第168回日商簿記1級・詳細解説【商業簿記】

第168回商業簿記の感想
第168回日商簿記1級本試験、受験してきました。
商業簿記は、基本論点を中心としながらも、それぞれに少しづつひねりが入っていて、意外と解きにくい問題だったのではないかと思います。ただ、設問はどれも良問で、普段の勉強の成果が表れる問題だったと思います。
得点の目安は、目標17点です。
商簿・問題概要
答案要求
個別財務諸表の損益計算書と貸借対照表が問われました。
問題概要
- 商品売買と収益認識基準(リベート、検収基準)
- 貸倒引当金
- 有形固定資産
3.1 建物の減価償却(最後の減価償却)
3.2 備品の減価償却(200%定率法)
3.3 ソフトウェアの償却 - 有価証券
4.1 その他有価証券
4.2 自己株式 - 社債(定時償還)
- 退職給付会計
- 税効果会計
- 法人税等(申告調整)
以下の解説をご覧頂くうえでのお願い
- 原則として金額の単位が無いものはすべて千円単位です。
- 誤字脱字などありましたらご連絡ください。
1(1) 商品売買と収益認識基準(リベート)
収益認識基準のリベートの問題です。
当社はA社と商品売買契約を締結しており、20X4年1月1日から6月30日までの間にA社が商品を30,000千円以上購入することを条件に、この期間の購入金額の総額の10%をA社へ後日支払うこととしている。当社では、この条件が達成される可能性が高いと見込んでいる。20X4年1月1日から3月末までのA社に対する販売合計額は16,500千円、このうち2月末までの売上に対する支払見込額は売上割戻勘定および返金負債勘定で処理済みであるが、3月の売上分については未処理となっている(売上自体は計上済み)。なお、[資料I]の返金負債は、すべてこのA社との契約から生じたものである。
20X4年1月1日から6月30日までA社に商品を販売すると、その販売額の10%がリベートになる、という問題です。すでに2月末までは処理済みで、あとは3月の処理をすればよいという状況です。
前TBを確認すると、返金負債は900となっており、これが2月までのリベートということです。3月末までの販売額の合計が16,500ですからリベートは1,650であり、900との差額の750が3月に発生したリベートということになります。よって、仕訳は次のとおりです。、「売上750/返金負債750」です。
| 売上 | 750 | 返金負債 | 750 |
ここまでは、特に問題ありません。問題なのは、前TBに売上割戻勘定があることです。これはいったい何なのでしょうか。以前の会計基準では、リベートが発生し、支払いをした場合は、売上割戻XX/売掛金XXといった仕訳を行っていましたので、売上割戻勘定が計上されるのはわかるのですが、収益認識基準が適用されてからのリベートは、上記のように返金負債で計上し、これを支払ったときは、返金負債を取り崩す処理を行います。よって、売上割戻勘定は登場する余地がないはずです。これは何?
ここで考えられるのが、A社とは、この20X4年1月1日から6月30日までの取引以外にも取引があり、そこで発生したリベートの支払いについて売上割戻勘定を使ったということです。釈然としませんが、それくらいしか考えられません。
私は、この売上割戻は一体何だ?という点だけでしばらく考え込んでしまいました。まあ、考えても分からないものは分からないので、事情は知らないけど、きっと売上割戻があって計上したんだろう。損益計算書作成時には、売上と相殺すればいいに違いないと割り切りました。
| 売上 | 4,300 | 売上割戻 | 4,300 |
【解答欄】
- 返金負債:16,500千円×10%=1,650
1(2) 商品売買(検収基準)
検収基準に関する問題です。
得意先B社に対する売掛金残高を照合したところ、B社が回答した残高との間で差異が生じた。原因を調査するため、3月中のB社との取引を参照した結果は次のとおりであり、それぞれ必要に応じて適切に処理する。なお、当社はB社への商品販売について検収基準で売上を計上している。
BB4301:販売額250千円、3月中に出荷したが3月中に返品を受けた
BB4302:販売額500千円、3月中に出荷したが3月中に検収も終了したが、その報告が4月になってしまい、4月の売上としている。
BB4303:販売額400千円、3月中に出荷したがB社が検収したのは4月である
