世界で一番分かりやすい設備投資意思決定会計・第3回講義

設備投資

設備投資意思決定会計をやさしくマスター・第3回講義

いよいよ設備投資意思決定会計の基本問題

前回は、さまざまなパターンのキャッシュ・フローの算定方法を学習した。それでは、いよいよ設備投資意思決定会計の問題をやってみよう。内容は基本レベルだけれども、本試験に近づけるため少しだけ条件を複雑にした。だから難しく感じる人もいるかもしれない。でも、落ち着いて条件を見落とさないようにすれば出来るはずだ。がんばってみよう。

これが出来れば、まあ、設備投資意思決定の基本はしっかり出来ていると思っていい。

問題

当社では1種額の製品X(販売単価8,000円)を1台の設備で製造し、販売する予定である。製品Xの製造分は全て売却できる予定である。以下の資料にもとづき各問に答えなさい。なお解答にあたりネット・キャッシュ・フローがキャッシュ・アウト・フローとなるとき、および正味現在価値がマイナスとなるときは△を付記しなさい。

【資料1】設備の取得と減価償却について

取得原価 取得予定日 残存価額 耐用年数 耐用年数到来時
予定売却価額
減価償却
5,400万円 20X0年度末 0円 6年 500万円 定額法

【資料2】製品X1個あたりの加工時間と年間稼働時間上限について

製品X1個の加工時間 設備の年間稼働時間上限
0.5時間/個 5,000時間

【資料3】製品Xの製造原価と販管費について

  • 製品X1個の製造には1,500円/個の原料1個が必要である。
  • 変動加工費は加工時間1時間あたり8,000円掛かるものとする。
  • 固定加工費は(減価償却費を除いて)年間600万円である。
  • 製品X1個の販売には100円/個の販売費が必要である。
  • その他販売費および一般管理費はすべて固定費で年間200万円である。

【資料4】その他計算条件

  • 減価償却費を除くすべての費用は現金支出を伴うものとし、売上は全て現金売上である。
  • キャッシュ・フローは年度末にまとめて生じると仮定する。
  • 法人税等は、負担すべき年度末に支払われるものと仮定する。法人税等の税率は40%、当社は順調に利益をあげている。。キャッシュ・フローは税引き後で考えること。
  • 加重平均資本コスト率は8%である。
  • 8%の割引率の現価係数と6年間の合計は以下のとおりである。
1年 2年 3年 4年 5年 6年 合計
0.9259 0.8573 0.7938 0.7350 0.6806 0.6302 4.6228
 
【設問】

① 製品Xの年間製造販売数量を求めなさい。
② 製品X 1個あたりの貢献利益額を求めなさい。
③ 現時点(20X0年度末)におけるネット・キャッシュ・フローを求めなさい。
④ 20X0年度末から20X6年度末における年々のネット・キャッシュ・フローを求めなさい。
⑤ 20X6年度末におけるプロジェクト終了に伴うネット・キャッシュ・フローを求めなさい。
⑥ 本投資案の正味現在価値を求めなさい。

解答と解説

答えは・・・(クリックで見えます)

解答

① 製品Xの年間製造販売数量:10,000個
② 製品X 1個あたりの貢献利益額:2,400円/個
③ 現時点(20X0年度末)のNCF:△54,000,000円
④ 20X0年度末から20X6年度末における年々のNCF:13,200,000円
⑤ 20X6年度末におけるプロジェクト終了に伴うNCF:3,000,000円
⑥ 本投資案の正味現在価値を求めなさい。:8,911,560円

NCF:ネット・キャッシュ・フロー

解説

設備投資意思決定会計を解くうえで大切なことは、資料の量に圧倒されて飲まれないということだ。本問は、それほど資料の量が多くないけど、本試験になるとこの倍くらいの量の資料が与えられる。そこで、焦ってはいけない。焦ると見落としが発生する。設備投資意思決定会計での見落としは致命傷だ。では、どうすればいいか。自分なりの資料整理法というのを確立するんだ。

資料を整理する(設備)

設備投資意思決定会計というくらいだから、当然、設備についての情報を整理する必要がある。必要な情報は、取得原価、減価償却費、耐用年数到来時の簿価と売却価額だ。これらは必ず使う数値だから、さきに計算して、下書きのどこかにメモしておこう。本問の場合は、次のとおり。

  • 取得原価:△5,400万円
  • 減価償却費:5,400万円÷6年=900万円
  • 耐用年数到来時の簿価:0
  • 耐用年数到来時の売却価額:500万円

資料を整理する(生産・販売)

次に生産・販売に関する情報を整理する。ポイントは、この投資により生産・販売することでいくらキャッシュ・フローが入ってくるのかだ。少し手間はかかるが、簡易PLを作ってみるのも一つの手だ。後で紹介する。これは確実だ。
本問は、製品Xの販売価格は8,000円、その他製造原価と販管費について【資料3】に示されている。そこから簡易PLを作ろう。ただし、本問は生産数量が直ちには判明していない。これは問1で問われている。

