会計の超重要基本概念を超基礎から学ぶ1

会計の超重要基本概念を超基礎から学ぶ
前回の記事で「会計の基本となる考え方の理解」ということで次の9つの課題をあげた。
- そもそも会計とは何か、誰に何を知らせたいのか、自分の言葉で説明できる?
- 発生主義と実現主義とは何か。費用収益対応の原則とは何か。損益計算書原則に用いられている用語ではなく、自分の言葉で噛み砕いて説明できる?
- 資産と費用は、極めて似ていることを理解している?どこが似ていてどこが違うの?
- 負債と資本って、何が違うの?負債は嫌なもので資本って嬉しいものってイメージであってるの?
- 会計公準を自分の言葉で説明できる?発生主義を採用するのは会計公準のどれのせい?
- 資産に計上されている現金って誰のもの?経営者?債権者?株主?それとも・・・それを説明するのは会計公準のどれ?
- 論点の多くは「いつ」認識するか、「いくら」で測定すべきかをテーマにしているということを分かっている?
では、発生主義と実現主義というのは、「いつ」と「いくら」のどちらの話をしている? - 取引を思い浮かべたとき、T/Bのどことどこが減ったり増えたりするかイメージしている?
- 表示科目と勘定科目の違いを理解している?覚える必要のないものを覚えようとして無駄な労力を使っていない?
どうだろう、出来ただろうか。何となく分かっているつもりでも、いざ説明しろと言われるとうまく出来ない人が多いのではないだろうか。ここでは、このうち3、4、6について解説する。じっくり解説するので本質から理解してもらいたい。
会社の仕組みと残高試算表
「会社の仕組み」・・・おいおい今更かよ、という声も聞こえてきそうだけど、そんな声は気にせずに、基本から見ていこう。ざっくりだけど、会社が生まれてからどのように活動するのかを超簡単に書いてみる。次の3ステップだ。
- お金を調達する
- 調達したお金を事業のために投資する
- 投資の成果が現れてお金が増える→1にもどる
当たり前だと思う?でも、これが超大切なんだ。なぜなら、これがまるまるT/B(残高試算表)を表しているからだ。残高試算表分かるよね?次のようなやつだよ。
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|
現金預金 | 25,300 | 支払手形 | 15,300 |
受取手形 | 26,780 | 買掛金 | 19,080 |
売掛金 | 22,000 | 貸倒引当金 | 640 |
有価証券 | 9,140 | 退職給付引当金 | 11,000 |
繰越商品 | 15,500 | 建物減価償却累計額 | 6,300 |
仮払金 | 11,200 | 備品減価償却累計額 | 6,260 |
建物 | 70,000 | 社債 | 38,080 |
備品 | 20,000 | 資本金 | 240,000 |
土地 | 350,000 | 資本準備金 | 20,000 |
のれん | 6,800 | その他資本剰余金 | 12,300 |
長期貸付金 | 24,000 | 利益準備金 | 39,800 |
仕入 | 163,580 | 繰越利益剰余金 | 87,760 |
販売費及び一般管理費 | 3,600 | 売上 | 250,000 |
支払利息 | 100 | 受取利息 | 1480 |
748,000 | 748,000 |
さて、上記のT/Bをよく見ながら考えてみよう。実は、上記の1から3の活動はこのT/Bで表現されている。
負債も純資産も収益も同じようなもの
まずは、T/Bの貸方、つまり負債と純資産、収益を見て欲しい。これは、まさに「1.お金を調達する」と「3.成果が現れてお金が増える」ことの内容を表している。つまり、お金をどうやって調達したのか、そのリストだ。(一部、減価償却累計額と引当金は該当しないが、それはちょっと無視してほしい)
ざっくり言えば負債は「いずれ現金で返す」という義務と引き換えにお金を調達したということ。純資産は、現金で返す義務はないけど、これは株主のもので、今後の増加分も株主のもので、さらに、経営に口出しされるという制約がある。そういう制約と引き換えにお金を調達したわけだ。収益は、一定の会計期間において営業活動を頑張ったことで調達したお金だ。これは最終的に費用が引かれて残った利益が、純資産に組み込まれる。
このように、負債と純資産、収益というとまるで違うもののようだけど、お金を調達した理由にすぎない、という観点からは同じようなものなのだ。まず、この感覚を身に着けてほしい。
資産も費用も同じようなもの
一方で、T/Bの借方、つまり資産と費用というのは、まさに「2.調達したお金を事業のために投資」のことだ。つまり、お金を何に使ったのか、そのリストだ。その点で、資産と費用は同じようなものだ。まあ、厳密には資産は、貨幣性資産と費用性資産があって、これは貨幣性資産には当てはまらない点もあるけど、まあ、とにかくイメージとして理解してほしい。
簿記3級時代の感覚を捨てよう
もし、簿記3級時代の名残で、「資産は嬉しいもの」「負債は嫌なもの」「純資産は返す必要のないお金でとっても嬉しいもの」とか、「費用は嫌なもの」「収益は嬉しいもの」みたいなイメージが残っているなら、今すぐ考えを改めてほしい。
3級は個人商店を基本にしている。すると、主体は自分だ。つまり資産は全部自分のものだ。そりゃあ嬉しい。負債は全部自分が返さなければいけない借金だ。そりゃあ嫌だ。費用は払いたくないし収益はもらって嬉しい。こういう感覚になるのは、主体が自分だからだ。
でも、2級以上は、企業会計だ。主体は自分じゃなくて企業なんだ。つまり資産も費用も単に調達したお金で買ったり消費したものにすぎない。どちらかが嬉しいもので、どちらかが嫌なもの、なんていう感覚を持つこと自体ナンセンスだ。
会社の現金は誰のもの?