BB4302は、3月中に検収が終了しているため、本来当期の売上にするべきですが、これが翌期の売上になってしまっています。これを当期の売上にします。
| 売掛金 | 500 | 売上 | 500 |
【解答欄】
- 売掛金:前TB 32,000+500=32,500
1(3) 商品売買
商品ボックスを使って分析を行います。
期末商品の帳簿棚卸高は62,000千円、実地棚卸高は60,000千円である。この差額は、すべて見本費として他社へ無償で提供したものである。また、これらの金額には上記(2)から判明する返品された商品は含むが、出荷済み売上未計上の商品は含んでいない。当期のB社売上の原価率は60%である。
商品ボックス
| 期首商品*1 50,000 |
売上原価*5 170,760 |
| 当期仕入*2 183,000 |
|
| 見本費*3 2,000 |
|
| 期末商品*4 60,240 |
*1 前TBの繰越商品
*2 前TBの仕入
*3 帳簿棚卸高62,000-実地棚卸高60,000=2,000
*4 60,000+BB4303販売額600×60%=60,240
*5 貸借差額
ここは問題文の読み取りが難しいところです。
問題文には、帳簿棚卸高62,000、実地棚卸高60,000とあり、一見するとその差額2,000千円が棚卸減耗費になると思われますが、本問では「この差額はすべて見本費」であると書かれていますので、見本費に振り替えます。
| 見本費 | 2,000 | 仕入 | 2,000 |
また、上記BB4303は、3月中に出荷していますから、この分の商品は手元にありません。つまり実地棚卸高60,000は、このBB4303の商品を含んでいない金額です。しかし、BB4303は検収を4月に行っているため収益認識されるのは翌期であり、3月の時点では、まだ当社の商品です。よって、BB4303の商品原価を期末商品に加える必要があります(上記ボックス図の*4)。
この読み取りが出来たかどうかが本問のポイントです。
【解答欄】
- 見本費:帳簿棚卸高62,000-実地棚卸高60,000=2,000
- 商品:上記ボックス図より60,240
- 売上原価:上記ボックス図より170,760
- 売上高:前TB 298,000-750-4,300+500=293,450
2 貸倒引当金
一般債権しかない簡単な問題ですが、上記1と絡んでいる点に注意が必要です。解く順番を誤るとミスにつながります。
【解答欄】
- 売掛金の貸倒引当金設定額:32,500×2%=650
- 販管費の貸倒引当金繰入額:650-前TB 500=150
- 差入保証金の貸倒引当金設定額:2,000×50%=1,000
- 営業外費用の貸倒引当金繰入額:1,000−0=1,000
3 有形固定資産
易しい問題ですが、細かい点で注意が必要です。所与されている前TBは間接控除法ですが、答案用紙のBSは直接控除法です。ここに気付かないと失点する可能性があります。
建物の減価償却
減価償却費:80,000×0.9÷50年×6ヶ月÷12ヶ月=720
【解答欄】
- 建物:前TB建物 80,000-前TB累計額 71,280-720=8,000
備品の減価償却
定率法、耐用年数8年、償却率0.250、改訂償却率0.334、保証率0.07909(当期首時点で取得後6年経過)です。改訂償却率が0.334であることから、その逆数をとってラスト3回は、改訂償却率を使った減価償却であることが分かります。本問は耐用年数8年のうちすでに6年経過していますから、あと2回しか減価償却しません。よって、前年に改訂償却率を使った減価償却に切り替わっていることが分かります。ここは、丁寧に備品の簿価を追っていきます。(償却率が0.25なので、0.75を掛けて簿価一覧を作っていきます)
【備品の簿価一覧】
1:40,000
2:40,000×0.75=30,000
3:30,000×0.75=22,500
4:22,500×0.75=16,875
5:16,875×0.75=12,656
6:12,656×0.75=9,492
ここまでで、5回減価償却を行いあと3回となったため、ここから改訂償却率を使うはずです。念の為、保証率を使ってチェックします。
通常の減価償却費;9,492×償却率0.25=2,373
保証額:40,000×0.07909=3,136.6
よって、通常の減価償却費<保証額であるため、ここから改訂償却率を使って減価償却費を求めます。
