世界で一番分かりやすい設備投資意思決定会計・第6回講義

設備投資

設備投資意思決定会計をやさしくマスター・第6回講義

総額法と差額法による解法

前回は、設備投資意思決定会計の取替投資の問題にチャレンジしてもらった。これで、新規投資、拡張投資、取替投資と、本試験で出題されそうなパターンは一通り押さえた。ここまでは、いずれも差額法によって計算した。今度は同じ問題を総額法で計算するとどうなるかを見ていこう。よくどちらの方法がいいですか、と聞かれる。これはなかなか難しい質問だ。いっとき、総額法の方が分かりやすいからいいのではないか、と思っていた時期もあったが、今はむしろ差額法を押している。両方を知ったうえで、自分の得意パターンを会得してほしい。

問題(前回、前々回と数値設定は同一)

当社では1種額の製品X(販売単価8,000円)を1台の設備(現設備)で製造販売している。製品Xの販売は順調であり、供給が需要に追いついていない。そこで、高性能な新設備の導入を検討している。以下の資料にもとづき各問に答えなさい。ネット・キャッシュ・フローがキャッシュ・アウトフローになるとき、および正味現在価値がマイナスとなるときは△を付記しなさい。なお、現在は20X2年度末である。

【資料1】設備の取得と減価償却について

  取得原価 取得予定日 残存価額 耐用年数 耐用年数到来時
予定売却価額
減価償却
現設備 5,400万円 20X0年度末 0円 6年 500万円 定額法
新設備 4,320万円 20X2年度末 0円 4年 300万円 定額法

なお、現時点において、現有設備は2,000万円で売却できるものとする。

【資料2】製品X1個あたりの加工時間と年間稼働時間上限について

  製品X1個の
加工時間
設備の年間
稼働時間上限
年間メンテナンス時間
(この時間設備は稼働できない)
現設備 0.5時間/個 5,000時間 0時間
新設備 0.4時間/個 5,000時間 200時間

【資料3】製品Xの製造原価と販管費について

  • 製品X1個の製造には1,500円/個の原料1個が必要である。
  • 変動加工費は加工時間1時間あたり8,000円掛かるものとする。
  • 固定加工費は設備が1台だけなら(減価償却費を除いて)年間600万円である。設備が2台になると300万円増加する。
  • 製品X1個の販売には100円/個の販売費が必要である。
  • 現時点のその他販売費および一般管理費はすべて固定費で設備が1台だけなら年間200万円である。設備が2台になると100万円増加する。

【資料4】その他計算条件

  • 市場需要は15,000個であり、今後4年間において変動はないものとする。
  • 減価償却費を除くすべての費用は現金支出を伴うものとし、売上は全て現金売上である。
  • キャッシュ・フローは年度末にまとめて生じると仮定する。
  • 法人税等は、負担すべき年度末に支払われるものと仮定する。法人税等の税率は40%、当社は順調に利益をあげている。キャッシュ・フローは税引き後で考えること。
  • 加重平均資本コスト率は8%である。
  • 8%の割引率の現価係数と4年間の合計は以下のとおりである。
1年 2年 3年 4年 合計
0.9259 0.8573 0.7938 0.7350 3.3120
 
【設問】
「現設備を使い続ける現状維持案(現状案)」「現設備に加えて新設備を追加導入する案(拡張案)」「現設備を新設備に取り替える案(取替案)」それぞれについて、以下の設問に答えなさい。

① 現時点(20X2年度末)におけるネット・キャッシュ・フローを求めなさい。
② 20X2年度末から20X6年度末における年々のネット・キャッシュ・フローを求めなさい。
③ 20X6年度末におけるプロジェクト終了に伴うネット・キャッシュ・フローを求めなさい。
④ 本投資案の正味現在価値を求めなさい。

【答案用紙】

  現状案 拡張案 取替案
① 現時点のNCF      
② 年々のNCF      
③ プロジェクト終了に伴うNCF      
④ 正味現在価値      

解答と解説

答えは・・・(クリックで見えます)

解答

  現状案 拡張案 取替案
① 現時点のNCF 0円 △43,200,000円 △16,800,000円
② 年々のNCF 13,200,000円 28,080,000円 22,560,000円
③ プロジェクト終了に伴うNCF 3,000,000円 4,800,000円 1,800,000円
④ 正味現在価値 45,923,400円 53,328,960円 59,241,720円

