工業簿記の本質基礎講座・第2回(製造間接費の差異分析2)

標準原価計算の製造間接費の差異分析

この講義で分かること

標準原価計算の製造間接費の差異分析がテーマ。以下のことを理解することが目的。

  • 予算差異、能率差異、操業度差異などはどんな意味があって、誰に責任があるのか
  • なぜ、差異分析には、4分法、3分法の1、3分法の2などの分け方があるのか
  • 本試験ではどう計算すればいいか

前回の設例

さて、今回は標準原価計算の製造間接費の差異分析を見ていこう。前回の続きだ。ここから読む人もいると思うので、ざっくり前回の設例を説明しよう。次のとおりだ。

  • 部品加工工場を経営し親会社から材料を提供され加工して納品している。
  • 固定費は、家賃、直接工賃金、水道光熱費で毎月90万円かかる。
  • 変動費は、1個加工するのに補助材料費が@100円かかる。
  • 売上は、1個加工するごとに@400円もらえる。
  • 1カ月で6,000個作ることが出来るけど、親会社からの注文は毎月5,000個。

直接作業時間を操業度にする

前回は、1個あたりの製造原価を計算してそこから解説した。つまり生産個数を操業度にして話を進めた。今回は直接作業時間を操業度にして考えてみよう。
工場に直接工は何人かいて、1日に延べ20時間働いてくれている。つまり、月間の直接作業時間は600時間(=20時間/日×30日)だ。1個の加工には0.1時間かかるので、1ヶ月間(600時間)で6,000個の加工が可能だ。
さて、1カ月のコストはいくらだろうか。固定費90万円+変動費@100円×6,000個=150万円。
1カ月の直接作業時間は600時間だから、1時間あたりでは150万円÷直接作業時間600時間=@2,500円だ。ちなみに、この@2,500の内訳は、固定費分が@1,500円で、変動費分が@1,000円だ。ここまではいいだろうか。

今月の結果が出た

さて、今月も親会社から5,000個注文が来た。@400円だから200万円の売上だ。請求書を送っておいた。
一方で、水道光熱費とか家賃などの請求書が届いた。確認すると、143万円(=固定費90万円+変動費53万円)だった。なんたること。帳簿は次のとおりだ。なぜ原価は143万円なのか。125万円のはず!18万円も多いじゃないか

売上:@400×5,000個=200万円
原価:@250×5,000個=125万円

直接工の作業時間をチェックしてみる

そこで、直接工の作業時間をタイムカードでチェックしてみた。本来なら1個の加工に0.1時間掛かるのだから、5,000個なら500時間で済むはずだ(これを標準操業度と言う)。ところが!直接工の実際作業時間は520時間だった(これを実際操業度と言う)。なにかしら失敗したり無駄があったりして、能率が悪かったようだ。無駄な作業時間があったということは、その作業で補助材料も無駄にしたことだろう。
とにかく、直接作業時間1時間につき@2,500円掛かるのだ。20時間も無駄にしたってことは、5万円(=@2,500円×20時間)はここで無駄にしたようだ。

予算になかったことが起きている

さらに、請求書をよく見ると雑費1万円とか書いてある。なんだこれ?と思って聞いたら直接工と間接工で会議をやってそのときのお茶菓子代とのこと。なんだそりゃあ。そんな予算とってないよ。まあ、でもしょうがない。コミュニケーションも大事だ。

あと12万は何だ?

ここまでをまとめてみよう。予定より18万円多くコストが掛かった原因を調べている。工員の能率が悪くて5万円無駄にした。予算になかったお茶菓子代で1万円無駄にした。あとの12万円はなんだろう。
そもそも直接作業時間@2,500円というのは600時間直接工は働けることを基準として計算(これを基準操業度と言う)した数字だ。ところが、実際には520時間しか稼働しなかった。つまり80時間働いていない。これによって、固定費の配賦額が現実よりも少なくなってしまう。その額は、@1,500円×80時間=12万円

まとめてみよう

ということで、差異を原因別に分析すると・・・

  1. 工員の能率が悪くて500時間で出来るはずが520時間掛かったことによる差異
    @2,500円×20時間=5万円(うち変動費2万円、固定費3万円)
  2. 予算になかったお茶菓子代
    1万円
  3. 600時間操業できるという前提で計算してたのに実際には520時間しか操業しなかった
    @1,500円×80時間=12万円

全部合計すると、おお、18万円でぴったりきた

 1730 納得です。

差異を詳細に分析する

もう分かるよね。上記の1が能率差異、2が予算差異、3が操業度差異と呼ばれるものだ。また、1の能率差異は、変動費部分と固定費部分に分けることができる。変動費部分を変動費能率差異、固定費部分を固定費能率差異という。つまり、18万円の差異の内訳はこういうことだ。なお、この分類の仕方をここでは「4分法」と呼ぶことにする。