改訂償却率による減価償却費:9,492×0.334=3,170
7:9,492-3,170=6,322
8:6,322-3,170=3,152
ここで、前TBとの整合性チェックを行います。前TBの備品減価償却累計額は33,678です。上記簿価一覧にもとづいて計算しても、40,000-6,322=33,678であるため、整合していることが分かります。
よって、当期の減価償却費は、3,170、備品の貸借対照表価額は3,152です。
【解答欄】
- 備品:3,152
- 減価償却費:建物720+備品3,170=3,890
ソフトウェアの償却
耐用年数が5年で、期首時点で取得後1年6ヶ月経過していますから、前TBのソフトウェア6,300を残存耐用年数3.5年で割れば、減価償却費が求められます。
【解答欄】
- ソフトウェア償却:前TBソフトウェア 6,300÷3.5年=1,800
- ソフトウェア:前TBソフトウェア 6,300-1,800=4,500
4 有価証券
前TBとの整合性チェックをします。問題文に、前TBの投資有価証券勘定は、X社株式とY社株式と当社株式の合計であると書かれています。X社株式とY社株式はその他有価証券ですから、期首の洗替処理によって取得原価になっているはずです。これに当社株式を加えた金額を計算します。
X社株式19,000+Y社株式12,000+当社株式4,100=35,100
前TBの投資有価証券27,600と整合しません。ここで、問題文をよく読みます。すると、X社株式は、前期末に減損処理済みと書かれています。よって、X社株式は減損処理によって切り下げられた11,500になっているはずです。この金額で、再度、前TBのチェックをします。
X社株式11,500+Y社株式12,000+当社株式4,100=27,600
整合しました。
ここまでの確認をして、X社株式の簿価が11,500であることをチェックしておけば本問は間違えることはないと思いますが、安易にその他有価証券なので、取得原価と当期末時価を比較すればよいという判断をするとミスをしてしまいます。程よい”ひねり”だと思います。
その他有価証券
X社株式のその他有価証券評価差額金:(12,000-11,500)×税効果0.7=350
Y社株式のその他有価証券評価差額金:(10,700-12,000)×税効果0.7=△910
合計:△560
| 繰延税金資産 | 240 | 投資有価証券 | 800 |
| そ評 | 560 |
【解答欄】
- 投資有価証券:X社株式時価12,000+Y社株式時価10,700=22,700
- その他有価証券評価差額金:△560
自己株式
当社株式4,100とは自己株式のことですから、投資有価証券から自己株式に振り替えます。そのさい、付随費用100を取得原価に含んでいますからこれを支払手数料に振り替えます。
【解答欄】
- 自己株式:4,100-100=4,000(BS表示は△4,000)
- 支払手数料:100
5 社債
一見すると社債の定時償還(抽選償還)の問題であり、償還するタイミングと利払いが中途半端(7月1日)で、かつ年に2回あることから、複雑な問題に見えます。一般に、こういう問題は計算量が多く時間が掛かる上に、他の人も出来ないため配点調整によって低い配点しか来ない確率が高いです。こういった問題は、後回しにすべきです。
しかし、本問は、よく見ると「平価発行」であると書かれています。償却原価が無いのです。となると話はガラッと変わります。抽選償還が難しいのは、主に償却原価のせいです。これがないなら易しい問題です。
まず、前TBとの整合性をチェックします。社債は額面総額50,000で20X1年7月1日に発行されています。当期は20X3年4月1日〜20X4年3月31日ですから、20X3年12月31日時点で2.5年経過しており、1年あたり10,000償還されているため、25,000償還されているはずです。となると前TBの社債は25,000のはずですが、30,000となっており整合していません。
そこで問題文を良く読むと「20X3年12月末の利払い及び定時償還にあたり支払った金額は仮払金として処理したのみである」と書かれています。ここから、12月末の償還分は仮払金になっており、社債から減額していないため、前TBが30,000になっていることが分かります。
また、前TBの仮払金をチェックすると5,600となっており、これは、償還分の5,000と、利息分の600(=30,000×年利率4%×6ヶ月÷12ヶ月)と整合していることが分かります。
