値という概念の理解が必要だ。
本問の場合、
1年後の100万円:100万円÷1.1≒909,091円
2年後の100万円:100万円÷1.1÷1.1≒826,446円
3年後の100万円:100万円÷1.1÷1.1÷1.1≒751,315円
となりその合計は、2,486,852円だ。2,400,000円投資すると2,486,852円の価値が得られるのだから、差し引き86,852円の得ということになる。
少し難しい問題をやってみよう(税金の考慮)
問題2
0年度末に240万円の設備を購入すると、1年度末から3年度末にわたって毎年現金で100万円コストが削減できる投資案がある。この投資案は得かどうか、正味現在価値法を用いて検討しなさい。なお、資本コスト率を10%とする。また、設備は残存価額ゼロ、定額法で3年間にわたり減価償却する。法人税等の税率は40%、当社は黒字企業である。税金を考慮して解答しなさい。
解答
112,095円の損
解説
さきほどの問題と似ているようだけど、少し違う。問題1は240万円を現金で投資すると毎年100万円もらえるという想定だった。そして税金は考えなかった。今回は、240万円の設備を買うと、毎年100万円コストが削減できるという想定だ。そして税金を考慮するようだ。さきほどとは似ているようで少し違う。
この2つ、もっとも重要な違いは何だろう。実は、税金を考慮しないで問題2を計算すると、問題1とまったく同じ解答になる。つまり、問題2の最大のポイントは、現金投資か設備購入なのかが問題なのではなくて、税金を考慮するのかしないのかが問題なのだ。まず、この点をしっかり押さえてほしい。
では、どのように計算するのだろうか。毎年、100万円コストが削減できるということは、この投資案を採用すれば、採用しなかった場合に比べて、毎年100万円、現金が増えるはずだ。しかし、儲かったら税金もその分とられてしまう。つまり100万円の40%は税金で持っていかれるので60万円しか現金は増えない。
と、まずは、こんな感じで考える。でもよく考えてみよう。240万円の設備を買って残存価額ゼロ、3年間の定額法で償却するのだから、年々の減価償却費は80万円だ。つまり、100万円のコスト削減ができても80万円の減価償却費が発生するので、結果として帳簿上では20万円分しか、コスト削減できていないことになる。税金はこの帳簿上の利益に対してかかるので20万円×40%=8万円しか税金はとられないのだ。
つまり、100万円のコスト削減で現金は100万円増えるけど、税金で8万円持っていかれるので、結果として92万円現金が増えるということだ。あとは問題1と同じように計算する。
1年後の92万円:92万円÷1.1≒836,364円
2年後の92万円:92万円÷1.1÷1.1≒760,331円
3年後の92万円:92万円÷1.1÷1.1÷1.1≒691,210円
となりその合計は、2,287,905円だ。2,400,000円投資しても2,287,905円の価値しか得られないのだから、差し引き112,095円の損ということになる。
設備投資意思決定会計問題の本質
設備投資意思決定会計問題を解くにあたって重要な要素は3つ
実は、上記2つの問題が理解できれば、もうそれだけで設備投資意思決定会計の基本は終わったといえる。設備投資意思決定会計問題を解くにあたって重要な要素は3つある。さきほどの問題には、その3つの要素すべてが盛り込まれているのだ。その3つの要素とは次のとおりだ。
- 得か損かの判断は、現金の収支にもとづく。
- 現金収支においては税金も考慮する。税金は帳簿上の利益の額にもとづいて算定される。
- 正味現在価値法を採用する場合は、時間価値も考慮する。
1つ1つ見ていこう。
得か損かの判断は、現金の収支にもとづく
さて、設備投資意思決定会計のもっとも重要はポイントがこれだ。「得か損かの判断は、現金の収支にもとづく」ということは、もう少しカッコよく言えば「投資案の評価はキャッシュ・フローにもとづいて計算する」ということだ。(なお、ここからは、現金収支のことをキャッシュ・フローということにする。同じ意味だ。)
まずは、ここをきっちり押さえてほしい。ここがあやふやなまま、この先の計算方法を暗記してしまうと、結局つまずくことになる。
なぜ、投資案の評価がキャッシュ・フローにもとづくのか、というのは、この記事を参考にしてほしい。かなり噛み砕いているので読みやすいはずだ。
キャッシュ・フローにおいては税金も考慮する
試験対策上とても大切なポイントだ。すでに1級の設備投資意思決定会計の章を学習済みなら「タックス・シールド」という名でこの税金に関する計算方法を学習していることだろう。実は、このタックス・シールドが曲者なのだ。先の問題2を再び見てみよう。条件はこうだった。
- 減価償却費:240万円÷3年=80万円
- コスト節約額:100万円
ここで、テキストでは次のような計算式で学習した人が多いと思う。
100万円×0.6+80万円×0.4=92万円
正直、この計算式の本質的な意味を理解できている人がどれほどいるのだろうか。意味を分からず、この計算式を暗記していないだろうか。もしも、そうなら、今ここで、しっかり学習してほしい。この式は、さきほど計算した「一見100万円儲かりそうだけど8万円税金とられるから結果92万円しか儲からない」という計算をしているにすぎない。だから、本筋から言えば、
①100万円×0.6+80万円×0.4=92万円 なんていう式ではなくて、
②100万円-税金8万円=92万円 という式のほうがよほどしっくりくる。