この考えをより明確にするには「資産に計上されている現金は誰のものか」という問を考えてみるといい。誰のものだと思う?
株主のもの?だって株式会社は株主のものだからね。すると債権者は蚊帳の外?それもおかしいよね。お金貸しているのに、無視されるのも変だ。あと、そのお金をどう使うか自由に決めるのは経営者だ。じゃあ経営者のものだろうか?
これ、どれも違う。正解は、誰のものでもない。もし、これが3級レベルの個人商店だったら、まあ、現金はオーナーのものというイメージで概ねあっている。だけど、2級以上の企業会計では、そうではない。誰のものでもなく、企業が支配しているものという概念を持つべきだ。
会計公準の企業実体が意味すること
会計公準を知っているだろうか。以下の3つだ。
- 企業実体の公準
- 継続企業の公準
- 貨幣的評価の公準
私が受験生だったころ「まあ、2と3は分かるけど、1の意味が理解できないなぁ」という感じだった。手持ちのテキストには次のように書かれていた。
企業は株主のものでも社長のものでもなく、一個の法的に独立した存在であり、企業独自の立場から会計上の処理や記録を行うとする前提
はてさて?という感じだ。でも、ここまで読んだ人は分かるでしょ?つまり、資産や費用、負債や収益などは、誰のものということではなく、企業というバーチャルな存在を前提として、その立場で扱われるものということだ。それが企業実体の公準だ。
その観点からすれば、資産も費用も単に「企業という立場で調達したお金を何に使ったか、そのリストにすぎない」という意味で同じようなものだ、というイメージがつかめると思う。
同様に負債も純資産も「企業という立場でどうやってお金を調達したか、そのリストにすぎない」という意味で同じようなものだ。まずは、ここまでの感覚をつかむことが第1歩だ。
費用と資産の違いに迫る
さて、次は、費用と資産は何が違うのか、という点を考えていこう。
会計公準の継続企業が意味すること
ここでも実は、会計公準が登場する。「継続企業の公準」だ。これは「企業は解散や精算を予定するものではなく、永久に事業を営むもの」という仮定のことだ。・・・・だから?という感じかもしれない。
これ「だから、企業の経営成績や財政状態を把握するためには、どこかのタイミングで、人為的に期間を区切らないといけない」ということにつながる。
例えば期間限定プロジェクト、例えば3年間なら、成功か失敗かは、3年間のトータルの全収入と全支出を比べれば判明する。プラスなら成功、マイナスなら失敗だ。それだけのこと。だから期間限定プロジェクトは、人為的に期間を区切る必要はない。その期間のキャッシュの動きだけ見ればいい。(これ、簿記1級で言えば設備投資意思決定の論点のことだよ。)
だけど、未来永劫続くという前提にしちゃったら、いつまでも終わらないのだから、どこかで人為的に期間を区切らないといけないでしょ。それが会計期間だ。ここまではいいだろうか。つまり、会計公準の継続企業というのは、会計期間を区切らないといけないよね、ということとほぼ同義なわけだ。
費用と資産の相違点
すると、費用と資産の関係性がよくわかる。どちらも、企業にとってはお金を使ったことには違いない。なぜ、お金を使ったのか。それは、そうすればもっと儲かると思ったからだ。つまり将来のリターンを得るのに何かしらの効力を発揮するだろうと期待して投資したわけだ。
で、そのお金を使った効力がどの程度続くのか、それは建物みたいに何年間も続くものもあれば、広告費みたいにその場限りのものもある。そこで、会計期間内に効力が終わってしまうものを費用と呼ぼうと。そして、会計期間を超えて来期以降も効力が続くものを資産と呼ぼうと、そうやって分けているわけだ。
