世界で一番分かりやすい設備投資意思決定会計・第4回講義

設備投資

設備投資意思決定会計をやさしくマスター・第4回講義

いよいよ設備投資意思決定会計の本試験レベル問題

前回は、設備投資意思決定会計の基本問題にチャレンジしてもらった。
もし、”少し難しいな”と思う箇所があったら、先に進まず前回の演習をしっかり腹落ちするまでマスターしてほしい。腹落ちしない点は遠慮なく質問してね。

さて、ここからは、本試験レベルを体感してもらおう。問題事体は、先程の基本問題を踏襲している。先程の基本問題から2年が経過して、設備の追加導入を検討しているシチュエーションだ。数値はあえて一致させてある。さあ、がんばってみよう。

問題

当社では1種額の製品X(販売単価8,000円)を1台の設備(現設備)で製造販売している。製品Xの販売は順調であり、供給が需要に追いついていない。そこで、新設備の追加導入を検討している。以下の資料にもとづき各問に答えなさい。差額ネット・キャッシュ・フローがキャッシュ・アウトフローになるとき、および正味現在価値がマイナスとなるときは△を付記しなさい。なお、現在は20X2年度末である。

【資料1】設備の取得と減価償却について

  取得原価 取得予定日 残存価額 耐用年数 耐用年数到来時
予定売却価額
減価償却
現設備 5,400万円 20X0年度末 0円 6年 500万円 定額法
新設備 4,320万円 20X2年度末 0円 4年 300万円 定額法

【資料2】製品X1個あたりの加工時間と年間稼働時間上限について

  製品X1個の
加工時間
設備の年間
稼働時間上限
年間メンテナンス時間
(この時間設備は稼働できない)
現設備 0.5時間/個 5,000時間 0時間
新設備 0.4時間/個 5,000時間 200時間

【資料3】製品Xの製造原価と販管費について

  • 製品X1個の製造には1,500円/個の原料1個が必要である。
  • 変動加工費は加工時間1時間あたり8,000円掛かるものとする。
  • 現時点の固定加工費は(減価償却費を除いて)年間600万円であるが、新設備を導入すると300万円増加する。
  • 製品X1個の販売には100円/個の販売費が必要である。
  • 現時点のその他販売費および一般管理費はすべて固定費で年間200万円であるが、新設備を導入すると100万円増加する。

【資料4】その他計算条件

  • 市場需要は15,000個であり、今後4年間において変動はないものとする。
  • 減価償却費を除くすべての費用は現金支出を伴うものとし、売上は全て現金売上である。
  • キャッシュ・フローは年度末にまとめて生じると仮定する。
  • 法人税等は、負担すべき年度末に支払われるものと仮定する。法人税等の税率は40%、当社は順調に利益をあげている。キャッシュ・フローは税引き後で考えること。
  • 加重平均資本コスト率は8%である。
  • 8%の割引率の現価係数と4年間の合計は以下のとおりである。
1年 2年 3年 4年 合計
0.9259 0.8573 0.7938 0.7350 3.3120
 
【設問】
以下の設問において、差額キャッシュ・フローとは「現設備を使い続ける現状維持案」を基準に、新設備を追加導入した場合の差額キャッシュ・フローをいう。

① 現時点(20X2年度末)における差額キャッシュ・フローを求めなさい。
② 20X2年度末から20X6年度末における年々の差額キャッシュ・フローを求めなさい。
③ 20X6年度末におけるプロジェクト終了に伴う差額キャッシュ・フローを求めなさい。
④ 本投資案の正味現在価値を求めなさい。

解答と解説

答えは・・・(クリックで見えます)

解答

① 現時点(20X2年度末)における差額CF:△43,200,000円
② 20X2年度末から20X6年度末における年々の差額CF:14,880,000円
③ 20X6年度末におけるプロジェクト終了に伴う差額CF:1,800,000円
④ 本投資案の正味現在価値:7,405,560円

解説

いよいよ本試験レベル問題だ。前回でも書いたが、設備投資意思決定会計を解くうえで大切なことは、資料の量に圧倒されないことだ。まずは資料を整理しよう。

それから、設備投資意思決定会計の問題には必ずストーリーがある。それをつかむことが大切だ。本問の場合は、設備投資後2年が経過し、供給が需要に追いついていない状況だ。そこで拡張投資を検討している、というシチュエーションだ。この点を意識しよう。

拡張投資の問題は、最適セールス・ミックスと絡めてくることがよくある。
つまり、新設備と現設備では生産効率が違うので、貢献利益が異なってくることがあるのだ。設備の稼働時間は限られている。つまり制約条件だ。そして設備によって貢献利益が異なる。では、設備をどう活かせばもっとも利益が高くなるか・・・まさに最適セールス・ミックスの問題だ。

