日商簿記1級・業務的意思決定(基礎)確認テスト

業務的意思決定の基礎問題の確認テスト

埋没原価と機会原価の記事での記載のとおり、試験を見据えた業務的意思決定会計の確認テストを作ってみた。
業務的意思決定会計は、何を埋没原価とみるか、また総額法を採用するか差額法を採用するかなど、さまざまな解法が考えられる。講師が3人いれば3通りの解説が考えられるくらいだ。もちろん、どの解法を選択しても結局、最終的には同じ答えになる。しかし、そこに至るまでのプロセスが大きく異るのだ。

不親切な講義だと、その講師がたまたま得意な解法で説明してしまいがちだ。それが、受講生のイメージする解法と同じなら理解も促進されるけど、もし受講生が異なるイメージを持っていると、理解に苦しむことになる。

だから、本問は問題をあえて易しくした。そして、本問の目的は「解法は様々であり、どれでもいいけど、それぞれ長所と短所がある」ということを明らかにすることだ。すべての解法について、理解してほしい。確実に本試験に対応できる地力がつく。

本試験レベルの難易度の問題は、また別の記事として掲載しようと思う。乞うご期待。

問題

管理会計(岡本 清, 尾畑 裕, 挽 文子, 廣本 敏郎 )P160 例題7-2 一部改変

当工場では、精密機械の部品を製造しており、月間500個の生産能力をもっている。現在市場向けに月間400個の部品を生産しており、月間100個分の余剰生産能力がある。

当工場では、部品1個の加工時間はみな同じである。部品1個を作ると、1個当たり200円の変動製造間接費が発生する。直接労務費は月間5万円であり固定費である。また、労務費とは別に製品1個あたりの製造固定費が600円かかる。市場向けの部品の材料は、みな1つ400円で調達できる。市場向けの部品は,すべて1個当たり1,500円で販売できるものとする。

このとき,今まで1個800円で外部から購入してきた部品を,この工場の余剰生産能力を使って生産することを検討している。必要量は200個であるとする。この部品の材料も1個当たり400円で調達できる。今まで外部から購入してきた部品を自製に切り替えるべきかどうかを検討している。部品を自製に切り替えた場合、いくら有利か不利かを答えなさい。なお、不利であるなら金額に△を付すること。 

解答

答えは・・・(クリックで見えます)

△50,000円

解説

解説は・・・(クリックで見えます)

業務的意思決定会計問題の解き方

Step.1 題意を正確に読み取る

本問の第1の関門は「この問題文は何を言っているのか」という題意を正確に読み取ることだ。問題文にもあるとおり、本問は、一橋大学の著名学者の共著である「管理会計」という書籍からの抜粋だ(一部改変してある)。この書籍、他の部分もそうだが、だいぶ読みにくい箇所がある。

正直な話、私が、最初に本問を解こうとしたときの印象は「はぁ?」だ。何を言っているのかよく分からなかった。2,3度読んで、どうも「部品」には、販売用の部品と自分たちで消費するための部品があり、どちらも「部品」と呼んでいるけど全然違うもので、だけど、同じ工場で同じコストで作れるらしい、ということに気がついた。ややこしいわい!という感じだ。

このように、業務的意思決定の問題は、そもそも何を言っているのか問題文が読み取りにくい、という特徴がある。その読取りの時点でミスをしてしまうと、もう、それ以降は全く無駄な作業になってしまう。だから、題意を正確に読み取るということに、他の論点以上に注意深くなるべきだ。本問の題意は、もうお分かりと思うが、一応説明しておく。

  • 工場では部品を月間500個作れる。現在400個作っていて、あと100個の生産余力がある。
  • 今作っている部品は@400円の材料と@200円変動加工費が必要で、@1,500円で外部に売れる。
  • 上記部品とは別に自分たちで消費するための別の部品を@800で外部から200個買っている。
  • この外部から買っている部品は、実は自分たちの工場でも作れる。そのときのコストは、@400円の材料と@200円変動加工費が必要であり、販売用の部品と同じである。
  • もし、@800で外部から買っている200個の部品をすべて自製したら、それはいくら得かまたは損か?

