世界で一番分かりやすい設備投資意思決定会計・第2回講義

設備投資

設備投資意思決定会計をやさしくマスター・第2回講義

税金を考慮しないキャッシュフローの算定(前回の復習)

前回の講義の中心テーマは「投資案の評価はキャッシュ・フローにもとづいて計算する」ということだった。今回は、このテーマをもう少し深掘りしてみよう。まずは、復習問題からだ。

問題1

次の1から7までの正味現金流出入額(以下ネット・キャッシュ・フロー)を計算しなさい。なお、取引は全て現金で行われるものとし、税金は考慮しない。

  1. A設備を100万円で購入した。
  2. A設備を1年間使い決算時に減価償却費20万円を計上した。
  3. 古い設備(簿価20万円)を10万円で売却した。
  4. 原料を200万円で購入した。
  5. 購入済み原料のうち50万円分を製品製造のために消費した。
  6. 購入済み原料のうち50万円分を40万円で売却した。
  7. 年間100万円の現金売上があったが、現金支出費用が30万円あった。

解答

  1. △100万円
  2. 0
  3. +10万円
  4. △200万円
  5. 0
  6. +40万円
  7. +70万円

解説

難しく考えすぎた人はいなかっただろうか。この問題は、非常にシンプルだ。単純に現金がいくら出ていったのか、もしくは、入ってきたのか、それだけを注目すればいいからだ。

  1. 100万円の現金が出ていったのだから△100万円だ。それ以上でもそれ以下でもない。
  2. 減価償却なんて、帳簿上だけの話だ。現金は動いていない。だからゼロ。
  3. 簿価がいくらかなんて帳簿上だけの話だ。現金は動いていない。10万円で売れたなら+10万円だ。
  4. 200万円の現金が出ていったのだから△200万円だ。それが全て。
  5. 帳簿上では、(借)仕掛品50万円 (貸)原料50万円 のような仕訳が切られるけど、別に現金には影響していない。だからゼロだ。
  6. 簿価が50万円の原料を40万円で売却しているので損している。しかし、その損というのは帳簿上の話。あくまでも現金は40万円入ってきているので+40万円だ。
  7. 100万円の現金が入ってきて30万円出ていったのだからプラスマイナス70万円入ってきたことと同じだ。このような考え方を”ネット”という。そしてこの場合の70万円をネット・キャッシュ・フローという。これを日本語に訳すと純(=ネット)現金(=キャッシュ)流出入額(=フロー)となる。

税金を考慮した場合のキャッシュフローの算定(前回の復習)

問題2

次の1から7までのネット・キャッシュ・フローを計算しなさい。なお、取引は全て現金で行われるものとし、法人税等税率を40%とし、税金を考慮すること。

  1. A設備を100万円で購入した。
  2. A設備を1年間使い決算時に減価償却費20万円を計上した。
  3. 古い設備(簿価20万円)を10万円で売却した。
  4. 原料を200万円で購入した。
  5. 購入済み原料のうち50万円分を製品製造のために消費した。
  6. 購入済み原料のうち50万円分を40万円で売却した。
  7. 年間100万円の現金売上があったが、現金支出費用が30万円あった。

解答

  1. △100万円
  2. +8万円
  3. +14万円
  4. △200万円
  5. 0
  6. +44万円
  7. +42万円

解説

取引自体は、先程の問題と全く同じだ。ただし、今回は税金を考慮しなければならない。この税金を考慮することによって、キャッシュ・フローは、どのように変化するのだろうか。1つ1つの取引を見ていこう。

そもそもだが、税金は、帳簿上の利益に対してかかってくる。だから、帳簿上の利益に影響を及ぼすような取引をした場合、その分を考慮しなければならない。この点に注意しながら解説を読んで欲しい。

  1. 100万円の現金が出ていったのだから△100万円だ。帳簿上も100万円の現金が100万円の固定資産に変わっただけだ。別に損も得もしていない。したがって、△100万円だ。
  2. 減価償却なんて、帳簿上だけの話だ。現金は動いていない。しかし、現金は動いていなくても帳簿上20万円の費用が発生している。ということは、利益が20万円分少なくなるわけで、その分、税金が安くなる。その額、20万円×40%=8万円だ。よって、この減価償却による節税額が8万円あるので、+8万円。
  3. 10万円で売れたなら+10万円だ。しかし簿価が20万円のものを10万円で売ったので帳簿上では10万円の損が出ている。その節税額が4万円あるので、売却額10万円+節税額4万円=14万円だ。
  4. これは1と似ている。200万円の現金が出ていったのだから△200万円だ。帳簿上も200万円の現金が200万円の棚卸に変わっただけだ。別に損も得もしていない。したがって、△200万円だ。
  5. これも、現金も動いていないし、損も得もしていないのでゼロだ。
  6. 簿価が50万円の原料を40万円で売却しているので10万円損している。しかし、その損というのは帳簿上の話。あくまでも現金は40万円入ってきているのでキャッシュフローは、+40万円だ。しかし、損をしているということは、その分、税金が節約されるということだ。節税額は、10万円損しているので10万円×40%=4万円だ。よって、40万円+4万円=44万円だ。
  7. 上記問1のとおり、ネット・キャッシュ・フローは70万円だ。一方で、売上が100万円で、費用が30万円ということは、利益も70万円だ。利益が出ているので税金がかかってくる。その額、70万円×40%=28万円だ。よって、70万円−28万円=42万円だ。