この手の問題は事前に解いておかずに本番でいきなり対面したら、まず正答できないだろう。ただ知っていればたいして難しい問題ではない。本問をとおしてしっかりマスターして欲しい。本問が腹落ちすれば拡張投資の問題は、本試験レベルも大丈夫だ。

方針を決める

拡張投資の問題は、総額法で解くか差額法で解くかという、そもそもの方針決めが大事だ。近年は計算過程を問われることがないので(昔はあった)どちらで解いても構わない。

よく、初心者向けが総額法、熟練者向けが差額法、といったイメージがあるが、そんなことはまったくない。それこそ問題による。どちらかに決め打ちしないほうがいい。ここの柔軟性は大切だ。

ただ、総額法は、全ての要素を丁寧に書き出すので一見すると簡単そうに見えるだが、私はお勧めしない。なぜなら計算量が膨大になり、時間も掛かるし、ケアレスミスをしやすいからだ。

差額法は、一見すると難しそうだけど、埋没原価と機会原価をきちんと把握できれば簡単だ。しかも圧倒的に計算量が少ない。(ただ、その埋没原価と機会原価の把握が難しいのだが・・・まあ慣れの要素は大きいかもしれない。)

ちなみに、管理会計の実務者やリアル経営者の頭の中は完全に差額法だ。そもそも経営者は、管理不能のこと(つまり埋没原価)を考慮しないし、常に機会原価を意識しているからだ。まあ、これは余談だけど。

ここでは差額法で解くとどうなるかを見ていこう。

資料を整理する(新設備)

差額法でいくと決めたら、何が埋没するのかを考える。拡張投資の場合、現設備はそのまま使うのだから、現設備に関する情報はほぼすべて埋没する。したがって新設備についてのみ資料を整理しよう。本問の場合は、次のとおり。

  • 取得原価:△4,320万円
  • 減価償却費:4,320万円÷4年=1,080万円
  • 耐用年数到来時の簿価:0
  • 耐用年数到来時の売却価額:300万円

Step.1 生産・販売の状況を把握する

ここが、本問の最大のポイントだ。まず現在、現設備で何個生産しているのかを計算する。前回の問題と全く数値設定が同じだから答えは10,000個だ。念のため式を書いていくと、資料2に製品Xを1個作るのに0.5時間、年間で5,000時間まで稼働とあるから、
現設備の生産数は、5,000時間÷0.5時間=10,000個
同様に、新設備は、(5,000時間−200時間)÷0.4時間=12,000個

つまり、合計で22,000個まで生産可能。しかし、市場の需要は15,000個しかない。つまりどちらかの設備は休むことになる。

では、どちらの設備を休ませればいいかと言えば、それは、儲からない方だ。儲かる方をフルに動かして、儲からない方を休ませる。そういう考え方でOKだ。

では、どちらが儲かるか。それは、貢献利益を計算しないと分からない。そこで、現設備で生産した場合と新設備で生産した場合の貢献利益を計算してみよう。

Step.2 貢献利益

現設備
販売価格 8,000円/個 1個 8,000円
原料 1,500円/個 1個 1,500円
変動加工費 8,000円/時 0.5時間 4,000円
変動販売費 100円/個 1個 100円
貢献利益     2,400円
新設備
販売価格 8,000円/個 1個 8,000円
原料 1,500円/個 1個 1,500円
変動加工費 8,000円/時 0.4時間 3,200円
変動販売費 100円/個 1個 100円
貢献利益     3,200円

つまり、新設備で生産したほうが儲かるわけだ。だから新設備でフルに生産し、残りの需要を現設備でまかなう、という方針になる。よって、
新設備で12,000個、現設備で3,000個(=15,000個-12,000個)生産すればいいことになる。

 Step.3 現時点でのネット・キャッシュ・フロー

では、問1から解いていこう。前回も演習したとおり、設備投資意思決定会計は次の3段階でキャッシュ・フローを算定すると計算しやすい。大事なことなので、繰り返そう。

① 投資時点
② 年々
③ 投資終了時

まずは、①の投資時点だ。現時点(20X2年度末)の差額キャッシュ・フローは新設備の取得原価4,320万円のみだ。だから、答えは△4,320万円

え?現設備で生産している分は考えなくていいの?と思った人はいないだろうか。これは考えなくていい。なぜなら、問われているのは差額キャッシュ・フローだからだ。これは「現設備を使い続ける現状維持案」を基準に、新設備を追加導入した場合の差額と定義されている。

