工業簿記の本質基礎講座・第5回(標準原価計算1)

公式法変動予算と固定予算の違いって分かる?

製造間接費の予算の組み方

標準原価計算の定番論点といえば製造間接費の原価差異分析だ。予算差異、能率差異、操業度差異の計算式は、ほとんどの受験生が学習していることだろう。計算式だけではなく、それぞれがどのような意味を持つのかは、工業簿記の本質基礎講座・第1回第2回で解説している。ぜひ参考にしてほしい。

さて、製造間接費の予算の設定方法には、公式法変動予算のほかに、固定予算、実査法変動予算(多桁式変動予算)が存在するが、日商簿記の本試験に限れば、公式法変動予算が圧倒的(出題率90%以上)なので、それ以外の予算を疎かにしている受験生も少なくないと思う。

本質さえ分かれば、どれも同じようなものだ。特に公式法変動予算と固定予算はどちらも簿記2級の範囲だ。少なくともこの2つについては、その本質的な意味をしっかりマスターしてほしい

2つの予算の相違点

(標準原価計算を前提に)公式法変動予算と固定予算の相違点をまとめた。

  • どちらの予算方式にも、予算差異、能率差異、操業度差異がある
  • どちらの予算方式でも、原価差異の総額は一致する
  • どちらの予算方式でも、能率差異は一致する(能率差異を標準配賦率で計算するとき)
  • 両者の相違点は予算許容額のみである(その結果、予算差異と操業度差異が異なる)

結論から言えば、この2つの予算方式はとても良く似ている。どちらにも予算差異、能率差異、操業度差異は存在するし、その合計額も一緒だ。特に能率差異を標準配賦率で計算するなら、どちらの予算方式にしても同じ額になる。では、どこが異なるかと言えば、それは、予算許容額だ。この1点のみが異なるのだ。

では予算許容額とはなんだろう

では、予算許容額とは何だろう。これは、抽象的に言葉で説明するよりも具体例を示した方が分かりやすいと思う。次のケースを考えてみてほしい。

あなたは、会社の上司から「新規プロジェクトのキックオフパーティを企画するよう」指示されたとする。まずは、会場の手配だ。10万円掛かることが分かった。これは固定費。ちなみに100人まで収容可能だ。つまり1人あたり1,000円。そして、それとは別に1人来場するごとに2,000円掛かるとする。これは飲食代などもろもろの経費だ。つまり満席を前提とすると1人あたり3,000円のコストがかかる。

整理すると次のとおりだ。

  • 会場費(固定費)10万円、100人まで収容可能、@1,000円
  • その他経費(変動費)@2,000円
  • 合計 @3,000円

さて、上司から「予算を用意するから、いくら掛かりそうか見積もってくれ」と言われたとする。あなたは「何人くらい呼ぶんですか?」と聞いた。すると上司は「そうだな90人招待予定だけど前後するかもね」と言った。さあ、あなたは予算をいくらと見積もるだろうか。ちょっと紙と鉛筆を用意して考えてみてほしい。

パンダ

公式法変動予算による予算許容額という考え方

まあ、普通に考えれば、「正確な金額は、来場者数によって変動するけど、一応、90人来場予定ということなので、10万円+@2,000円×90人=28万円だな」と考えたとする。実に妥当だ。この計算は公式法変動予算にもとづいている。公式法変動予算とは、このように固定費と変動費を別々に計算して、操業度にもとづいて、予算を決める方式のことだ。

固定予算による予算許容額という考え方

こんな予算の立て方もある。「90人前後ということだけど、万が一、収容人数100人マックスまで来てしまったときのことも考えて30万円を予算にしておこう」と。だいぶ保守的な考え方だ。でも、現実問題として、来場者数が多少前後する可能性があることは事実だろう。であれば、余裕を見て、収容人数100人の場合に掛かるコストを予算としておく、という考え方も一理ある。この場合の予算許容額は30万円だ。つまり、何人来場するかに関わらず(操業度に関わらず)固定的に予算を30万円と設定するのが固定予算だ