Step.1 年間製造販売数量を求める

資料2から求める。製品Xを1個作るのに0.5時間かかり、年間で5,000時間まで設備を稼働させられるのだから、5,000時間÷0.5時間=10,000個 だ。こういう形で、生産数量を推定する問題が過去に出題されたことがある。慣れておこう。

Step.2 貢献利益

販売価格 8,000円/個 1個 8,000円
原料 1,500円/個 1個 1,500円
変動加工費 8,000円/時 0.5時間 4,000円
変動販売費 100円/個 1個 100円
貢献利益     2,400円

Step.3 現時点でのネット・キャッシュ・フロー

設備投資意思決定会計では、本問のように3段階でネット・キャッシュ・フローを算定しよう。

① 投資時点ネット・キャッシュ・フロー
② 年々のネット・キャッシュ・フロー
③ 投資終了時のネット・キャッシュ・フロー

これが基本形だ。投資期間が6年間だからといって、6年分のタイムテーブルを書くのはお勧めしない。上記の3つに分類して情報を整理しよう。確実に解きやすくなる。
まずは、現時点(投資時点)のネット・キャッシュ・フローだ。ここで、キャッシュはどうなっているか。まだ製造販売していないので売上はゼロ。一方で、設備を購入するので取得原価5,400万円のキャッシュが出ていく。だから、答えは△5,400万円だ。

ポイントは、この取引は、帳簿上、損も得も出ていないということ。現金という資産5,400万円が、設備という固定資産5,400万円に振り替わっただけだ。利益も損失もなく、当然税金にも影響しない。したがって節税額やタックスシールドを考える必要がない。単に5,400万円の支出があっただけだから、答えは△5,400万円だ。

Step.4 年々のネット・キャッシュ・フロー

本問のハイライト部分だ。設備投資意思決定会計の問題は、ここが一番難しい。多分みなさんが使っているテキストには次のような式が書いてあるはずだ。

営業利益:2,400円×1万個-600万円-200万円=1,600万円
減価償却費:900万円
年々のネット・キャッシュ・フロー:1,600万円×0.6+900万円×0.4=1,320万円

確かにこれで正解が出せる。そこで上記の計算式を暗記しようとする受講生がいる。意味が分かっているのなら、別に暗記を止めないが、意味が分からないなら、式を暗記するのは、やめよう。

この式は手元に残るキャッシュ・フローを計算している。ちょっと簡易PLを作って検証してみよう。

売上 8,000万円
変動費 5,600万円
貢献利益 2,400万円
減価償却費 900万円
その他製造固定費 600万円
販管費 200万円
営業利益 700万円
法人税等 280万円
税引後営業利益 420万円

手元に残るキャッシュはいくらだろうか。税引後営業利益の420万円だろうか。おしいけど違う。入ってくるお金は、売上の8,000万円だけ。出ていくお金は、変動費の5,600万円とその他製造固定費600万円と販管費200万円、それに税金の280万円。これらを集計すると、

8,000万円-5,600万円-600万円-200万円-280万円=1,320万円 になる。

一致した。実は、さきほどの年々のネット・キャッシュ・フローの式は、このような計算をしていたのだ。数学的に同じことをしているから、必ず一致する。
だったら、さきほどの式の方が便利だと思わないだろうか。何しろ計算量が少ない。だから、ここまできちんと理解したうえで、さきほどの式を暗記するのは構わない。しかし、意味も分からず暗記すると必ずどこかでつまづく。
ちなみに、上記PLをよく見てみよう。税引後営業利益420万円、そして減価償却費900万円だ。これらを足してもネット・キャッシュ・フロー1,320万円を求めることができる。これは偶然ではない。必ずそうなる。
要するに3通りの方法があるのだ。すべて使いこなせるようになっていると、どんな問題にも対応できる。

Step.5 投資(プロジェクト)終了時のネット・キャッシュ・フロー

これもキャッシュがいくら入ってくるのかに注目するだけだ。普通に考えれば設備が500万円で売れるというのだから、500万円だ。しかし、売却時は、購入時と異なり、損得が生じることがある。
本問は、簿価ゼロだ。これを500万円で売却したのだから、500万円まるまる利益だ。よって、税金がかかる。その額は、500万円×0.4=200万円

結局500万円で売れても200万円税金で持っていかれるので300万円しか手元に残らないということだ。

Step.6 正味現在価値

Step.5まで出来ていればあとは機械的な作業だ。頭を使うところではない。

1点注意するとすれば、年々のキャッシュ・フローに変化がないなら、年金現価係数を用いて計算した方がよいということ。本問の場合、

△5,400万円+1,320万円×4.6228+300万円×0.6302=8,911,560円 と計算できる。

第4回目の講義は本試験レベル問題にチャレンジ

次回の講義は、本当に本試験レベルの問題にチャレンジだ。応用問題と言っていいだろう。しかし、結局は基本がしっかり出来ていれば難しくはない。ワンステップずつ紐解いていこう。

世界で一番分かりやすい設備投資意思決定会計・第4回講義


関連記事

世界で一番分かりやすい設備投資意思決定会計・第3回講義” に対して1件のコメントがあります。

  1. きゃろる より:

