いまさらだけど会計は誰のため?何のため?

会計は誰のため?何のため?

試験に出るかと言われれば直接的には関係ない。だけど、どの論点も「誰のため?何のためにやっている?」を知ると俄然興味が湧いてくるものだ。だから今日は、そんな話をしたい。

ステークホルダー。企業と何らかの利害関係を持つ関係者の総称だ。まっさきに思い浮かぶのが、経営者、株主、債権者だろう。それ以外にも国や地方自治体(税金)、取引先、消費者など、企業は、様々な関係者と利害関係を持っている。

よく、会計の入門書とか読むと「財務会計は利害調整機能を有する」なんて書いてあって、カッコイイ!って思う。だけど、それって具体的にどういうことなんだろう。

債権者 VS 株主

ステークホルダーの代表と言えば、株主と債権者だろう。

債権者は、企業に何を願っているのだろうか。仮に企業の利益が10倍になっても、債権者はそれほど嬉しくない。得られるお金は変わらないからだ。元金と約束した分の利息しかもらえない。それより、潰れられたらコトだ。お金が返って来なくなっちゃう。つまり、債権者は「利益はともかく、潰れないで欲しい」と願っている。

株主はどうだろう。もちろん、潰れられたらコトだ。株券が紙屑になっちゃう。でも、それ以上の負担は無い。株券をあきらめればおしまい。企業にどれほど多額の負債があろうとも返済義務はない。債権者が泣いておしまい。一方で、利益が出れば、それは全部株主のものだ。配当という形で換金される。ということは、株主は「安全性もさることながら、儲けて欲しい」と思っている。

この点で、株主と債権者は利害が一致していない

株主は、企業がいくら儲けたのかを知りたい。それを配当でよこせという。一方で債権者は企業に安全でいてほしい。利益が出たからといって無闇に配当しないでほしい。なぜなら利益分が現金でストックされているとは限らないからだ。それにも関わらず、無理やり配当を出しちゃえば、黒字倒産になりかねない。困るのは債権者だ。倒産だけは避けて欲しい。

といって、全く配当金を出さないと株主がだまっていない。せっかく投資しているのに、配当もらえないなら、そんな株券売っちまえ、となりかねない。それは株価の下落につながり、株主総会で吊るし上げられ、資金調達に悪影響が出る。あまりに下落すると買収されてしまうかもしれない。経営者としてはそれは困る。

ということで、配当をどうするかを巡っては、株主と債権者は互いに利害が反している。そこで、両者に「まあまあ、喧嘩はやめて、配当金は、このあたりで手を打ちましょうよ。」というラインが決まっている。それが分配可能額だ。

ある意味、上場企業にとって、分配可能額を計算することは、財務諸表を作成する最大の目的の1つでもある。

経営者 VS 株主・債権者(中小零細企業の場合)

さて、経営者が恐れるステークホルダーは誰だろう。

中小零細企業の場合、経営者≒株主だったりする。うちみたいな零細企業は、私が100%株主だ。すると、誰の目を気にするか。もちろん、最終的にはお客さんだけど、とりあえずは、銀行の目が気になる。

とはいえ、うちなんかは店舗経営で現金商売だったので、実はそれほど資金繰りには困らなかった。売上でキャッシュインが先行し、買掛金の支払いは1カ月以上先だったからだ。

それでも、新規店舗を開発する時なんかは、一時的に数千万円のキャッシュが必要になる。ここで銀行にそっぽを向かれちゃうと店舗開発出来ないので、ほどほどの距離を保って付き合うわけだ。

もし、これが建設業なんかだと、キャッシュアウトが先行するので、銀行と密な付き合いが必要だろう。日々の資金繰りを支援してもらわないと立ち行かなくなってしまうかもしれない。いずれにしても、中小零細企業の経営者にとって、銀行の目は気になるのだ。

中小零細企業経営者にとって、もう1つ怖いものがある。税務署だ。儲け過ぎちゃうと税金がすごいことになる。だから、儲けすぎも考えものだ。そこで、赤字スレスレくらいか少し利益が出ているくらいがちょうどいいと思うようになる。まあ、変な話、利益を圧縮するインセンティブが働くのだ。

