分かっているようで分からない他勘定振替高

商品売買の盲点論点、他勘定振替高

アシスタント君が日商簿記1級にチャレンジするというので、ミニインプット講義をしています。いつもは経験者の方ばかりを相手にしているせいか、全くの初心者に教えていると、いろいろと気付きがあってありがたい。なるほど、そこが分からないのか!といった感じ。

簿記1級論点の他勘定振替高。どのテキストにもサラッとしか書いてないから、ほとんどの人は、サラッとしか理解していない。こういう論点が困るのだ。完全に知らない論点は捨てられる。自信のある論点は取れる。出来そうで実はよく分かっていないという論点で足を引っ張られる。

捨てるなら捨てる。やるならしっかり。他勘定振替高は理屈が分かってしまえば簡単だから、この機会にマスターしてしまおう。

他勘定振替高の設例

まずは、例題をやってみよう。次の資料にもとづいて、損益計算書を作成してほしい。(できれば、しっかり紙と鉛筆と電卓を用意してやってほしい)

【資料1】

決算整理前残高試算表(単位:万円)
繰越商品 200 売上 2,000
仕入 800    
見本品費 60    
その他販管費 840    
火災損失 100    

【資料2】

  1. 期中に商品の一部60万円分を見本品として使用しており、これは見本品費として処理済みである。
  2. 売上からは売上割引70万円と売上戻り50万円を、仕入からは仕入割引20万円と仕入値引30万円をすでに控除済である。
  3. 期中に火災が発生し、倉庫ならびに商品を焼失した。この火災による商品の損害は40万円、それ以外の損害は60万円であり、あわせて100万円を火災損失として計上済みである。
  4. 期末商品の実地棚卸高は300万円であった。帳簿残高との差はなかった。

解答

Ⅰ 売上高   2,070
Ⅱ 売上原価    
 期首商品棚卸高 200  
 当期商品仕入 920  
合計 1,120  
 他勘定振替高 100  
 期末商品棚卸高 300 720
売上総利益   1,350
Ⅲ 販管費    
 見本品費   60
 その他販管費   840
営業利益   450
Ⅳ 営業外収益    
 1.仕入割引   20
Ⅴ 営業外費用    
 1.売上割引   70
経常利益   400
Ⅵ 特別損失    
 1.火災損失   100
当期純利益   300

解説

Step.1

まずは、資料2の2「売上からは売上割引70万円と売上戻り50万円を、仕入からは仕入割引20万円と仕入値引30万円をすでに控除済である」を処理しよう。

  • 売上割引は、事実上の利息なので、売上から控除してはいけない。いけないのに控除済みなので戻してあげる必要がある。つまり、売上に70万円を足して、借方に売上割引70万円を計上しなければいけない。
  • 売上戻りは、返品のことであり、売上から控除済みということで何の問題もない。特に処理は必要ない。
  • 仕入割引も、事実上の利息なので、仕入から控除してはいけない。いけないのに控除済みなので戻してあげる必要がある。つまり、仕入に20万円を足して、貸方に仕入割引20万円を計上しなければいけない。
  • 仕入値引は、仕入れた商品にキズなどがあって値引きを要求したものである。これ仕入れから控除して構わない。すでに処理済みとのことで、これ以上何も処理する必要はない。

以上にもとづいて、正しい決算整理前残高試算表を作成すると次のようになる。

決算整理前残高試算表(単位:万円)
繰越商品 200 売上 2,070
仕入 820 仕入割引 20
見本品費 60    
その他販管費 840    
火災損失 100    
売上割引 70    

Step.2

上記の決算整理前残高試算表にもとづき商品ボックスを作ると以下のとおりとなる。

商品ボックス
期首 200 売上原価 200+820-300
=720
仕入

820

期末 300

基本的にこれで何ら問題はない。この商品ボックスに基づいて損益計算書を作成すると次のようになる。

Ⅰ 売上高   2,070
Ⅱ 売上原価    
 期首商品棚卸高 200  
 当期商品仕入 820  
合計 1,020  
 期末商品棚卸高 300 720
売上総利益   1,350
<以下省略>

この損益計算書、正確な期間損益計算の観点からは特に問題ない。ただし1点問題がある。この損益計算書からだと、まるで当期に仕入れた分は820万円のように見えてしまうのだ。つまり、購買部は、820万円しか仕入れていないと。そう見えてしまう。

現実には、違うよね。実際はもっと仕入れていたんだけど、火災で焼失しちゃったり、見本品として使用しちゃったりした分があるわけだ。その分については、期中に次の仕訳が行われている。

(見本品費)60 (仕入)60
(火災損失)40 (仕入)40

その結果が820であるわけだ。つまり、購買部は本当はもっと仕入れていた。営業部が見本に使ったり、火災が起きたので、820しか仕入れていないように見えるだけで、本当は920(=820+見本品60+火災40)仕入れていたわけだ。

Step.3

この購買部が本当に仕入れた分をちゃんと損益計算書に表そうよ、という観点から考えられたのが他勘定振替高だ。つまり、本当は920仕入れていたんだけど、うち、100は他に使ったよ、ということを損益計算書に表示しようということだ。つまり商品ボックスを書き直すと次のようになる。

商品ボックス
期首 200 売上原価 200+920-300−100
=720
仕入

920

他勘定振替高 見本品費60
火災損失40
期末 300 

この商品ボックスに基づいて損益計算書を作成すると次のようになる。

Ⅰ 売上高   2,070
Ⅱ 売上原価    
 期首商品棚卸高 200  
 当期商品仕入 920  
合計 1,120  
 他勘定振替高 100  
 期末商品棚卸高 300 720
売上総利益   1,350
<以下省略>

