世界で一番分かりやすい設備投資意思決定会計・第8回講義

設備投資意思決定

設備投資意思決定会計をやさしくマスター・第8回講義

さまざまな評価法の意味

前回までで、設備投資意思決定会計の本試験に出そうな評価法の計算方法は一通り押さえた。ここではそれぞれの評価法の意味を学習しよう。単に計算方法を暗記するとすぐ忘れてしまうが、意味を知っているとなかなか忘れないものだ。そして理論問題が出題されたときの対策にもなるからだ。

評価方法の分類

評価方法は、次に示したようないくつかの基準で分類することができる。

  1. 時間価値を考慮するかしないか
  2. 率を求めているのか額を求めているのか、それ以外か
  3. 会計的な利益にもとづくのか、キャッシュ・フローにもとづくのか
評価方法略称時間価値数値の意味評価対象概要
正味現在価値法NPVCF投資によって得られる年々のネット・キャッシュ・フローの現在価値合計から投資額を差し引くことで投資の正味現在価値を計算します。この額がプラスであれば投資を実行し、マイナスであれば投資を実行しないという評価方法が正味現在価値法です。
収益性指数法PI指数CF投資によって得られる年々のネット・キャッシュ・フローの現在価値合計を投資額で割ることで両者の比率を計算します。この比率が収益性指数であり、この値が1よりも大きければ投資を実行し、1よりも小さければ投資を実行しないという評価方法が収益性指数法です。
内部利益率法IRR CF正味現在価値は、割引率によって変化します。この正味現在価値がちょうどゼロになる割引率が内部利益率です。この値が資本コスト率を上回っていれば、投資を実行しようとするものです。
割引回収期間法期間CF投資額はいつ回収できるのかその回収期間を求める方法です。投資から得られる年々のネット・キャッシュ・フローの現在価値を用いて計算します。短期間で回収できれば安全な投資と判断します。
単純回収期間法×期間CF投資額はいつ回収できるのかその回収期間を求める方法です。投資から得られる年々のネット・キャッシュ・フローから計算します(時間価値は考慮しません)。短期間で回収できれば安全な投資と判断します。日本における実務ではもっとも用いられている方法です。
投下資本利益率法ROI×利益投資額に対する利益の比率を求め、その比率によって投資の採用・不採用を検討する方法です。この方法は貨幣の時間価値を考慮しない簡易法ですが、計算が容易であるため実務ではよく使われます。

試験対策としてはどれが重要か

もっともよく出題されるのは、正味現在価値法(NPV)だ。圧倒的一番人気。それ以外はどれもボチボチといった感じだ。頻繁には出ないが、しかし忘れたころに出題される感じだ。

試験対策として考えると、当然のことながら正味現在価値法(NPV)は必ずマスターしておかなければならない。これが1番手。そして2番手としては収益性指数法(PI)をおすすめする。なぜなら、NPVとPIは、計算過程がほとんど一緒だからだ。最後に「引く」か「割る」かの違いしかない。セットで覚えてしまおう。忘れてしまった人はこの記事の収益性指数の箇所を参照してほしい。

次に押さえてほしいのが、回収期間法だ。これは実務でもっとも利用されている指標であり、試験にもちょくちょく出るからだ。計算方法も難しくはないので、押さえてほしい。

内部利益率法(IRR)もたまに出題されるので、そこそこ大切だ。しかし、計算量が多く面倒で不正解率が相当高いと推測される。ということは、傾斜配点によって埋没される可能性が高いということだ。よって、重要性から言えばそれほど高くない

最後に、投下資本利益率法(ROI)だが、これは特徴的で、日商簿記1級ではほぼ出題されないと思って大丈夫だ。しかし、全経上級ではたまに出題されている。全経上級の受験も視野に入れているなら押さえておこう。

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どの評価方法が優れているのか

「優れているかどうか」というのは、難しい評価基準だ。というのも、学問と実務では、その評価基準が大きく変わるからだ。

学問としては(つまり会計学者の考えとしては)「時間価値を考慮していない」ことは欠点であると考える。正確性を欠くからだ。よって、優れた評価法は、正味現在価値法(NPV)、収益性指数法(PI)、内部利益率法(IRR)に絞られ、なかでもNPVとIRRが重要という考えのようだ。そして、NPVが額であり、IRRが率であることを論拠に長所と短所を考えるという論理展開だ。