Step.2 解法の方針を決める

問題文に解法の指定(差額法で解けとか、機会原価はいくらか?とか)がなければ、どんな方法で解いても構わない。どう解いても正確に解けば、必ず同じ答えになる。となると、自分の得意な方法で解けばいい。

ここでは、3通りの解法を紹介しよう。すべてマスターしてほしい。そして、シチュエーションによって使い分けられるようになってほしい。

Step.3 総額法と差額法

総額法とは、各案(本問の場合、従来どおり外部から部品を購入する案と、自製する案の2つ)ごとに発生する原価と収益をすべて書き出して、最終的な差額利益を比較する方法だ。

総額法の長所は分かりやすいことだ。とにかく何にいくら掛かって、いくらもらえるのかを全て書き出せばいいので、理解しやすい。ただし、検討項目が多いと、考慮から抜けてしまう項目や、誤って重複考慮してしまう項目が出てきたりして、案外ミスしやすい。だから、シンプルな問題のときは有効だけど、検討項目が多くなると少し使いにくい解法だ。

本問は、検討項目が少ない、条件設定もシンプルなので総額法は向いていると思う。

差額法は、どちらかの案に軸足をおいて、相手方の案との差分だけに注目する方法だ。代替案との差がない項目は埋没項目として無視し、代替案と発生額の異なる原価や収益を集計していく。なお、差額法を採用するときのポイントは機会原価だ。もし、相手方の代替案を選んでいたら得られたのになぁ、という相手方の代替案の利益を、軸足を置いている案の原価としてみなすのだ。言葉にすると難しいけれど、問題をやってみればそれほど難しくないので、問題を通して身につけていこう。

Step.4 埋没項目を検討する

差額法を採用するなら、当然に埋没項目は無視する。また、総額法は、各案ごとに発生するすべての原価と収益を書き出す、といったけれど、明らかに埋没している項目は省いて検討することが多い。

本問の場合、埋没項目は直接労務費だ。「直接労務費は月間5万円であり固定費」と書かれている。どちらの案を採用してもとにかく一律5万円掛かる。ということは、代替案の選択において影響しないので考慮する必要がない。

同様に、製品1個あたりの固定費600円も埋没項目だ。ここでは、製品1個あたりで固定費が示されているが、実際には月間で固定費が決まっていて、それを基準操業度で割った結果、製品1個あたりの固定費が算定されているわけだ。どちらの案を選択しても、一律決まった製造固定費が掛かるのだから、考慮する必要がない。

なお、余談だが、もし、本問に「製造固定費は、実際的生産能力を基準操業度として製品に配賦している」という条件がついていて、「埋没原価はいくらか?」という問があったら、どうなるだろうか。ちょっと考えてみてほしい。答えは最後に掲載する。

総額法による解法

たぶん、この解法が一番分かりやすいと思う。埋没原価(固定費)を除いて、それぞれの案ごとにいくら収益があって、いくら原価が掛かるのかをすべて集計すればいい。

Step.1 いままでどおり部品を外部から購入する場合(購入案)の原価と収益

市場販売目的の部品 
    単価 個数 金額
収益  売上 1,500 400 600,000円
原価 材料(販) 400 400 160,000円
  加工 200 400 80,000円
外部から購入する部品
    単価 個数 金額
原価 外部購入 800 200 160,000円
差額利益

600,000円−160,000円−80,000円−160,000円=200,000円

Step.2 いままで外部から購入していた部品を自製する場合(自製案)の原価と収益

生産能力が500個のところ自製部品を200個作ると、市場販売目的部品は300個しか作れない。この点に注意が必要だ。

市場販売目的の部品 
    単価 個数 金額
収益  売上 1,500 300 450,000円
原価 材料(販) 400 300 120,000円
  加工 200 300 60,000円
外部から購入する部品
    単価 個数 金額
原価 材料(自) 400 200 80,000円
  加工 200 200 40,000円
差額利益