ひらたくいえば、新設備を導入したときとしないときで、何が異なるか?その分だけ答えてね、という意味だ。それは新設備の取得原価だけだ。だから、その取得原価が答えになる。

現設備での生産販売によるキャッシュ・フローは、新設備の導入に関わらず、同額が発生するので埋没するわけだ。

Step.4 年々の差額キャッシュ・フロー

問2は、本問のハイライトだ。差額キャッシュ・フローを求めればいいのだから、新設備を導入すると、どれだけ貢献利益が増えるのか、また固定費が増えるのかを考えればいい。まず、貢献利益だ。

現設備だと、
@2,400円×1万個=2,400万円だった。
それが、新設備を追加導入すると、
@2,400円×3,000個+@3,200円×12,000個=4,560万円になる。
よって、新設備の追加導入で、貢献利益が2,160万円増加する。
(この式の意味がよく分からない人は、Step.2をよく読んで欲しい。)

続いて、固定費だ。問題文に新設備を追加導入すると、製造固定費で300万円、販管費で100万円増加するとある。よって固定費は400万円増加するわけだ。(現時点の固定加工費600万円と固定販管費200万円が埋没する点に注意しよう)

つまり、営業利益は1,760万円(=2,160万円−400万円)増える。

それだけではない。新設備を導入したのだから、その分の減価償却費1,080万円も考慮しなければならない。ただし、現設備の減価償却費は考える必要ない。だって、新設備の導入に関わらず現設備の減価償却費はどっちみち掛かるのだから埋没だ。ここまで分かれば、あとは、いつもの公式に入れてしまえばOKだ。

年々の差額キャッシュ・フロー:1,760万円×0.6+1,080万円×0.4=1,488万円

なお、本問はタックス・シールドを用いた計算式で計算しているが、当然PLを作ってそこからキャッシュ・フローを算定しても同額になる。余裕のある人は検証してみよう。(詳しくは前回の記事を参照のこと)

Step.5 投資(プロジェクト)終了時の差額キャッシュ・フロー

問3は、新設備の売却分だけを考慮すればいい。現設備は、新設備の導入に関わらず、どのみち終了時点で売却するので埋没項目だ。
新設備は300万円で売れるが簿価はゼロなので300万円まるまる利益だ。よって、300万円×0.4=120万円の税金がかかるので180万円しか手元に残らない。

Step.6 正味現在価値

さあ、ここまでくればあとは機械的な作業だ。頭を使うところではない。

△4,320万円+1,488万円×3.312+180万円×0.735=7,405,560 円 と計算できる。

第5回目の講義は取替投資の問題にチャレンジ

次回の講義は、取替投資の問題にチャレンジだ。これも応用問題だ。機会原価の概念をしっかり押さえられるかどうかが鍵だ。本試験での出題可能性も高いので、がんばろう。

世界で一番分かりやすい設備投資意思決定会計・第5回講義

 


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世界で一番分かりやすい設備投資意思決定会計・第4回講義” に対して1件のコメントがあります。

  1. えだまめ より:

    富久田先生。こんばんはです。

    自分の考え方が間違っていましたら、ごめんなさい><
    新設備の稼働時間4800hで、1時間に2.5個作れるので、年間12,000個
    旧設備の稼働時間5000hで、1時間に2個作れるので、年間2,500個
    になると思います。

    1. pro-boki より:

      えだまめさんへ。

      >新設備の稼働時間4800hで、1時間に2.5個作れるので、年間12,000個
      これは、4,800×2.5=12,000 ということですよね。

      >旧設備の稼働時間5000hで、1時間に2個作れるので、年間2,500個
      上記と同様に計算すれば、5,000×2=10,000 ですよ。
      なぜ、急に割っちゃったの?新設備と同様に掛け算しないとダメですよ。

  2. えだまめ より:

    ありがとうございました。

    メモ用紙に現有設備で何個作れるかを計算してあったのに・・。
    まーた~。遠い世界へ一人で旅立ってました。はぁ~。
    恥ずかしいです。

    1. pro-boki より:

      ちょっと、コツなんですけど、こういうのってリアルなイメージを持って考えてみるのがお勧めですよ。
      だって、4,800hで、1時間に2.5個作れる設備と、5,000hで、1時間に2個作れる設備って、そんなに性能違わないじゃないですか。
      計算方法うんぬんよりも、片方が12,000個も作れて、もう片方が2,500個しか作れない。何でこんなに大きく違うねん!大して性能変わらん設備だろうに!とツッコミを入れるといいです。
      すると、どこかおかしいぞ。どこだ。という感じで気付きにつながります。

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