一方、実務では「計算しやすく」「分かりやすい」ということが大切だ。戦略的な意思決定は、多くの場合、経営者の一存で決まるわけではなく、役員会などに諮られる。そのさい「資本コスト率5%を前提として正味現在価値で評価した場合・・・」といっても、会計的な知識が無いと、それがどれほどのものか理解できない。役員会などは「誰もが分かる」ことが肝要であり、分かりにくい指標は好まれないのだ。また、資本コスト率はその算定自体が、実務的に困難であり、計算も容易ではない。そんなことからNPVなどは、実はあまり多くは使われていないのだ。

それに比べて「回収期間法」は大変分かりやすい。「投資額は1億円ですが、3年で回収できます!」おお、なんて分かりやすいんだろう。ということで実務では、回収期間法がもっとも使われている

しかし、学問的には、回収期間法は「時間価値を考慮していない」「回収期間後の収益性を考慮していない」(つまり3年で回収出来る場合、4年目以降どれほど儲かろうが損しようが、それが指標として考慮されていないということ)という欠点があると言われている。

学問的に見るとどの評価方法が優れているのか

試験は学者が作っているので、学問的には、どの評価方法が優れているかを押さえておこう。正味現在価値法(NPV)、収益性指数法(PI)、内部利益率法(IRR)を比較して考える場合が多い。

 正味現在価値法(NPV)と収益性指数法(PI)の比較

正味現在価値と収益性指数は、ともに投資によって得られる年々のキャッシュ・フローの現在価値合計と投資額から計算するという点では同じだ。違いは、正味現在価値が「額」であるのに対して、収益性指数は「率」であるという点だ。

例えば、次の2つの投資案を比較した場合、

A案:100万円の投資に対して、年々のCFの現在価値合計が120万円。
B案:1,000万円の投資に対して、年々のCFの現在価値合計が1,020万円。

正味現在価値法によれば、どちらも正味現在価値は20万円であり、両案に優劣はない。一方、収益性指数法によれば、A案は投資額を1.2倍にするのに対し、B案は1.02倍だ。したがってA案の方が効率が良いことが分かる。

このように、いくら儲かるか、損するかといった絶対額の把握には正味現在価値法が優れているが、投資資金の効率性の測定は、収益性指数法が優れている。

正味現在価値法(NPV)と内部利益率法(IRR)の比較

内部利益率法の優れている点は、資本コスト率が不明でも投資評価が行える点にある。実務的に、資本コスト率の正確な把握は結構困難だ。この場合、正味現在価値法や収益性指数法では投資案の評価が行えないが、内部利益率法なら評価可能だ。つまり「資本コスト率は不明だけど、この内部利益率以下で資金調達出来そうなら、この投資案は採用すべきだ」という判断が可能になるわけだ。

複数の投資案を評価する場合

複数の投資案を評価する場合、まずは、各案がどのような関係にあるのかを考えないといけない。たとえば、工場建設で2階建と3階建のどちらにしようかを検討しているとする。このケースを相互排他的投資案という。つまりどちらかしか選べないというケースだ。

これに対してA案、B案のどちらも選べるし、両方選んでも選ばなくても構わないというケースがある。これを独立投資案という。片方の案を選んだことが他方の案に影響を与えない(つまり投資案同士が独立している)からだ。

独立投資案の場合は、正味現在価値法と内部利益率法のどちらを採用しても構わない。正味現在価値がプラスになら、内部利益率は必ず資本コスト率を上回るからだ。つまりどちらの評価方法によっても同じ結論が得られるのだ。

対して、相互排他的投資案は、そうとは限らない。内部利益率の方が高くても、それが優れているとは限らないのだ。結論から言えば、相互排他的投資案の場合は内部利益率ではなくて、正味現在価値がもっとも大きい案を採用すべきだ。なぜなら、いくら率がよくても結果として絶対額が儲からないのでは意味が無いからだ。

1級の本試験対策としては、ここまでを押さえておけば十分だ。

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世界で一番分かりやすい設備投資意思決定会計・第8回講義” に対して1件のコメントがあります。

  1. cafe より:

    プロフェッショナル簿記をいつも興味深く読んでいます。
    内容が豊富でありがたいです。ありがとうございます。

    ところで、
    割引回収期間法は、時間価値は〇では?

    1. pro-boki より:

      ですね。
      ありがとうございます。修正しました。
      cafeさん、アルバイトしません?
      それと文章とか書くの得意?校正とかしたことある?

    2. cafe より:

      ありがとうございます。
      しかし、アルバイトとかとんでもないです。
      今後も楽しく読ませて頂きます。

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