世界で一番分かりやすい設備投資意思決定会計・第7回講義

設備投資意思決定会計をやさしくマスター・第7回講義
投資案の評価
前回までで、設備投資意思決定会計におけるキャッシュ・フローの算定は一通り押さえた。また、総額法、差額法のいずれによっても計算出来ることを確認してもらった。ここからは、この算定したキャッシュ・フローをどう評価するべきか、という論点だ。
問題
当社は新設備導入プロジェクトを検討中である。資料にもとづき以下の問に答えなさい。
【資料1】新設備導入プロジェクトについて
- 設備は0年度末に取得予定であり、取得原価は1,000万円、耐用年数は4年、残存価額ゼロ、定額法によって減価償却を行う。
- 投資期間は4年間であり、投資終了時において設備の処分価値はゼロである。
- 法人税等税率は40%である。当社は黒字企業である。
- 今後4年間で予想される税引後営業利益は以下のとおりである。
1年度 | 2年度 | 3年度 | 4年度 |
48万円 | 78万円 | 72万円 | 54万円 |
【資料2】計算条件
- 計算過程で端数が生じる場合、回収期間は「年」未満第2位を、パーセントは「%」未満第2位を、そして収益性指数は小数点以下第3位を四捨五入すること。
- 解答数値がマイナスの場合、もしくはキャッシュ・アウト・フローの場合は数値に△を付記しなさい。
- 現価係数は、以下の数値を使用すること。
7% | 8% | 9% | 10% | 11% | |
1年 | 0.9346 | 0.9259 | 0.9174 | 0.9091 | 0.9009 |
2年 | 0.8734 | 0.8573 | 0.8417 | 0.8264 | 0.8116 |
3年 | 0.8163 | 0.7938 | 0.7722 | 0.7513 | 0.7312 |
4年 | 0.7629 | 0.7350 | 0.7084 | 0.6830 | 0.6587 |
合計 | 3.3872 | 3.312 | 3.2397 | 3.1698 | 31024 |
各年度における税引後キャッシュ・フローを計算しなさい。
【問2】
- 投下資本利益率を答えなさい。
- 時間価値を考慮しないキャッシュ・イン・フロー累計額を用いた場合の回収期間を答えなさい。(毎年のキャッシュ・フローを累積して計算すること)
- 資本コスト率を7%として、時間価値を考慮したキャッシュ・イン・フロー累計額を用いた場合の回収期間を答えなさい。
- 資本コスト率を7%とした場合の正味現在価値を示しなさい。
- 資本コスト率を7%とした場合の収益性指数を示しなさい。
- 内部利益率 (IRR) を答えなさい。
答案用紙
【問1】
初年度(0年度)CF | ( )万円 |
1年度のCF | ( )万円 |
2年度のCF | ( )万円 |
3年度のCF | ( )万円 |
4年度のCF | ( )万円 |
【問2】
1.投下資本利益率 | ( ) % |
2.時間価値を考慮しない回収期間 | ( ) 年 |
3.時間価値を考慮した回収期間 | ( ) 年 |
4.正味現在価値 | ( ) 円 |
5.収益性指数 | ( ) |
6.内部利益率 | ( )% |
解答
【問1】
初年度(0年度)CF | △1,000万円 |
1年度のCF | 298万円 |
2年度のCF | 328万円 |
3年度のCF | 322万円 |
4年度のCF | 304万円 |
【問2】
1.投下資本利益率 | 6.3% |
2.時間価値を考慮しない回収期間 | 3.2年 |
3.時間価値を考慮した回収期間 | 3.7年 |
4.正味現在価値 | 597,562 円 |
5.収益性指数 | 1.06 |
6.内部利益率 | 9.6% |
解説
問1 キャッシュ・フロー算定
まずは、キャッシュ・フローの算定だ。0年度は設備を購入するだけなので、△1,000万円は問題無いだろう。問題なのは。1年度から4年度までのキャッシュ・フローの算定だ。