実際にパーティを開催したら・・・

さて、パーティ当日。実際には94人来場したとしよう。この場合の予算許容額はいくらだろうか。

もしも公式法変動予算を採用しているなら、

会場費10万円+@2,000円×94人=28.8万円

もしも固定予算を採用しているなら、

来場者数には関係なく30万円

そして、当日のパーティが終了し、実際に請求書を集計してみたら31万円掛かっていたとする。さあ、原価差異分析をしてみよう。

 

帳簿にどのように記載されるかを考える

まずはパーティのコストとして、帳簿にはいくら計上されるのかを考えてみよう。ここでは標準原価計算を採用しているので@3,000円×90人=27万円が計上される。そして、不利差異として4万円が計上される。
なお、余談だが、もし実際原価計算を採用していたら、帳簿には次のように計上される。

  • 実際価格による実際原価計算を採用している場合は、31万円が計上される。なぜなら実際に31万円掛かったからだ。
  • 予定価格による実際原価計算を採用している場合は、@3,000円×94人=28.2万円が計上され不利差異として2.8万円が計上される。

公式法変動予算を前提として原価差異分析をしてみる

では、標準原価計算における4万円の原価差異の分析をしてみよう。まずは、公式法変動予算を前提としている場合だ。

能率差異

原因の1つとしてすぐに思い浮かぶのが、90人の来場者数のはずが実際には94人も来たこと。4人も多い。1人3,000円なんだから、12,000円余計に掛かるのは仕方ない。これが能率差異だ。

  • 90人で済む予定が実際には94人来場した:@3,000円×△4人=△1.2万円

予算差異

それから、もともと予算として計上していた額(予算許容額)は、28.8万円だ。それにも関わらず実際には、31万円掛かったということは、2.2万円予算オーバーだ。これが予算差異。

  • 予算許容額が28.8万円なのに実際には31万円掛かった:△2.2万円

操業度差異

ここまでで、3.4万円(=能率差異1.2万円+予算差異2.2万円)は原因が判明した。じゃあ残りの0.6万円は何なのかといえば、これは、そもそも100人収容出来るということを前提に固定費は@1,000円と算定している。それにも関わらず、実際には94人しか来なかった。6人分無駄だ。その分が6,000円。これが操業度差異だ。

  • 100人収容できる会場なのに94人しか来なかった:@1,000円×△6人=△0.6万円

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固定予算を前提として原価差異分析をしてみる

次は、固定予算を前提として考える。これ、上記の「公式法変動予算」とほとんど同じなのだ。まず、帳簿に記載される27万円も同じ。よって原価差異総額△4万円も同じ。さらに、能率差異△1.2万円も同じだ。

予算差異

何が異なるのかと言えば、予算差異だ。固定予算の場合、もともと予算として計上していたのは、30万円だ。それにも関わらず実際には、31万円掛かったということは、1万円予算オーバーだ。これが予算差異。

  • 予算許容額が30万円なのに実際には31万円掛かった:△1万円

操業度差異

よって2.2万円(=能率差異1.2万円+予算差異1万円)は原因が判明した。じゃあ残りの1.8万円は何なのかといえば、これは、100人の会場なのに94人しか来なかったせいだ。だから操業度差異だ。なお計算方法としては、差額から計算してもいいし、1人3,000円のコストが掛かると見積もって、それが6人分足りないから1.8万円足りないと計算してもいい。

  • 100人収容できる会場なのに94人しか来なかった:@3,000円×△6人=△1.8万円

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予算方式によらない差異の計算手順

以上、公式法変動予算の場合と固定予算の場合の原価差異の計算方法を紹介したが、予算許容額に注目すれば、どちらもほとんど同じ手順で解ける。次の手順を是非マスターしてほしい。