これが費用と資産の違いだ。本質的には同じもの。だけど、会計期間内に効力が終わるなら、費用としよう、翌期以降も効力続くならその効力分だけ資産として繰り越そうと、そういうことだ。
一見異なる会計処理でも実は同じようなことをしている
ここまで分かると、会計の景色が、だいぶ違って見えてくるはずだ。つまり、何かお金を使えば、それは一旦は費用か資産になるわけだ。で、決算のときに、よくよく見てみたら、この資産のうち、これだけは当会計期間で効力終わってるじゃない、とか、逆に費用と思ったけど、これは翌期も効力続くじゃないかとか。そんなケースが出てくるわけだ。そこで、その分を振替えようとなる。決算整理の会計処理の多くはこのパターンだ。実によく登場する。
例えば資産を費用に振り替えるケースでは、減価償却がそうだよね。あと、減損会計なんかもそうだよね。資産価値あると思っていたのに、もう絶望的にダメで将来的に復活する可能性もない、つまり当期の時点で効力が失われてしまったから、効力残っている分だけ、翌期に繰り越して、それ以外は、全部費用(まあ損失だけど)に振替えよう、という仕訳でしょ。
逆に費用を資産に振り替えるケースでは、費用の繰延なんて全部このパターンだよね。それから、売上原価の算定、つまり「しいくりくりしい」は、資産→費用と費用→資産を同時にやっているわけだ。前者は期首在庫分、後者は期末在庫分だね。
つまり、一見すると、まるで異なる取引や会計処理でも、本質的には、資産と費用を振り替えているだけ、というパターンはとても多いんだ。そういう目で見ると、なーんだ、これもあれと同じパターンか、という風に見えてくるもんだ。
会計の基本となる考え方の理解の答え
前回の記事の「会計の基本となる考え方の理解」では、9つの課題を提示した。今回は、そのうちの3つについて書いてみた。
- 3.資産と費用は、極めて似ていることを理解している?どこが似ていてどこが違うの?
- 4.負債と資本って、何が違うの?負債は嫌なもので資本って嬉しいものってイメージであってるの?
- 6.資産に計上されている現金って誰のもの?経営者?債権者?株主?それとも・・・それを説明するのは会計公準のどれ?
自分の言葉で人に説明できるレベルで腹落ちしただろうか。次の記事は、「発生主義」「実現主義」「費用収益対応の原則」について書いてみる。是非自分だったらどう説明するか考えてみて欲しい。
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前回の記事の9つの課題について考えていましたが、基本概念のイメージはかけ離れていなかったと思いますが何も見ないで人に説明できるほど本質を理解していませんでした・・・
3、4、6、についてまとめると、
3⇒似ている点→調達したお金を事業のために投資し、お金を何に使ったのかということ。違う点→会計期間内に効力が終わってしまうものが「費用」、会計期間を超えて来期以降も効力が続くものを「資産」
4⇒負債も資本(純資産)もお金をどうやって調達したのかという点では同じ。違う点→負債は、「いずれ現金で返す」という義務と引き換えにお金を調達している。資本は現金で返す義務はないが、これは株主のもので今後の増加分も株主のもの、経営に口出しされる制約あり。
6⇒誰のものでもなく、企業が支配している。企業というバーチャルな存在を前提として、その立場で扱われるものである。それを「企業実体の公準」が意味している。以上理解しました。
今頃ですが・・借方・貸方よくできているなあと思ってしまいました。その他も考えてみます。解説をよろしくお願いします。
ファイティンさん
会計のことが面白いほどわかる本<会計の基本の基本編>買われたって言ってましたよね。
この本、超いいんで、しっかり読んで下さい。
この記事と併用して読んで頂ければ、必ずや力になると思いますよ。
そうなんです!