4分法
予算差異   1万円
変動費能率差異 @1,000円×20時間= 2万円
固定費能率差異 @1,500円×20時間= 3万円
操業度差異 @1,500円×80時間= 12万円
合計   18万円

さてここでもう一度それぞれの差異について考えてみよう

さて、上記の差異についてその意味を考えてみよう。

  • 予算差異は、ここではお茶菓子代としたが、まあ、現実には様々な原因が考えられる。とにかく予算オーバーしているよ、という意味だ。工場の管理者に責任がある。何かしらの原因があるからそれが改善可能であれば、対策を取るべきだろう。
  • 能率差異は、工員の能率が悪いわけだから、工員の教育をするなり生産工程の見直しをするなりしたほうがいいだろう。
  • 最後に操業度差異。これは工場内では管理できない。経営者に責任がある。

ということで、責任別に分類すると、次のようになる。なお、この分類の仕方をここでは「3分法の1」と呼ぶことにする。これがもっとも試験によく出てくる差異の分類法だ。

3分法の1
管理者に責任 予算差異 1万円
工員に責任 変動費能率差異
固定費能率差異
2万円+3万円
=5万円
経営者に責任 操業度差異 12万円
  合計 18万円

実害のある差異と実害の無い差異

さて、ちょっと視点を変えてみようか。
操業度差異って実害がある差異なのだろうか。これは、前回、詳しく説明したから、イマイチ理解出来ていない人はそちらを先に読んでほしい。結論から言えば実害はない。だって、固定費はもとから90万円の予定だった。そして実際に90万円請求された。別に損はしていない。全く同様の理由で、固定費能率差異も実害がない。

つまり、差異は、上記に示したように4つあるんだけど、実害があるかないかで言うと
固定費能率差異3万円+操業度差異12万円=15万円は実害がない。実害の無い差異は改善のしようがない。一方で、それ以外の差異は実害があるし、改善可能だ。

ということで、改善可能なのは、管理者に責任のある予算差異1万円と工員に責任のある変動費能率差異2万円だけなんだ。あとの15万円は実害もないし、改善のしようがない。だから、次のように分類することもある。なお、この分類の仕方をここでは「3分法の2」と呼ぶことにする。

3分法の2
管理者が改善可能 予算差異 1万円
工員改善可能 変動費能率差異 2万円
(工場内では)
改善できない
固定費能率差異
操業度差異
3万円+12万円
=15万円
  合計 18万円

さて、本試験で考えてみよう

本試験では「能率差異は標準配賦率で計算せよ」みたいな感じの指示がでる。ここで標準配賦率とは変動費率@1,000円と固定費率@1,500円の合計つまり@2,500円のことだ。つまり、能率差異を「@2,500円×無駄にした時間20時間=5万円」のように計算せよ、と言っているわけだ。これは、結局、3分法の1のことを言っている。

3分法の1
管理者に責任 予算差異 1万円
工員に責任 能率差異 5万円
経営者に責任 操業度差異 12万円
  合計 18万円

またときに「能率差異は変動費部分のみから把握する」という指示があったりする。これは、能率差異を変動費率を使って計算せよということだ。式にすると「@1,000円×無駄にした時間20時間=2万円」だ。これは、結局、3分法の2のことを言っている。

3分法の2
管理者が改善可能 予算差異 1万円
工員が改善可能 能率差異 2万円
工場内では改善できない 操業度差異 15万円
  合計 18万円

注目すべきは、差異の名称だ。能率差異は、標準配賦率で計算しても、変動費率で計算しても、いずれの場合も「能率差異」という。そして、操業度差異は予算差異と能率差異以外の差異、という意味だ。だから、同じ差異の名称でも金額が異なることがある。例えば、操業度差異は、前者は12万円だけど、後者は15万円だ。後者は、計算式にすると

@1,500×(標準操業度500時間−基準操業度600時間)=15万円となる。

ようやく質問回答にたどりつく

差異の計算を暗記で覚えちゃっている人は、ここで、トラブルが生じる。多くの人は操業度差異の計算式を①で覚える。でも「能率差異は変動費部分のみから把握する」という指示があるときは②で計算しないといけない。

① 操業度差異=固定費率×(実際操業度−基準操業度)
② 操業度差異=固定費率×(標準操業度−基準操業度)

これは、なぜですか?という質問を頂いた。どう説明しようか悩んだ。ちょろっと軽く流す回答も出来たのだけれど、せっかくだから本質から解説してみようと思った。長かった・・・構想3時間くらい、執筆4時間くらいだろうか。もっとかな。ここまでの説明で、理解出来ただろうか。分からなかったら遠慮なく質問してほしい。

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シュラッター図で説明すると

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続きはこちら

簿記1級の前提となる2級工業簿記の基礎論点


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工業簿記の本質基礎講座・第2回(製造間接費の差異分析2)” に対して1件のコメントがあります。

  1. きゃろる より:

    >長かった・・・構想3時間くらい、執筆4時間くらいだろうか。もっとかな。ここまでの説明で、理解出来ただろうか。分からなかったら遠慮なく質問してほしい。

    丁寧かつわかりやすい解答ありがとうございました。
    すみません、こんなに時間が掛かるとは想定外でした。
    私にとってこの解説は一番印象に残り一生忘れないと思います。

    1. pro-boki より:

      >すみません、こんなに時間が掛かるとは想定外でした。
      いえいえ、とんでもないです。
      この箇所は結構質問のあるところなのにキチンとした解説って見たこと無いんですよね。
      それで、いずれ書きたいと思っていた記事ですから。
      いいきっかけでした。

  2. ファイティン より:

    富久田先生、なんとかここまで追い着いて来れました・・解説ありがとうございます。
    差異分析の問題は、ただ単に数字だけ見てやっていたので、
    差異ってこういう背景やストーリーで発生するのか・・・それを問題にしているのか・・
    工場じゃなくても実務でもある話なのでよくわかりました。

    一つ質問なんですが・・
    「予算許容額」というのは、変動費率x実際数量+固定費で計算しますが、
    これは操業度差異を考慮しない額?と単に考えていいんでしょうか?
    2級の時も「予算許容額」がなかなか頭に入ってこなくて、もう上記式で覚えました。
    許容額は、第1回→140万、第2回→142万なのでそれぞれ予算差異が△4万と△1万です。
    その許容額に対して予想しなかった費用が発生したので不利差異となるんですよね。

  3. ファイティン より:

    すみません、下記追記します。。
    「予算許容額」というのは、変動費率x実際数量+固定費で計算しますが、
    これは能率差異、操業度差異を考慮しない額?と単に考えていいんでしょうか?

    1. pro-boki より:

      この件、正確には、どういう予算(固定予算?公式法変動予算?実査法変動予算?)を設定しているかにもよって異なります。ここでは試験にもっともよくでる公式法変動予算を前提にします。すると、予算許容額は次の式で表されます。

      予算許容額=変動費率×実際数量+固定費・・・①
      予算許容額=標準配賦率×実際数量+操業度差異・・・②

      どちらも全く同じ意味です。もし②を採用するなら、操業度差異を考慮していることになります。ここは式で覚えるより意味で考えてみましょう。

      例えば、ファイティンさんがパーティを開くよう、会社の上司から言われたとします。
      まずは、会場を手配します。借りるのに10万円掛かることがわかりました。これは固定費です。ちなみに、10万円で100人まで入れます。つまり1人あたり1,000円です。そして、それとは別に1人来るごとに2,000円掛かるとします。これはまあドリンク代とかいろいろです。つまり、もし満席なら1人あたり3,000円のコストがかかるわけです。

      さて、上司からは、「予算を用意するから、いくら掛かりそうか見積もってくれ」と言われたとします。ファイティンさんはなんて返事しますか?
      「何人くらい呼ぶんですか?それによります。」とそう答えるでしょう。
      で、上司が「そうだな90人の予定だよ」と言ったとします。さあ、ファイティンさんはいくらと見積もるでしょうか。

      会場代が10万円+1人2,000円×90人来る=28万円です、と答えることでしょう。これは上記の①の式を意味しています。

      もう1つ計算方法があります。それは、1人のコストは3,000円です。そしてその3,000円というのは100人満席になることが前提です。しかし、90人しか来ないということは10人分の操業度差異が出るわけです。1人あたりの会場費は1,000円ですから、操業度差異は、@1,000円×10人分=1万円です。よって、次の式でも予算は計算できます。

      1人あたりコスト3,000円×90人+操業度差異1万円=28万円
      これは上記の②の式を意味しています。

      この28万円が予算許容額です。意味分かりますか?

      つまり予算許容額というのは、実際操業度にもとづいて「まあ、この額ならしょうがないよね」という額です。
      だって、上記例では、28万円におさまればOKでしょ。もしも実際には29万円掛かったとしたら、何か1万円ほど予算オーバーしているな、という気がしませんか?それを予算差異といいます。予算許容額は、上記の式のとおり、②の式で考えれば操業度差異を考慮しているといえます。なお、能率差異は関係ありません。あくまでも実際操業度にもとづいての話ですから。

      以上、ざっと15分くらいで書いたから乱文になってしまいました。
      分かりにくかったら遠慮なく言って下さい。記事にしようかな。これ。

  4. ファイティン より:

    先生、実例の説明ありがとうございました。
    予算許容額の①と②の算出方法、とてもよくわかりました。

    「予算許容額」は「実際操業度」に基づいて・・という肝心な部分がどうもわかっておらず、
    予算=実際?というところにいつもひっかかっていました。
    そうか、これは差異の分析なので、予算といっても未来のことじゃない、
    もうすでに起こった実際の結果をもとに分析しているから、「実際操業度」に基づくのですね。
    前提というか、当然のことがわかっていませんでした。。。
    問題だけ解けてもダメですね。基礎からやり直しです。。

    引き続きよろしくお願いします!

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