ここまで分かればあとは集計するだけです。
社債利息は、次の合計です。
4月1日〜6月30日分:35,000×4%×3ヶ月÷12ヶ月=350(前TBの社債利息)
7月1日〜12月31日分:30,000×4%×6ヶ月÷12ヶ月=600
1月1日〜3月31日分:25,000×4%×3ヶ月÷12ヶ月=250(未払社債利息)
合計:350+600+250=1,200
【解答欄】
- 社債利息:1,200
- 未払費用(未払社債利息):250
- 1年内返済予定の社債:5,000×2=10,000
- 社債:25,000-10,000=15,000
6 退職給付会計
退職給付会計の基本出題パターンは、勤務費用や利息費用、一時金や年金の支払い、年金資産への拠出などの資料が与えられて、期末の退職給付引当金や当期の退職給付費用を算定するというものです。本問は、このパターンを踏襲しながらも過去勤務費用がある点で、若干難しかったと思います。過去勤務費用の計算問題は、1級では初出です。過去勤務費用がある場合は、次のようにワークシートを作ります。
| 期首 | 費用 | 拠出 | |
| 債務 | △43,000*1 | 勤務 △2,600 | |
| 利息 △400*3 | |||
| 資産 | 28,000 | 運用収益 1,400 | 拠出 2,000 |
| 過去勤務費用 | 3,000*2 | △300*4 | |
| 合計 | △12,000 | △1,900 | 2,000 |
*1 「当期首に退職給付水準の改訂により退職給付債務が3,000 千円増加」とあるため、期首退職給付債務40,000に3,000を加えて43,000とします。
*2 過去勤務費用はこの位置に書きます。不利差異(借方差異)であるためワークシート上はプラス表示です。
*3 期首に過去勤務費用が発生していますが、問題文に「利息費用の計算には反映させない」とあるため、43,000ではなく、もともとの40,000に対して利息費用1%を算定します。
*4 過去勤務費用は発生した期から償却します。3,000÷10年=300
なお、上記ワークシートによれば期首退職給付引当金は12,000ですが、前TBの退職給付引当金は10,000と一見、整合していないように見えます。これは、問題文に「当期中の年金資産への拠出額は2,000千円であり、適切に処理済みである」と書かれているためです。
これまでの問題は、年金資産への拠出額や一時金の支払いなどは、仮払金や賃金給料勘定で処理されていることが多く、結果的にワークシートの期首退職給付引当金と前TBの退職給付引当金が整合していました。本問は、仮払金などは使わず「適切に処理済みである」とあることから、退職給付引当金が期中に取り崩されていることに注意が必要です。
【解答欄】
- 退職給付費用:上記ワークシートより1,900
- 退職給付引当金:△12,000-1,900+2,000=△11,900(BS表示は11,900)
7 税効果会計
前期末の期間差異(法人税等調整額を計上する一時差異):7,500+12,000=19,500
前期末の繰延税金資産:19,500×0.3=5,850(前TBと整合していることをチェックすること)
当期末の期間差異
貸倒引当金:差入保証金の貸倒引当金1,000
投資有価証券評価損:前期と同様7,500
退職給付引当金:上記6より11,900
合計:20,400
当期末の繰延税金資産(その他有価証券評価差額金の分を含まず):20,400×0.3=6,120
【解答欄】
- 法人税等調整額:5,850-6,120=△270
- 繰延税金資産:6,120+その他有価証券評価差額金に係る繰延税金資産240=6,360
8 法人税等
問題文に「課税所得は、54,100千円(本問から判明しない事項を調整した利益額)」とあります。ということは、本問から判明している事項の調整(申告調整)は自分でやりなさい、という意味です。
本問で判明している申告調整は、上記7より、900(=当期末の期間差異20,400-前期末の期間差異19,500)です。よって、課税所得は、54,100+900=55,000となります。
【解答欄】
- 法人税、住民税及び事業税:課税所得55,000×30%=16,500
- 未払法人税等:16,500-前TB仮払法人税等15,000=1,500