この本と先生の記事を一緒に読んでいます。
とても参考になっています。
ありがとうございました。
はじめまして。
記事の内容には直接関係ないのですが、
現在日商2級を目指して3級を復習中です。1級まで取りたいと考えています。
ただ、実は以前2級まで取得した経験があります。2012年の2月試験で3級100点、6月試験で2級78点で合格でした。
しかし、実際の実力としては、特に2級はわからない論点(本支店会計)などを直前までわかることができず、本番ででなかったので助かり、工簿にしても某スクールさんで本社工場会計を予想で押していて、抑えておいたので受かったのです。
以後簿記から離れていたのですが、ひょんな事からいずれ会社を経営したいという願望ができ、そのためには簿記会計の知識は必須だと思い(合格をしていたものの暗記中心で本質を理解していなかったため)
最近になって桜井先生が書かれた『財務会計・入門』(有斐閣)から読みはじめたところ、とても面白く読めました。
入門的な知識だけでも、抑えておくと仕訳や取引がよくわかり、簿記を復習しはじめたときに久しぶりの学習でほとんど忘れていたのを、逆に理解していることですぐにできました。
こちらのサイトでも紹介されている『財務会計講義』も手に入れようと思います。
いいですね。すでに2級に78点で受かっているのに、それはたまたま運が良かったからであって、実際の実力はそこまでない、本質を理解していないから勉強しなおす、という姿勢。伸びます。必ず。
いちきろうさんにおすすめの本があります。
会社法対応 会計のことが面白いほどわかる本<会計基準の理解編>
こちらは2012年版が最新ですが、2006年版でも全く問題ないです。amazonの中古本なら送料込でも数百円です。超オススメです。
なお、「財務会計講義」は1級のテキストを一巡していないと厳しいと思います。1級になると、会計理論の基礎を最初にやります。そして、その理論にもとづいて具体的な会計処理方法を学習していきます。それらをぐるっと1周してから読むと、非常に役に立ちます。ただ、そういった学習を飛び越えて、いきなり読むと、ちょっと難しいかもしれません。
でも、いちきろうさんのような姿勢の方なら、大丈夫かもしれません。いま、分からなくても、いずれ役に立つ時が来るので買っておいてもいいかもしれないですね。
なお、財務会計講義も最新版を買う必要はありません。14版とかなら多分1,000円くらいです。内容的には現行の1級において全く問題ありません。十分対応しています。
ありがとうございます。
もともと簿記は覚えて手を動かすみたいな考えだったので「理解せず」「手を動かす」ことしかやりませんでした。でもほんとうは、理解しないでやる勉強が心底嫌いです。
理解をしはじめて「簿記会計はこういう仕組みで、こう仕訳を切るのはこういう必要性からなんだ」とわかったときの面白さったらすごいですね。
先生ご紹介の本購入してみます!
すみません、本の紹介、若干間違えました。
× 会社法対応 会計のことが面白いほどわかる本<会計基準の理解編>
◯ 会社法対応 会計のことが面白いほどわかる本<会計の基本の基本編>
です。先に<会計の基本の基本編>から読んで下さい。<会計基準の理解編>はその後です。
>理解をしはじめて「簿記会計はこういう仕組みで、こう仕訳を切るのはこういう必要性からなんだ」とわかったときの面白さったらすごいですね。
はい、はまりますよね。
すごく分かりやすくまとめられていて助かってます。
あの、頭の中でこんがらがってしまっているので質問します。簿記は記帳技術で会計が利害関係者に報告することを指すのでしょうか?
すみません、返信が遅くなりました。
>簿記は記帳技術で会計が利害関係者に報告することを指すのでしょうか?
簿記が記帳技術というのは、まあそうですね。そのとおりだと思います。
会計が利害関係者への報告のことかといえば、うーん、これは微妙です。
一般用語の”会計”という意味では、もっと広い意味ですよね。”お会計お願いします”と言えば単に料金の支払いとか商品の精算のことですよね。
もう少し、会計学よりで言うと確かに”利害関係者への報告”も含まれますが、それ以前に取引を記録して、計算・整理し、その上で利害関係者に報告すること、全般を含むのではないでしょうか。
さらに、”利害関係者”という言葉がまた微妙です。
一般に、利害関係者といえばステークホルダー、すなわち株主、債権者をはじめとして、従業員や顧客、近隣住民までをも含めます。しかし、会計学で利害関係者といえばもっぱら株主と債権者です。財務諸表はその利害を調整する機能を持っていると学びます。
そういう意味で、単に利害関係者といってもどういう意味なのかがいくつか解釈の仕方があります。
あと、会計というのは大きく分けて、財務会計、管理会計、税務会計とあって(他にもありますが…)、財務会計は、まあ利害関係者への報告の意味合いが大きいのですが、管理会計はもっぱら社内の極秘情報を扱います。外部へは報告しません。そういう意味では、「会計=利害関係者への報告」と断言するのはちょっと気が引けます。まあ、社内の経営管理者も利害関係者といえば、それまでですが。
ということで、まあ、軽く流すなら「そうですね」ということなのですが、細かいこと言い出すと結構難しいご質問です。