Step.4

販管費以下は特に問題ないだろう。見本品費とその他販管費は、販管費に表示する。仕入割引と売上割引は営業外だ。また火災なんてそうそう起きるものではないので、特別損失だ。この表示する場所を間違えなければ特に難しい箇所はないはずだ。

最後にひとこと

繰り返しになるけど、他勘定振替高は「損益計算書に本当に購買部が仕入れた額を表示したい」という目的を達成するために表示上の工夫をしているだけだ、という点に注意してほしい。改めて何かしらの会計処理、つまり仕訳を切ったりする必要はない。このあたりを勘違いして、他勘定振替高における仕訳は何だったっけ?なんて考え出すと訳が分からなくなるので注意しよう。

つまり、売上原価や利益の計算だけなら別に他勘定振替高なんて全く無視しても、何ら問題が無いということだ。このあたりの本質をつかんでおけば本試験で役立つことだろう。

今日はこんなところで。

分かっているようで分からない他勘定振替高” に対して1件のコメントがあります。

  1. ニュートリノ より:

    こんな問題簡単だと思ったのですが、絵に描いたように見事に引っかかり、当期仕入を820円としてしまいました。
    本当に仕入れたのは、見本品と火災損失の分100円を加えた920円ですよね。(盲点となる論点でした。)

    1. pro-boki より:

      そうなんですよね。これ、結構引っかかるんですよ。テキストにもそれほど詳しく書かれていないですからね。T社とN社のテキスト4種類を確認しましたけど、どれも本質的な意味は書かれてないですね。さらっとした説明だけです。

  2. 柴犬 より:

     現在プロ簿記内の理論やミニテスト等を再度確認させて頂いている
     柴犬と申します。

     上記問題で質問がございます。

     他勘定振替高の100で
     実際の仕入額やどこから発生した部分がわかるために
     仕入100/見本品費60
          火災損失40 であるならば

     解答の火災損失はそれ以外の損額の60のみと考えてしまいました。

     この部分について再度解説頂ければ幸いです。
     宜しくお願い致します。

    1. pro-boki より:

      問題文に「期中に火災が発生し、倉庫ならびに商品を焼失した。この火災による商品の損害は40万円、それ以外の損害は60万円であり、あわせて100万円を火災損失として計上済みである。」

      とありますよね。つまり、以下の仕訳を期中に切っています。
      火災損失100/仕入40
            /諸口60

      よって、火災損失は100です。

      なお、火災損失とは別に、以下の仕訳を期中に切っています。
      見本品費60/仕入60

      この見本品費60と諸口60がたまたま同じ数値なので、混乱されたのでしょうか。

  3. 柴犬 より:

    返信頂き有難うございます。
    見本品費と諸口の同額の部分は区別でできておりました。

    恐らく火災損失100の中の商品部分40と見本品費60は営業上のことで
    仕入に組み込まれ、仕入100/他勘定振替高100

    火災損失100は特別損失なので60(100-商品部分40)とならず
    そのまま特別損失枠の100と表記されると考えればよいのでしょうか。
    すいません。腑に落ちていなかったため再度コメントさせて頂きました。
    宜しくお願い致します。

    1. pro-boki より:

      >恐らく火災損失100の中の商品部分40と見本品費60は営業上のことで

      この「営業上のことで」の部分に私は違和感を覚える(意味がよくわからない)ので、柴犬さんの疑問は、多分、このあたりに起因していると思います。

      素朴に考えてみてください。
      実際に火災によって100の損失を被っています。その根拠が営業上の商品の損失であろうが設備の滅失であろうが、この場合、火災損失は100です。これは、他勘定振替などとは一切関係の無い話です。現実に100を火災で失っているのに、柴犬さんのおっしゃるように火災損失(特別損失)を60としてしまったら、では、残りの40はどこに行っちゃうのでしょう?販管費ですか?売上原価ですか?それとも資産?こんな感じで考えると何かつかめるのではないでしょうか。

      他勘定振替は、単純に売上原価における表示上だけの話です。
      本問の場合、本当は920仕入れて、そのうち100は商品売買以外に使った。普通に仕訳して転記して決算書作ると、P/Lにおいては、まるで820しか仕入れていないように見えてしまう。すると購買部の活動実績が分からなくなってしまう。そこで、本当は920仕入れてうち100は商品売買以外に使ったんですよ、と表示するように操作しましょうというのが他勘定振替です。つまり表示の問題です。この他勘定振替の処理が、特別損失の額に何か影響を及ぼすことはありません。

      余計なこと書くと余計に混乱するかな、とも思いつつ・・・何かにヒントになるかもしれないので、ちょっと例え話を書いてみます。
      似ている概念としては、固定資産の簿価の表示方法があります。取得原価920で100を償却済みだとします。で、直接法だとB/Sには820と表示されますよね。すると、920で取得したということが分からなくなってしまいます。これが間接法なら、920で取得して100は償却済みと分かります。他勘定振替の処理とは、このように直接法で表示されているものを間接法の表示に変換する作業のようなものです。財務諸表上の表示方法を変えているだけですので、これによって、何か会計処理が生じるわけではありません。

  4. 柴犬 より:

     
     他勘定振替の処理が特別損失に影響を及ぼすものではありません。
     →この頂いた言葉で疑問は晴れたのですが、
     
     似ている概念として固定資産の簿価の表示方法がある
     この部分は非常に分かりやすかったです。
     稚拙な文章にも関わらず、私の理解出来ていない細かい部分を 
     汲み取って下さり、感謝しています。
     私レベルですが、苦労?して理解した分、
     決して忘れないと思います。有難うございました。
     
     

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