450,000円−120,000円−60,000円−80,000円−40,000円=150,000円

結論

購入案の差額利益は200,000円、自製案の差額利益は150,000円なので、自製に切り替えると50,000円損する。 

差額法による解法 その1

この差額法は、結構分かりにくい。個人的には、この方法は採用しないと思う。じゃあなぜ、掲載したかと言えば、本家本元の「管理会計(岡本 清, 尾畑 裕, 挽 文子, 廣本 敏郎 )」の解説がこれだからだ。まあ、あまりお勧めはしない。

購入案を基点として自製案の差額原価収益を分析する

追加で支出しなければいけない項目と機会原価
    単価 個数 金額
差額原価 材料(自) 400 200 80,000円
  加工 200 100 20,000円
機会原価  売上 1500 100 150,000円

合計:250,000円

この考え方は、こうだ。まず自社用部品を外部から購入している状態を基準とする。この状態から、もしも、自社用部品を自製するとしたら、どれだけ余計な支出があるか?と考える。

自製するのだから、それ用の材料を買わないといけない。それが1行目の@400円×200個=80,000円だ。さらに加工も必要だ。それが@200円×100個=20,000円だ。ここが分かりにくい。だって、200個加工するのだから、@200円×200個=40,000円としたいところだ。
しかし、生産余力は100個しかないので、現実的には@200円×100個=20,000円しか追加支出額はない。結局合計10万円、余計な支出があると考えられる。
さらに、今まで外部に部品を400個販売していたのに、300個しか販売できなくなる。つまり、100個分の売上が入って来ない。この額が15万円だ。よって、自製すると、合計25万円分のキャッシュ減少要因があることになる。

節約できる項目(支出をおさえられる項目)
    単価 個数 金額
差額収益 外部購入部品 800 200 160,000円
  材料(販) 400 100 40,000円

合計:200,000円

一方で、節約できる部分もある。もっとも大きいのが、今まで外部から買っていた部品(@800円)を買わなくて済むことだ。その額は200個分で16万円。さらに外部に売っていた部品の数が100個減るため、その分の材料費も節約できる。その額@400×100個=4万円。よって、合計20万円分のキャッシュ増加要因があることになる。

差額利益

200,000円−250,000円=△50,000円

差額法による解法 その2

生産余力に注目して解く

もし自製する部品が100個までなら

単純に考えて、外部からの購入部品は@800円で、自製すれば@600円(=材料費@400円+加工費@200円)ですむのだから、自製したほうが@200円得する。だから生産余力の100個までは@200×100個=20,000円の得。

もし自製する部品が101個以上なら

しかし、自製部品が100個を超えると、つまり101個目からは、もう生産余力が無いので外部販売品の生産をやめる必要が出てくる。外部販売品は、原価@600円(=材料費@400円+加工費@200円)のものを@1,500円で販売しているので、@900円儲かっている。これを失うわけだ。つまり、機会原価だ。

いくら自製したほうが@200円得するといっても、機会原価が@900円あるんじゃ意味ないよね。つまり自製部品が101個目からは@700円損することになる。これを100個作るのだから、@700×100個=70,000円の損。

結論

自製部品が100個までは20,000円の得だけど、101個から200個までは70,000円の損なので、トータルすると50,000円の損

講師のひとりごと

ひとりごと・・・(クリックで見えます)

本問は、以下の書籍の設例をベースに作問した。一橋大学の原価計算、管理会計の大御所の教授さま4名が書かれた名著だ。内緒だが(って全然内緒になっていないか)、この書籍の設例と、とても良く似た問題が、過去に何度か本試験で出題されている。だから私達講師にとっては、まあ神の本のようなものだ。でも、ちょっと読みにくい、というか文章が硬い。

興味ある方は、どうぞ。
ちなみに、最新版でもいいけど、1つ前の版でも全然問題ない。

 