    こんにちは。
    上記問題ぐらいなら大丈夫かも・・・。
    でも、1つ問題を発見。
    というか、私の場合かなりの頻度で発生するの問題なのですが、
    問題文から何を聞かれているのがわからなくなります。
    例えば
    ⑤20X6年度末におけるプロジェクト終了に伴うネット・キャッシュ・フローを求めなさい。

    とありますが、これは
    ・ 売却分だけ答えればいいのか、
    ・ 20X6年度末のネット・キャッシュ・フロー全体(13,200,000+3,000,000)を聞いているのか
    で迷います。
    こういうのは、たくさんの問題をやって、この言い回しは、これを聞いているというのを覚えるしかないのでしょうか?
    それとも単に内容(言葉の意味等)を良く理解していないから間違えるのでしょうか?
    ご意見お聞かせください。

    1. pro-boki より:

      はい、お答えします。良い質問ですねぇ。私も受験生時代に悩みました。

      これは、日本語の問題ですよね。確かにどちらとも取れます。ただ、日商簿記界(?)内では、「売却分だけ」を前提にするという暗黙の了解があります。

      理由は、過去問でそのように出題されているからです。たとえば122回原価計算の問3は次のような文面です。「現有設備を維持したまま2008年度末に新設備を導入した場合,2012年度末のプロジェクト終了にともなう差額キャッシュ・フローはいくらになるか。」この解答は、売却分だけです。

      ちょっと今すぐには思い出せないですが、他にもあったと思います。ですので、もう「そういうものだ」と覚えてしまって大丈夫です。

      ちなみに、これは、本ブログにもありますが、NPV(正味現在価値)は以下①から③を算定して、次のように計算するのが基本です。

       ① 投資時点ネット・キャッシュ・フロー
       ② 年々のネット・キャッシュ・フロー
       ③ 投資終了時のネット・キャッシュ・フロー

       NPV=①+②×年金現価係数+③×現価係数

      ③を売却分だけとするのは、この式の考え方とも整合しています。

  2. きゃろる より:

    ご説明ありがとうござました。
    いかに、過去問を解くことが重要なのかということがわかりました。
    私は過去問にあまり手をつけていないので、
    それが影響しているんですね。
    ただ、問題を解くのではなく、
    質問の意味・意図を汲み取る練習のためにも、
    過去問はやった方が良いということですよね。
    参考になりました。
    残り1ヵ月ですが、そろそろ過去問をやるようにします。

  3. ひまわり より:

    こんばんは。
    先生の解説を読んでいると、問題文で与えられた資料が多くても、その資料を整理していく力や、問いに対して必要な情報を取り出す力が身につくような気がします。実際は数多くの問題を解かないと資料を整理する力は身につかないのだと思いますが。
    テキストの解説だと、解説の途中で急に私の手の届かないところへ行ってしまったような、取り残されたような、見失うような感覚に陥ることがあります。
    先生の解説だと、問題へのとりかかりから最後まで流れがあり、最終的にストンと落ちてきて「そういうことか!」となります。ますます勉強したくなります。
    これからもよろしくお願いします。

    1. pro-boki より:

      すみません、返信遅くなりました。
      講座が佳境に入っており、資料作成に追われて、こちらのサイトの更新がさっぱりおろそかになっていました。(はい、単なる言い訳です)

      >先生の解説だと、問題へのとりかかりから最後まで流れがあり、最終的にストンと落ちてきて「そういうことか!」となります。ますます勉強したくなります。

      ありがとうございます。そういって頂いてとても嬉しいです。
      特に「ますます勉強したくなります」が嬉しいですね。
      あ、そういうことか、って感触(私は、よく腹落ちって言い方しています)が、勉強の原動力だと思うんですよね。
      分かる→解ける→楽しい→もっと知りたくなる→勉強する→さらに分かる
      このループをいかに作れるかが講師の力量かなと思っています。そういう記事を書きたいという思いでブログ始めました。最近は、忙しくて、さぼってますが…

      講座が5月中旬に一旦終了しますので、それ以降、またブログ再開しようと思っています。その節は、また読んでください。よろしくお願いします。

  4. ひまわり より:

    この記事の

    ④20X0年度末から20X6年度末における年々のネット・キャッシュ・フローを求めなさい。

    の解説に書かれている

    税引後営業利益420万円、そして減価償却費900万円。これらを足してもネット・キャッシュ・フロー1,320万円を求めることができる。

    というのは、間接法キャッシュフローの営業活動によるキャッシュフローの計算と同じですね。
    どこかで見たことがある気がしたのですが、先生のおすすめ本「財務3表一体理解法」を読んでいてよかったです。
    先生のおかげで、このやり方は忘れそうにありません。

    1. pro-boki より:

      >というのは、間接法キャッシュフローの営業活動によるキャッシュフローの計算と同じですね。

      いいセンスしています。まさにその通りです。
      そういう本質に気付けると、忘れないんですよね。

  5. ひまわり より:

    あと一週間もすれば5月中旬ですね。
    首を長くして待っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です