経営者 VS 株主・債権者(大企業の場合)

同じ経営者でも、上場企業になると話は別になる。

特に雇われ社長の場合、突き上げを食らうのは、株主総会だ。利益を出せずに株価が下がろうものならボロクソだ。もちろん、銀行との付き合いも大事だけど、それ以上に株主からのプレッシャーが半端ない。

だから利益捻出のインセンティブが働く。少しでも経営成績が良いように見せたくなるのだ。優良企業だと思われれば、資金調達も楽になる。社債発行や銀行借入も有利に進められるだろう。さらに、優れた経営能力をアピールでき、多額の報酬を得られる。経営者の地位も安泰だ。だから、粉飾したくなっちゃうのだ。東芝の不正会計なんてまさにこれだ。

つまり、上場企業の経営者は、株主にいい顔したいというインセンティブが働くことを知っておこう。

ちなみに、少し寄り道だけど、借金って、最初は貸してる方が偉そうだけど、あるラインを超えると、借りている方が偉くなっちゃうんだよね。「いいの?うちに協力しなくて。うち潰れるよ?おたくも道連れだよ」みたいな感じで、いわゆる大きすぎて潰せない感じになる。

最近では、ソフトバンクが大型の投資案件(英ARM3兆円とかアメリカに5兆円とか)を次々と決めているけど、みずほ銀行からの借入金で賄っているらしい。もうね、借金が売上高をはるかに超えているんだって。こうなると、銀行も一蓮托生。孫さんがしくじれば銀行も道連れ。となると、孫さんの意向を聞かないわけにいかない。もう、どちらが上なんだかって感じ。借金はあるライン超えると経営者の方が立場が上になるんだ。

最近の傾向(概念フレームワーク)

近年、概念フレームワークといって、財務会計の基礎となる前提や概念を体系化したものが発表されている。

従来の会計基準は、企業会計原則をベースに企業会計基準を上書きする形で制度化されている。特に企業会計原則は「実務慣行のなかから一般に公正妥当と認められたところを要約」とあるように「みんなが実務でやっていることの中で、これ、いいんじゃない?」という現場ルールを制度化したものだ。(こういうのを帰納的アプローチという)

これに対して、概念フレームワークは、上位概念を先に決めておいて、そこから現場に落としていくイメージだ。(こういうのを演繹的アプローチという)

それはさておき、この概念フレームワーク、何のためにあるの?という基本的なところで、従来の会計とは一線を画している。それは、財務報告の目的が「投資家の投資意思決定に役立つような情報を提供する」としていることだ。つまり、利害調整よりも、投資家重視なのだ。これが世界の潮流なんですなぁくらい知っておけばいいと思う。

なお、利害調整機能って過去データをもとに、まあまあ喧嘩せずに、という感じだったでしょ。これが投資意思決定有用性となると、ざっくり将来、儲かるの?という視点、つまり未来データに目が向く。

最近の会計基準って、将来キャッシュフローを割り引いたりする計算多いでしょ。こことつながっているんだということを知っておくといいと思う。

外部だけじゃなくて内部でも会計は役立っている

さて、以上は、主に財務会計をベースにした話だ。つまり、外部のステークホルダーに我が社の経営成績と財政状態を知って頂きましょうということだ。

一方で、企業内部に向けた会計もある。管理会計だ。日商簿記1級の科目で言えば工業簿記と原価計算、特に原価計算だ。(工業簿記は、簿記というだけあって一部、企業内部の原価管理にも有用だけど、もっぱら外部向けの財務諸表作成目的がメインだ。それに対して、原価計算は、完全に企業内部向けだ。)