それから、文中の問題の答え。

「製造固定費は、実際的生産能力を基準操業度として製品に配賦している」ということから、月間の固定費を計算する問題だ。ここでのポイントは、実際的生産能力とは何か、ということだ。これは、問題文中の「月間500個の生産能力」のことだ。だから、月間の製造固定費は、@600円×500=300,000円ということになる。

よって、「埋没原価はいくらか?」という問があったら、それは直接労務費5万円+その他製造固定費30万円=35万円となる。


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日商簿記1級・業務的意思決定(基礎)確認テスト” に対して1件のコメントがあります。

  1. ファイティン より:

    先生、基礎編の問題でしたが、難しかったです。
    総額法では、解説と同じように解けたのですが、
    差額法では解けませんでした・・
    差額法だと外部用部品と自社用部品が混同します。

    確認なのですが、
    差額法その1
    追加で支出しなければいけない項目と機会原価
    差額原価 材料(自) 400 200 80,000円→ この数量200は、自社用200が増えた分
          加工 200 100 20,000円→ この数量100は、加工が400から500へ増えた差額の100
    以上で合ってますでしょうか?

    差額法その2
    この解き方習得したいです。生産余力がある場合と考えていいでしょうか?

    製造間接費→ 実際的生産能力(フル操業)を基準操業度として配賦→月間の製造固定費となる→ 解けました。

    なお、講義で操業度は4つあると習ったのを思い出しました。
    ・実際的生産能力(フル生産)
    ・期待(予算)実際操業度
    ・平均(正常)操業度
    ・理論的生産操業度
    フル生産なのかどうかがポイントでしたよね。

    業務的意思決定、問われ方、解き方の流れをもう少し確認します。

    1. pro-boki より:

      そうですね。分かりにくいですよね。
      差額法その1は、私も解説を初めて見た時、いまひとつ意味が分かりませんでした。

      >差額法その1
      >追加で支出しなければいけない項目と機会原価
      >差額原価 材料(自) 400 200 80,000円→ この数量200は、自社用200が増えた分
      >      加工 200 100 20,000円→ この数量100は、加工が400から500へ増えた差額の100
      >以上で合ってますでしょうか?

      はい、そのとおりです。合ってます。
      これ、考えにくいですよね。ちょっと解説も不親切でしたね。
      解説を大幅に書き足しましたのでご覧になってみてください。

      >差額法その2
      >この解き方習得したいです。生産余力がある場合と考えていいでしょうか?

      はい、そうです。
      この生産余力内での自製と生産余力を超えての自製の2パターンを問うのは、よくあるパターンです。
      日商の過去問でも出題実績があります。比較的分かりやすいと思うのでぜひ習得してください。

      >なお、講義で操業度は4つあると習ったのを思い出しました。
      >フル生産なのかどうかがポイントでしたよね。

      はい、書かれているとおりです。よく覚えてらっしゃいました。
      工簿では、期待実際操業度を使うケースが多く、原計では実際的生産能力を使うケースが多いです。
      原計は、未来に対する推計なので「もしもフル操業できたら・・・」という前提でシミュレーションすることが多いためです。一方、工簿は過去の実績に基づく集計がメインテーマですので、あまり実際的生産能力を使うことはなく、現実的に期待できる操業度をベースにすることが多いのです。

  2. ファイティン より:

    先生、解説を読み直しました。ありがとうございます。
    応用問題で分からなくなったら、この基礎問題に戻って考え直します。

    明日から工簿の本質講義と設備投資の問題を解いていきます。
    ブログの問題は、遅れながらも全部解いていきますので
    またコメントします。なんとなく解けているけど、
    本質理解できていない論点、たぶん多々あります・・・基礎からしっかりやり直したいです。。

    1. pro-boki より:

      はい。一緒にがんばりましょう。
      基礎からしっかりやると、案外短時間でできるようになったりするんですよ。応用問題でうんうんうなっているより、よっぽど近道なんです。本当に。

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