解説

総額法は、すべての項目についてそのキャッシュ・フローを算定する方法だ。仕組みが単純なので分かりやすそうだが、項目が多いと計算量が多くなり、計算ミスを誘発される。また、計上漏れや二重計上してしまうこともある。だから、言うほど簡単ではないと思う。ただ、本問は、問題の構造がシンプルなので総額法は向いていると思う。

資料を整理する(新設備と現設備)

まず設備について資料を整理する。前回と一緒だ。

  新設備 現設備
取得原価 △4,320万円 △5,400万円 
減価償却費 4,320万円÷4年=1,080万円 5,400万円÷6年=900万円 
耐用年数到来時の簿価  0
耐用年数到来時の売却価額  300万円  500万円 
現時点での売却価額 2,000万円  

Step.1 生産・販売の状況を把握する(前回の再掲)

現設備は、5,000時間÷0.5時間=10,000個
新設備は、(5,000時間−200時間)÷0.4時間=12,000個

市場の需要は15,000個だからいずれの設備を利用するにしてもフル操業になる。

Step.2 貢献利益(前回の再掲)

現設備
販売価格 8,000円/個 1個 8,000円
原料 1,500円/個 1個 1,500円
変動加工費 8,000円/時 0.5時間 4,000円
変動販売費 100円/個 1個 100円
貢献利益     2,400円
新設備
販売価格 8,000円/個 1個 8,000円
原料 1,500円/個 1個 1,500円
変動加工費 8,000円/時 0.4時間 3,200円
変動販売費 100円/個 1個 100円
貢献利益     3,200円

 Step.3 現時点でのネット・キャッシュ・フロー

では、いよいよ解いていこう。以下の3段階でキャッシュ・フローを算定する。

① 投資時点
② 年々
③ 投資終了時

まずは、投資時点のネット・キャッシュ・フローだ。ここは、総額法でも差額でも相違ない。

【現状案】

現状案の場合、キャッシュ・フローは全く動かない。設備を買うわけでも売るわけでもないからだ。よってゼロ

【拡張案】

新設備を買うのみなので△4,320万円

【取替案】

新設備を買うのに△4,320万円、現設備を売るのに+2,000万円、現設備の売却損に伴う節税額が+640万円で△1,680万円

Step.4 年々のネット・キャッシュ・フロー

本問のハイライトだ。素直に考えれば分かりやすいだろう。

【現状案】

貢献利益:@2,400円×1万個=2,400万円
固定費:△800万円
減価償却費:900万円
ネットキャッシュフロー:(2,400万円−800万円)×0.6+900万円×0.4=1,320万円

【拡張案】

貢献利益:@3,200円×1.2万個+@2,400円×0.3万個=4,560万円
固定費:△800万円+△400万円=△1,200万円
減価償却費:900万円+1,080万円=1,980万円
ネットキャッシュフロー:(4,560万円−1,200万円)×0.6+1,980万円×0.4=2,808万円

【取替案】

貢献利益:@3,200円×1.2万個=3,840万円
固定費:△800万円
減価償却費:1,080万円
ネットキャッシュフロー:(3,840万円−800万円)×0.6+1,080万円×0.4=2,256万円

Step.5 投資(プロジェクト)終了時の差額キャッシュ・フロー

【現状案】

設備売却額:現設備500万円
税金:500万円×0.4=△200万円
ネットキャッシュフロー:500万円−200万円=300万円

【拡張案】

設備売却額:現設備500万円+新設備300万円=800万円
税金:800万円×0.4=△320万円
ネットキャッシュフロー:800万円−320万円=480万円

【取替案】

設備売却額:新設備300万円
税金:300万円×0.4=△120万円
ネットキャッシュフロー:300万円−120万円=180万円

Step.6 正味現在価値

【現状案】

0+1,320万円×3.312+300万円×0.735=45,923,400 円

【拡張案】

△4,320万円+2,808万円×3.312+480万円×0.735=53,328,960 円

【取替案】

△1,680万円+2,256万円×3.312+180万円×0.735=59,241,720 円

第7回目の講義は投資案の評価法

これまでの講義で、新規投資、拡張投資、取替投資におけるキャッシュ・フローの算定を中心に学習してきた。次回はその算定したキャッシュ・フローを使った投資案の評価法を見ていこう。それぞれ特徴があるので単に計算方法だけではなく、その長所短所と合わせて覚えると効果的だ。

世界で一番分かりやすい設備投資意思決定会計・第7回講義


関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です