工業簿記の本質基礎講座・第6回(標準原価計算2)

標準原価計算の勘定記入方法

パーシャル・プランとシングル・プラン

標準原価計算の勘定記入の方法は、次の3つがある。

  • シングル・プラン
  • パーシャル・プラン
  • 修正パーシャル・プラン(日商簿記1級の範囲)

大切なことは、どの方法を採用しても、最終的な売上原価や期末仕掛品、期末製品、原価差異の値は同じであるということだ。だから、問題文に「パーシャル・プランを採用している」と書かれていて「あれ?パーシャル・プランってどんなんだっけ?」と思っても、慌てる必要はない。まずは何が問われているのかを確認しよう。単に差異分析の問題ならパーシャル・プランは関係ない。勘定記入が問題となっているときのみ関係するのだ。まずこの点をきちんと理解しよう。

標準原価計算制度は実際原価で情報もらって標準原価で返す

当たり前のことだけど、標準原価計算を行うさい、財務会計側からもらう情報は実際原価だ。そして、財務会計側に(売上原価や棚卸資産の額を)返すときは標準原価だ。ということは、標準原価計算制度というのは、最初は実際原価で計算しているのだけれど、どこかの段階で標準原価に切り替えているわけだ。そして、そのタイミングで原価差異が把握される。このイメージを持ってほしい。

パーシャル・プランとシングル・プラン

「どの段階まで実際発生額を記入して、どの段階から標準原価によって記入するのか」という観点でパーシャル・プランとシングル・プランを見ていこう。

パーシャル・プラン

パーシャル・プランは原価要素の諸勘定(材料勘定、賃金勘定、製造間接費勘定など)と、仕掛品勘定の借方の当月製造費用までは、実際発生額で記入して、それ以降は、標準原価で記入する方法。よって、仕掛品勘定で標準原価差異を把握する。

パーシャルプラン

シングル・プラン

シングル・プランは原価要素の諸勘定(材料勘定、賃金勘定、製造間接費勘定など)の借方までは、実際発生額で記入して、それ以降は、標準原価で記入する方法。よって、原価要素の諸勘定で標準原価差異を把握する。

シングルプラン

修正パーシャル・プラン(日商簿記1級の範囲)

修正パーシャル・プランはパーシャル・プランとシングル・プランの中間的な記帳方法。数量系の差異(材料消費量差異や作業時間差異)は、パーシャルプランと同様に仕掛品勘定で把握するものの、価格系の差異(材料価格差異や賃率差異)は、各原価要素の諸勘定で把握する。

 

なぜ、いろいろな記帳方法があるのだろう

一般のテキストには、上記までの解説しか書かれていないだろう。そして、練習問題があって終了だ。まあ、それでもいいのだけれど、そもそも「なぜ、このようにいろいろな記帳方法があるのか」を理解していないと、すぐに忘れてしまうことだろう。それでは、しばらく経ったらまた暗記しなければいけなくなる。そういう学習法は効率がよくない。

試験には出ないかもしれないけれど「なぜ、このようにいろいろな記帳方法があるのか」といった点をしっかり理解してほしい。

パンダくぅー。

なぜ、いろいろな記帳方法があるのか

これは、企業の生産形態はさまざまだからだ。総合原価計算(連続生産に向いた計算方法)を採用している企業もあれば、個別原価計算(個別の注文生産に向いた計算方法)を採用している企業もある。そして、生産形態によって適した記帳方法は異なるのだ。そのため、標準原価計算においても、パーシャル・プランやシングル・プランといった記帳方法が存在している。

差異はなるべく早く把握したほうがいい

まず、前提として、どのみち差異を把握するのであれば、なるべく早い段階で把握したほうがよい、という意識を持ってほしい。なぜなら早いタイミングで差異を把握できれば、早いタイミングで改善策を取れるからだ。ということは、パーシャル・プランよりもシングル・プランの方が優れている。原価要素の諸勘定の段階で差異を把握できるからだ。では、どの企業もシングル・プランを採用すればいいじゃないか、ということになる。しかし、現実は、そうでもない。それはなぜなのかを考えてほしい。