問題文を注意深く読む必要がある。資料1の4に示されているのは「今後4年間で予想される税引後営業利益」である。つまり税引後営業利益から年々のキャッシュ・フローを算定しなければいけない。
CF=税引後営業利益+非現金支出費用 であり、非現金支出費用は減価償却費だけだから、単純に、資料1の4に減価償却費250万円(=1,000万円÷4年)を足すだけだ。よって、解答は次とおり。
初年度(0年度)CF | △1,000万円 |
1年度のCF | 48万円+250万円=298万円 |
2年度のCF | 78万円+250万円=328万円 |
3年度のCF | 72万円+250万円=322万円 |
4年度のCF | 54万円+250万円=304万円 |
なお、単純に「CF=営業CF×0.6+減価償却費×0.4」のように暗記していると、本問は対処できない。この論点を忘れている人は、以下の講義のStep.4をしっかり読み直してほしい。とても重要なところだ。
問2 投資案の評価
さて、本問のハイライトだ。問1で算定したキャッシュ・フローにもとづいて、投資案を評価しよう。
1.投下資本利益率(ROI)
(298万円+328万円+322万円+304万円-1,000万円)÷1,000万円÷4年=6.3%
この式は、年々のキャッシュ・フロー合計から投資額を引くことで、まず4年間でいくら儲かっているのかを算定する。「298万円+328万円+322万円+304万円-1,000万円=252万円」のことだ。つまり1,000万円投資して252万円儲かっているので25.2%の利益率だ。しかし、これは4年間かけての話だから、4年で割って1年あたりを算定している。よって、25.2%÷4=6.3%が解答だ。
なお、余談だが、この投下資本利益率は別名、会計的利益率とも呼ばれる。それは、次の式でも算定できるからだ。
(48万円+78万円+72万円+54万円)÷1,000万円÷4年=6.3%
この最初の部分「48万円+78万円+72万円+54万円=252万円」は資料1の4に示された「今後4年間で予想される税引後営業利益」の合計だ。つまり、損益計算書で示された会計的利益の合計だ。1,000万円を投資し、4年間掛けての会計的利益合計が252万円なので、252万円÷1,000万円÷4年=6.3%と計算している。
この2つの式、つまりキャッシュ・フローから計算しても会計的利益から計算しても必ず同じ答えになる。投下資本利益率を学習するならここまで押さえよう。
2.時間価値を考慮しない回収期間
この意味は、毎年回収するキャッシュ・フローを合計していって、いつになったら当初投資した1,000万円を回収できるのか、ということだ。
まず、3年目でどうなっているかを計算してみよう。298万円+328万円+322万円=948万円だ。1,000万円までまだ52万円足りない。この52万円を4年目のキャッシュ・フローで回収するわけだ。4年目のキャッシュ・フローは304万円だから、結局次の式で計算できる。
3年+52万円÷304万円=3.17105…年≒3.2年
3.時間価値を考慮した回収期間
今度は時間価値を考慮した回収期間を計算してみよう。さきの時間価値を考慮しない回収期間は、1年目に得られるキャッシュも3年目のキャッシュも同じ価値であることを前提にしている。しかし、時間価値を考慮するなら、未来のキャッシュの価値は現在の価値よりも低くなるはずだ。それを前提として回収期間を計算する。
資本コスト率が7%と指定されているので、年々のキャッシュ・フローに現価係数を掛けて現在価値に割り引く。すると次のようになる。
1年度 | 298万円×0.9346=2,785,108円 |
2年度 | 328万円×0.8734=2,864,752円 |
3年度 | 322万円×0.8163=2,628,486円 |
4年度 | 304万円×0.7629=2,319,216円 |
合計 | 10,597,562円 |
3年目にあたりをつけて、3年目までの合計を計算する。すると8,278,346円でまだ1,721,654円(=10,000,000円−8,278,346円)足りないことが分かる。これを4年度の2,319,216円で回収するわけだ。よって次の式で計算できる。