タックス・シールドをどう考えるか

問題1は理解できるだろう。つまずくのは問題2だ。「減価償却費が20万円発生すると8万円のキャッシュ・フローが入ってくる」というあたりが理解しにくいのではないだろうか。

これは、次のように考えると分かりやすいと思う。

A社は20万円儲かっていた。帳簿上も20万円の利益が出ていて、現に手元にも20万円の現金があった。よって納付予定の税金は、8万円(=20万円×40%)であり、納付後は12万円の現金が手元に残るはずだ。

ところが、別の投資案によって減価償却費が20万円発生していたことが判明した。その結果、利益20万円とこの減価償却費20万円が相殺されて利益はゼロになる。すると税金もゼロだ。つまり、手元にある20万円はそのまま残ることになる。

さて、この別の投資案によって減価償却費20万円が発生していなければ手元に12万円の現金しか残らないはずだったのに、減価償却費20万円が発生したことで、税金が節約されて手元に20万円の現金が残ることになった。よって、減価償却費20万円は8万円分のキャッシュ・フローが入ってくること(以下、キャッシュ・イン・フローと呼ぶ)に相当すると考えられるわけだ。このことをタックス・シールドと言っているのだ。

分かってしまえば、簡単なことなのだけど、このプロセスをふっ飛ばして「減価償却費には0.4を掛けて足せばいい。それがタックスシールド」みたいな覚え方をすると、あとでつまづくので、ここできちんと本質を理解しておこう。

当社は黒字企業である

設備投資意思決定会計の問題には、必ずといっていいほど「当社は黒字企業である」といったニュアンスの文言が入っている。これは、何を意味しているのだろうか。さきのタックス・シールドの話を思い出して欲しい。もしも、この企業が赤字なら納める税金がない。そこに減価償却費が加わっても、赤字が増えるだけで、結局税金はおさめない。つまり、減価償却費を計上しても節税にならないのだ。そうなると計算結果が変わってきてしまい、問題として成立しなくなる。

こういうことを防ぐために「当社は黒字企業である」と書いてあるんだ。

今回は、ここまでにしよう。第1回、第2回と、基本のような話ばかりだが、非常に大切なところだ。急がば回れだ。基礎をしっかり固めよう。次回から、少し本格的な例題に突入するよ。

第3回目の講義は実戦問題にチャレンジ

次回の講義は本試験に出題されてもおかしくないような設備投資意思決定会計の問題にチャレンジだ。基本問題だけど、必要な要素は一通り入っている。これが出来れば基本はしっかり出来ていると思っていいい。

世界で一番分かりやすい設備投資意思決定会計・第3回講義


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世界で一番分かりやすい設備投資意思決定会計・第2回講義” に対して1件のコメントがあります。

  1. cafe より:

    ブログを参考に勉強しています。ありがとうございます。

    ところで、
    問題2の5.は手持材料を2.の減価償却費と同じで、過去の支出を費用として計上するので、50×0.4=20万では?

    1. pro-boki より:

      cafeさんへ

      よく、勉強されていますね。とてもいい視点だと思います。ちょっと問題が不親切でした。

      本問は、原料を消費したとあります。これは、仕訳にすれば次のとおりです。
      (仕掛品)50万円(原料)50万円

      これだけでは費用は発生していません。よって、タックスシールドも生じておらず、CFは、ゼロです。

      ただし、この消費された原料が、完成して製品となり、さらに売却されたのであれば、それは売上原価に振り替えられますので費用となります。仮に全て売却されたのであれば、50万円は非現金支出費用ですから50万円×0.4=20万円は、節税効果(タックスシールド)と考えられCIFです。(もちろん、それがすべて当期に販売されるとは限りません。販売された期におけるCIFになります)
      しかし、本問のように消費しただけでは、費用は発生していませんからCFはゼロです。

      誤解を生まない問題にするためには、「7.年間100万円の現金売上があったが、現金支出費用が30万円あった。」に「なお、非現金支出費用は、減価償却費と原料消費分を含めて◯◯円であった」を加えておくべきでした。

  2. cafe より:

    ありがとうございます。
    購入済み原料が出ると、条件反射でタックスシールドと結びついていました。
    売れないと費用にはなりませんよね。
    理解不足ですみませんでした。

    1. pro-boki より:

      cafeさんへ

      >購入済み原料が出ると、条件反射でタックスシールドと結びついていました。

      これは、しっかり勉強されている証拠です。非現金支出費用が減価償却費だけでなく購入済み原料にも及ぶということは、上級者しか意識していませんから。

      >売れないと費用にはなりませんよね。

      普通の設備投資意思決定会計の試験問題は、「当期に作ったものは全て売れるので在庫はない」「売掛金も買掛金もない」「貸引の設定もない」といった感じで、非常にシンプルな作りになっています。ですので、試験勉強をしっかりやっている人にありがちな勘違いだと思います。
      しかし、現実の世の中はそうではないわけです。そこで、実務で考察するときは、運転資金を考慮にいれたり、在庫を考慮したりしてCFを推定します。でも、試験では出ないのでとりあえず意識しなくていいと思います。

      >理解不足ですみませんでした。

      いえ、とても良い質問だと思いました。ありがとうございます。

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