シングル・プランは製造指図書が無いと採用できない

シングル・プランは、原価要素の諸勘定(たとえば材料勘定)で差異を把握する方法だ。ということは、材料を倉庫から出庫する段階で「この材料はこの製品の製造のために、これだけの量を消費する」という標準消費量が判明していないといけない。

例えばオーダー家具を個別生産している場合などは、これが可能だ。木材を倉庫から出庫するとき、これは、◯◯さんからのオーダーでこれだけの木材が必要です(このことが書かれた紙を製造指図書という)、ということが分かった上で、工場に運び込むことだろう。つまり出庫の時点で標準消費量が分かっているのだ。そして、仕損が出れば、追加の材料をまた、倉庫から出庫することだろう。このように出庫の時点で差異を把握できる。

連続生産だとパーシャル・プランしか採用できない

これが、例えばチョコレート工場で、連続生産を行っている場合はどうだろう。カカオや砂糖を消費するたびに、これは板チョコ何枚分です、なんて管理しながら出庫しているのだろうか。普通は、していない。あくまでも、どこかのタイミングで棚卸をして「生産量はこれだけだから、カカオと砂糖の消費量はこれだけのはずだ。しかし実際はこれだけ消費した。よって差異はこれだけだ。」と、いった方法で差異を把握する。つまり、生産した後にしか差異は把握できないのだ。

もう分かっただろう。シングル・プランを採用したくても、連続生産をしているときは、そもそも出庫の時点で差異を把握できないので採用できないのだ。つまり、パーシャル・プランを採用せざるを得ない。一方で、製造指図書を作成して個別原価計算を行っているなら、シングル・プランを採用できる。

注:厳密には、個別生産を行っていてもパーシャル・プランは採用可能だし、連続生産を行っていても製造指図書があればシングル・プランを採用できる。だから、個別生産=シングル・プラン、連続生産=パーシャル・プランと決めつけることはできない。しかし、その関係性はきわめて強い。

インプット法とアウトプット法(日商簿記1級範囲)

上記に記載した、どのタイミングで差異を把握するのか、という点については名称がついている。材料を例に取れば出庫の時点で差異を把握することをインプット法という。一方で、生産を行ったのちに、仕掛品勘定で差異を把握することをアウトプット法という。このインプット法とアウトプット法は、あくまでも差異を把握するタイミングのことだ。一方、パーシャル・プランとシングル・プランは勘定記入の方法のことだ。似ているが、異なる概念なので間違えないようにしよう。

パンダほぅ。

練習問題

標準原価計算の勘定記入に焦点をあてた問題を作ってみた。シングル・プラン、パーシャル・プラン、修正パーシャル・プランにおいてどのように勘定記入がされるのを確認してほしい。

ミニテスト・標準原価計算(勘定記入)


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工業簿記の本質基礎講座・第6回(標準原価計算2)” に対して1件のコメントがあります。

  1. maron より:

    富久田先生、こんばんは。

    1級の勉強始めてかれこれ1年半くらい経ちますが、記帳方法がなぜ3つもあるのかというところが今まで分からず終いでとりあえず、こういうものとして暗記してました。

    差異は早い段階で把握した方がいいというそのものが抜けていることに気付きました。この前提が理解できてやっと、先生の説明が理解出来ました。

    練習問題楽しみにしてます。

    1. pro-boki より:

      maronさんへ

      >差異は早い段階で把握した方がいいというそのものが抜けていることに気付きました。この前提が理解できてやっと、先生の説明が理解出来ました。練習問題楽しみにしてます。

      よかったです。
      練習問題作ってみました。3つの勘定記入の方法をすべてきっちり学習できるように気合を入れて作りました。是非チャレンジしてみてください。力がつくと思います。

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