3年+1,721,654円÷2,319,216円=3.74234…年≒3.7年
4.正味現在価値
正味現在価値は、試験でもっともよく出題される投資案の評価法だ。とりあえず何はさておきこれだけは押さえておかないといけない。
さて、計算方法だが、上記「3.時間価値を考慮した回収期間」で計算したように、現在価値に割り引いたキャッシュ・フローが算定できていれば簡単に計算できる。
割引キャッシュ・フロー合計10,597,562円−投資額10,000,000円=597,562円
5.収益性指数
収益性指数は、正味現在価値が計算出来ていればもう終わったも同然だ。「−」の代わりに「÷」にするだけだ。つまり次の式で計算できる。
割引キャッシュ・フロー合計10,597,562円÷投資額10,000,000円=1.059762≒1.06
6.内部利益率
これは、本試験で出たら、まず後に回すべき論点だ。なぜなら計算が面倒で正答率が著しく低いと思われるからだ。そういう問題は傾斜配点で、あまり点数が来ない。つまり、時間を取られるうえに、計算が面倒で、間違いやすく、かつ正解しても点数が来ないのだ。捨ててもいいかもしれない論点だ。時間的に余裕がある場合のみ手を出そう。
さて、内部利益率の算定は、適当にあたりをつけて試行錯誤するしかない。一応あたりを付ける方法もあるので紹介しよう。これは、回収期間と内部利益率の年金現価係数が近くなるという特性を使うものだ。
回収期間は、2より、およそ3.2だ。資料の現価係数表の合計欄は、まさに年金現価係数なので、この値が3.2に近いのはどれかを探す。すると9%のところが3.2397と近い。よって、まずは9%くらいかな?とあたりをつける。
そこで、9%のときの正味現在価値を求める。すると次のようになる。
1年度 | 298万円×0.9174=2,733,852円 |
2年度 | 328万円×0.8417=2,760,776円 |
3年度 | 322万円×0.7722=2,486,484円 |
4年度 | 304万円×0.7084=2,153,536円 |
正味現在価値 | 134,648円 |
つまり、資本コスト率が9%であれば正味現在価値はプラスなのでもっと高い資本コスト率でも耐えられるわけだ。よって、10%のときの正味現在価値を求める。すると次のようになる。
1年度 | 298万円×0.9091=2,709,118円 |
2年度 | 328万円×0.8264=2,710,592円 |
3年度 | 322万円×0.7513=2,419,186円 |
4年度 | 304万円×0.683=2,076,320円 |
正味現在価値 | △84,784円 |
今度はマイナスになった。内部利益率は9%から10%の間にあることが分かる。ここから補間法によって正確な内部利益率を算定する。
134,648円÷(134,648円+84,784円)=0.61362・・・≒0.6
よって、9%+0.6%=9.6%
第8回目の講義は各投資案の評価法の意味を解説
次回は各投資案の評価法について理論的な背景を紹介しよう。意味を知れば忘れないし、理論問題対策にもなる。また実務でも応用がきくので是非マスターしてほしい。
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第7回まで解説で見直して、過去問134回で復習しました。
(第7回の【問2】4.5.6の問題と解説の番号が入れ替わっています)
第8回で理論対策をしていきます。
ファイティンさん
順番の入れ替わりのご指摘、ありがとうございます。修正しました。
この設備投資の連載記事はトリッキーな問題は排除して徹底的に基本を重視して深掘りしています。第8回までおさえれば、本試験で十分通用します。是非活用してください。
いつも勉強させて頂いております。
この問題の、最後の内部利益率の補間法ですが、
134,648円÷(134,648円+84,784円)=0.61362・・・≒0.6
となっていますが、
84,784円÷(134,648円+84,784円)=0.3863・・・