管理会計の目的は明確だ。過去、儲かったねではなくて、将来、儲けるために何をすればいいか、そのために会計を利用しようということだ。

具体的に何をするか。大きく分けて2つある。1つは意思決定、もう1つは業績測定だ。意思決定はさらに細分化され、大きな金額を長期に渡って投資する戦略的意思決定(設備投資など)と、日常業務についての意思決定である業務的意思決定がある。前者は経営者(社長や事業部長クラス)、後者はざっくり部長とか課長など管理者が対象だ。

もう1つの業績測定も重要だ。これは単純に、製品や地域といったセグメントの業績を測定したり、事業部長や事業部自体の業績を測定するものだ。手法としては、前年実績や他社との比較、予算との比較が一般的だ。

こんな、業績測定なんかで、儲かるようになるの?と思わないだろうか。なんで業績測定が管理会計なのかと。思わない?これ、経営者として当事者になると痛烈に思うことなんだ。人って、結局、評価でしか動かないということ。評価基準が変われば、それが不合理でも、人ってそのとおりに動いちゃうものだ。

例えば、営業部の成績は売上で決まる、という評価基準を決めれば、仮に利益が出なくても赤字でもなんでも、売上をあげようとするのが人ってもんだ。仮に、ROI(投下資本利益率)で評価するとなれば、これは「利益÷投資額」なので、極端な話、利益が出なそうだなぁと思えば、無理やり投資を制限しようとしたりするもんだ。それが将来的に見て、マイナスの影響があると分かっていても、評価基準がそうなら、そうするのが人ってもの。

だから、「会社が儲かるためにやるべきこと」と「人がやりたくなること」が一致するように、評価基準を決めて測定しなければいけない。

余談だけど、経営者の仕事のうち、この業績測定がもっとも重要な仕事なんじゃないかと個人的には思っている。どれだけ優秀な人が集まって、どれだけ個々人のモチベーションが高くても、業績測定がいい加減だと、あっという間に腐ってしまうのが人間だ。

よく、経営者としてすごい、と崇められるのは、思い切った投資決断をして、それが成功したときだけど、実際は、そんな花のある仕事よりも、日々の業績測定によって、人を動かすことの方が難しくもあり重要でもあると思う。これは、様々な組織を経験し、そしてまた自らが経営を行って、心から思うことだ。

最後に

こういった話は、試験には直接出題されないから軽視されがちだ。でも、簿記の試験って、受かってからが大事だ。細かい計算や細かい会計基準を覚えていても、それが、そもそも誰のために、何のためにやっているのかが分からなければ、勉強してきたことを役立てることができない。

それから、試験勉強中だって、この会計処理って、誰のためなんだろう、とふと思えば理解も深まるというものだ。頭の片隅にでも残しておいてもらえれば嬉しいと思う。


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いまさらだけど会計は誰のため?何のため?” に対して1件のコメントがあります。

  1. いっちー より:

    こんばんは。

    債権者・株主と企業の記事は興味深かったです。
    いままで簿記勉強していて、どうしても株主に焦点が当たっている感が強かったですし、今までこういう切り口で物事を見ていない自分を恥じています。

    また、借入金の話も、なぜSBがあんなに投資しているのかと疑問があったので、読んでみて目から鱗でした。

    先生が前に、おススメしていた、財務会計講義の本と原価計算の本を賞与で購入しました。
    こういう点にも着目すると、本ももっと深く読めるのかな?とも思いました。

    1. pro-boki より:

      どうしても受験中は、こういう直接試験に出ない話ってあまりされませんよね。資格スクールでもしないし、テキストにも載ってない。でも、実のところ、こういう基礎的な概念を知ってるかどうかで、論点の理解度に差が出てくると思うのです。

      財務会計講義と原価計算(岡本先生のですよね?)は難しいです。一読して、すぐに理解出来るようなものではありません。でも、ゆっくり何度も読めば必ず理解できます。また、今、理解出来なくても、色々知識がついて、しばらくしてから読むと理解出来るようになっていたりします。

      特に財務会計講義は、第4章が良く書かれていると思います。私は、この章を読んで目からウロコでした。良い書籍だと思います。それから、原価計算も、いまだによく読みます。会計やるなら一生ものの本だと思います。良い買い物だと思います。

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