実は、数式を変形していけば、①の式から②の式を導くことも、その逆も可能だ。つまり、この2つの式は数学的にまったく同じことをしているのだ。だから、別にどちらを使ってもかまわない。知りたいのは、結果として年々のキャッシュ・フローは92万円だ、ということだけだからだ。
では、なぜ、多くのテキストでは①を学習するのか。それは、①が便利だからだ。いちいち帳簿上利益がどうなっているかを算定し、そのうえで税金を計算するのは面倒だ。そんなことをしなくても一発でキャッシュ・フローがわかる。便利だ。ただそれだけなんだ。だから、②の計算の方が便利だと思えばそれを使えばいい。どっちでもいいのだ。こういうことを理解しないまま、テキストに書かれているとおりに①の式を暗記すると、結局つまづくことになるのだ。
正味現在価値法を採用する場合は、時間価値も考慮する
見出しが「正味現在価値法を採用する場合は、時間価値も考慮する」となっているけど、正確には正味現在価値法に限った話じゃない。他にも時間価値を考慮する評価法もある。逆に時間価値を考慮しない評価法もある。それぞれに用途や目的があり、それぞれに長所と短所がある。
これも計算方法を暗記するのではなくて、それぞれの特徴をふまえた上で学習すると、理解が深まるし、忘れないしだろう。だいぶ長くなったので、第1回目の講義はここまでとする。
第2回目の講義はキャッシュ・フローの算定をより深く
第2回はキャッシュ・フローの算定についてより深く学習する。まだ基礎編だけど、とても大事なところなのでしっかりマスターしていこう。
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投資案の評価方法では正味現在価値法の他に内部利益率法や収益性指数法などもありますが、内部利益率法のやり方は試験には出題されるのでしょうか?
内部利益率法の考え方はわかるのですが、計算の求め方は暗記に頼ってしまいすぐ忘れてしまいます。
>内部利益率法のやり方は試験には出題されるのでしょうか?
はい、よく出ます。昨日の1級本試験でも出題されました。
>内部利益率法の考え方はわかるのですが、計算の求め方は暗記に頼ってしまいすぐ忘れてしまいます。
考え方を理解されているようですから、その考え方にもとづいて解法を覚えるようにしましょう。内部利益率とは、その利益率を割引率に用いてNPVを計算すると、ゼロになるということですよね。
ということは、適当な割引率をチョイスして、NPVを計算してみればいいわけです。
(まずありえませんが)偶然、ピッタリ0になったら、そのチョイスした割引率が内部利益率です。
で、通常、NPVは0よりも大きかったり小さかったりするわけですが、大きいなら、内部利益率ももっと大きな値ですので、もう少し大きな割引率をチョイスして、NPVを計算してみればいいわけです。で、行き過ぎ(つまりNPVがマイナスになったら)たら、もう少し小さな割引率が答えです。
で、例えば、6%と7%の間に答えがあるぞ、ということが分かったら、次のステップとして補間法を使います。これも、別に目新しい方法ではなく、2級で学習した高低点法と同じです。
以上が、基本的な解き方ですが、実際にはもう少し効率よく解く方法があります。ただし、そういったテクニックに走るよりも、まずは、上記の基本的な解き方をしっかり身につけることが大事だと思います。
何故、資本コスト率を使って割引計算を行うのですか?
初歩的な質問で申し訳ありません。
原則、こちらブログのコメント欄では、会計の一般論についてのご質問にはお答えしておりません。申し訳ないのですが、ご了承ください。(特に、この質問はかなり根本的な内容です)
「割引計算 資本コスト率 なぜ」 でググるとたくさん出てきますので、ご覧になってみてください。
ただ、ググった記事を読み解くためには、簿記会計の知識に加えて、ファイナンスの知識も必要な場合が多いです。会計士とかではなく、簿記1級前提ならオーバースペックかもしれません。
なお、そこまで本質的な内容を知りたいわけではなくて、素朴に資本コスト率による割引計算の意味がわからんので軽くイメージだけでも教えてくれ、ということなら、次のようなイメージを持つといいと思います。
例えば、ある企業は、営業活動で年間5%のリターンが得られることを最低ラインとしており、通常通り営業活動をすればそれくらいのリターンは得られるものとします。(それ以下のリターンしかないと赤字になるイメージ)
さて、今1,000万円のお金が手元にあるとして、これをある投資案に投資すると1年後1,100万円になって返ってくるとします。これ、やった方がいいですか、やらない方がいいですか?
ここで、通常通りの営業活動なら5%のリターンなので1,000万円→1,050万円となることが予想されます。それに対して、本投資案をやると1,000万円→1,100万円なので、やったほうがいい!という判定もできます。(これは終価による判定です)
一方で、現在価値に戻して判定することもできます。
1年後に1,100万円になるということは、今現在で1,100万円÷1.05=1,048万円の現金に基いて、通常の営業活動をすることと一緒です。つまり、今手元にあるお金1,000万円は、本投資案をやることによって1,048万円の価値を持つことになるので、お得だねという考え方です。
設備投資意思決定会計の正味現在価値法はこちらの考え方です。
で、さきほど「ビジネスで年間5%のリターンが得られることが最低ライン」と書きましたが、この5%が加重平均資本コスト率(WACC)です。そして、上記の計算は、将来のCFをWACCで割引計算していますよね。
わかりやすさ優先で書いたので多少齟齬がありますが、イメージ持つだけならこんなんでいいんじゃないですか。