Step.1

総差異を求める。固定予算、公式法変動予算いずれの場合も
標準配賦額@3,000円×標準操業度90人−実際発生額31万円=△4万円

Step.2

能率差異を求める。固定予算、公式法変動予算いずれの場合も、
標準配賦額@3,000円×(標準操業度90人−実際操業度94人)=△1.2万円

Step.3

予算許容額を求める。ここが固定予算と公式法変動予算の相違点である。
公式法変動予算なら、固定費10万円+変動費率@2,000円×実際操業度94人=28.8万円
固定予算なら、来場者数には関係なく30万円

Step.4

予算差異は、固定予算、公式法変動予算いずれの場合も、予算許容額から実際発生額を引く。
公式法変動予算なら、予算許容額28.8万円−実際発生額31万円=△2.2万円
固定予算なら、予算許容額30万円−実際発生額31万円=△1万円

Step.5

操業度差異を求める。本問の場合、公式法変動予算にせよ固定予算にせよ、総差異から、能率差異と予算差異を引いた残りの額で計算できる。
公式法変動予算なら、△4万円−△1.2万円−△2.2万円=△0.6万円
固定予算なら、△4万円−△1.2万円−△1万円=△1.8万円

パンダ分かった・・・。たぶん。

1級になると実査法変動予算が登場する

1級になるとさらに複雑な予算が登場する。実査法変動予算(別名、多桁式変動予算)だ。なにやら難しそうだが、実は、上記をきちんと理解できていれば全然どうってことのない論点だ。

というのも、公式法変動予算と固定予算が、実は予算許容額が異なる以外はすべて同じであったように、実査法変動予算も予算許容額が異なるだけなのだ。

固定予算は、もっともいい加減で、操業度に関係なく一律◯◯円ね、と予算を設定していた。それに比べて、公式法変動予算は、もう少ししっかりしていて、固定費+変動費率×操業度ね、と予算を設定していた。

しかし、現実問題として、固定費と変動費率というのは、操業度によって変わるものなのだ。たとえば1個しか製造しないときと1万個製造したときで、変動費率が等しく@1,000円というのはおかしいのではないか、ということだ。材料だってたくさん買えばディスカウントされるからね。

ということで、操業度がこれくらいのときは変動費率と固定費はいくら、操業度がこれくらいならいくら、というのが提示されて、それに基づいて予算許容額を設定しましょう、というのが実査法変動予算だ。

とはいえ、繰り返しになるが、差異の計算を行う上では、予算許容額が異なるだけだ。上記の「予算方式によらない差異の計算手順」を使えば、公式法変動予算と同様に計算できるから、心配はいらない。

続きはこちら

工業簿記の本質基礎講座・第6回(標準原価計算2)


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工業簿記の本質基礎講座・第5回(標準原価計算1)” に対して1件のコメントがあります。

  1. ファイティン より:

    先生、さらに詳しい解説をありがとうございます。
    予算方式によらない差異の計算手順→STEP1~5までの流れもしっかり理解できました。
    講義でも「操業度差異は、総差異から能率と予算差異を引いた残りに必ずなる」と
    聞いておりましたが、解説で納得しました。

    課題にあったEX)の差異の問題と134回の過去問(工程別標準ですが・・)を解いて確認しました。
    以前より時間がかからず解答できた気がします。
    解説で理解したことはすぐ問題で確認するようにしていこうと思います。

  2. pro-boki より:

    ファイティンさんへ

    >予算方式によらない差異の計算手順→STEP1~5までの流れもしっかり理解できました。

    この手順なら実査法変動予算も含めて必ずすべての差異を計算できます。是非マスターしてください。

    >操業度差異は、総差異から能率と予算差異を引いた残りに必ずなる

    そうなんですよね。操業度差異を(実際−基準)×固定費率で覚えちゃうと、公式法変動予算以外で困っちゃうんですよね。それから、能率差異を変動費のみから算出する時も答えが合わなくなっちゃう。「操業度差異は、総差異から能率と予算差異を引いた残り」という覚え方をすれば必ず成立しますので、安心感あると思います。

    >解説で理解したことはすぐ問題で確認するようにしていこうと思います。

    いいですねぇ。すぐに問題で確認すると、身につきますよね。
    試験近いです。がんばりましょう。応援してますよ。

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