と思うのですが・・・・
私の勘違いでしたら、申し訳ございません。
はい、勘違いだと思います。
もし、フジフジさんのやり方を採用するなら、
10%を基点としていますから
10%−0.386%=9.614% という計算になります
おはようございます。
先生すいません。
勘違いでした。
いらない時間を取らせてスイマセンでした。
お許し下さい。
独学で簿記を勉強していますが、回収期間法について気になったことがあります。
今回紹介されていた累積額+補完法で求めるやり方が主流だと思いますが、手持ちのテキスト(スッキリ日商簿記1級工業簿記IV 72p)では、驚くことにこの方法についての記載がなく、平均CFで割る方法のみの紹介でした。手持ちのテキストのやり方で計算すると、1000÷313(平均CF)=3.1948…..年になります。
つまり、単純回収期間法には2種類のやり方があるのだと思いますが、累積額+補完法の場合、問題文に「累積額による単純回収期間法で…」という記載があって区別されていると思います(直近の全経上級がそうでした)。
今回の問題文では「キャッシュ・イン・フロー累計額を用いた場合の…」という指定ですが、CIF累計額は1252なので、平均CFで割るやり方でも間違いではないと思います。かなり重箱の隅つつくような質問ですが、どうでしょうか?
>つまり、単純回収期間法には2種類のやり方があるのだと思いますが、
はい、そのとおりです。
>累積額+補完法の場合、問題文に「累積額による単純回収期間法で…」という記載があって区別されていると思います(直近の全経上級がそうでした)。今回の問題文では「キャッシュ・イン・フロー累計額を用いた場合の…」という指定ですが、CIF累計額は1252なので、平均CFで割るやり方でも間違いではないと思います。
はい、おっしゃるとおりです。ですので、平均CFで割ったやり方でも正解ですね。
問題文、修正しておきます。ご指摘ありがとうございます!
—
ちなみに1点ちょっとだけ覚えて頂ければと思う点を書かせていただきます。
管理会計は会計基準のような明確な規定があるわけではなく、企業内部において蓄積された経営管理手法を集大成して作られたという背景があります。
そのため、「明確にこれが正しい、これが間違い」と一概には言えない論点もあります。ありますというか、かなりたくさんあります。(試験問題としてはそれでは困るんですけど。)
具体的には、計算が楽になって手間が掛からないこと(会計的には計算の経済性といいます)と、計算の正確性は一般にトレードオフの関係にあります。で、そのどちらをどの程度優先するかで複数の計算方法が存在するわけです。今回の平均CFを使うか累積CFを使うかなどその一例です。
で、例えば年々のCFが同額の問題は、言うまでもなく平均CFを使えばいいわけです。また、年々の年度によってCFが大きく動く場合は、通常、累積CFを使います。こういう場合は、何も指示がなくてもそうすべきです。
ただ、試験の場合は、当然ながらどちらの計算方法を使うべきか指示があってしかるべきです。しかし、無い場合も結構あるんですよね。多分、試験委員の頭の中では、こっちを使って当然だ、という思いがあって指示をし忘れているのだと思います。よく、スクールの解答速報なんかで別解が出るのはこういうケースです。
で、何が言いたいかというと、本試験でそういう指示が無いケース(正確には問題の不備なんですが)にぶつかるときがあると思うのですが、そういう時にどの計算方法を採用すべきかは、上記に書いたような「まあ、普通こうするよね」が正解になるケースがほとんどなのです。
なので、もちろんテキストを勉強するのが一番大事なのですが、テキスト(特にスッキリなどのA5判型の簡便さを売りにしたテキスト)だけを信じるのは結構危険だったりします。もし、余力があるのであれば、管理会計についてはいろいろなテキストや、ときにテキストではない管理会計の本なども読んでみてください。すごく勉強になると思います。
個人的には、金子智朗氏の「管理会計の基本」がすべてわかる本 などおすすめです。