1級商会・為替予約(その他)

その他の為替予約

前回の記事からの続きだ。
為替予約が分かりにくい理由。それは会計処理に影響を与える要素が多く、理論的な処理と慣例的な処理が混在しているからだ。会計処理に影響を与える要素は次の3つ、そして振当処理は特例として慣例的な処理が容認されている。

  • 会計処理方法:独立処理・振当処理
  • 為替予約のタイミング:取引以前・取引以降
  • 取引形態:営業取引・資金取引

独立処理を選択するなら、為替予約のタイミングと取引形態は考慮する必要がない。ヘッジ対象とヘッジ手段を別々に処理すればいいだけだ。また「振当処理・取引以降に為替予約・営業取引」の会計処理は、前回記事で解説した。今回は、その他のパターンを解説する。

会計処理 為替予約 取引形態 記事
独立処理  前回記事
振当処理    取引以降 営業取引
資金取引 今回記事1
取引以前 営業取引 今回記事2
資金取引

1.振当処理・取引以降に為替予約・資金取引

これは、前回の記事で書いた「振当処理・取引以降に為替予約・営業取引」とほとんど同じだ。取引内容が営業取引か資金取引か、といった点が異なるだけで、仕訳自体は同じと考えていい。つまり、営業取引なら、売掛金や買掛金といった勘定科目を使うが、資金取引だと貸付金や借入金という勘定科目を使うというだけの話だ。

ただし、1点注意がある。それは、資金取引の場合、利息の取扱をどうするかという点だ。つまり、借入金だけに為替予約を付したのか、借入金とそれに付随する利息までも為替予約を付してヘッジしたのか、ここをしっかり意識する必要があるのだ。簿記1級の本試験では、どちらも出題される。問題文をしっかり読もう。

借入金にのみ付した場合

(問題文)借入金に対して為替予約を付した。
(会計処理)利息は、カレントレートで処理。つまり決算時は決算時のレートで、支払時は支払時のレートで処理。

借入金と利息に付した場合

(問題文)借入金の元利に対して為替予約を付した。
(会計処理)利息は、予約した先物為替レートで処理。

2.振当処理・取引以前に為替予約

実は、ここ結構、難所だと思う。営業取引と資金取引でまるで異なる仕訳をするからだ。

  • 営業取引
    1/1/1、1ドル100円のときに1万ドルで商品を掛販売すると同時にこの売掛金に為替予約(先物為替レートは1ドル98円)を付した。売掛金は半年後に決済される予定である。決算日は1/3/Eである。

(売掛金)98万円(売上)98万円

  • 資金取引
    1/1/1、1ドル100円のときに1万ドルを貸し付けると同時にこの貸付金に為替予約(先物為替レートは1ドル98円)を付した。貸付金は半年後に返済される予定である。決算日は1/3/Eである。

(貸付金)98万円(現金)100万円
(前払費用)2万円

正直、受験生時代、ここでつまずいた。ほとんど同じ取引なのに、なぜ異なる仕訳をするのか理解できなかったのだ。

今まで学習してきた振当処理の考え方から言えば、資金取引の仕訳は理解しやすいはずだ。だって、1万ドル貸し付けるためには、物理的に100万円を銀行でドルに換金して送金してあげないといけない。現実に100万円というキャッシュが動いているのだから、それを記帳しないわけにはいかない。そして、1ドル98円で為替予約を付したのだから債権は98万円で確定している。これも記帳しないわけにはいかない。差額は前払費用で処理し、決算日に当期に帰属する分だけ(2万円の半分の1万円)損益に振替えればいいわけだ。

これに対して営業取引は少し違う。物理的に100万円というキャッシュが動いているわけではない。売掛金は、将来お金払ってねという約束でありバーチャルな債権にすぎない。だから1万ドルの売上は、その時点では確かに100万円の価値があるかもしれないけど、1ドル98円で為替予約を付した時点で、債権が98万円になることを了承し、そのうえで商売したわけだから、もう売掛金は98万円の価値しかない。イメージとしては定価は100万円だけど2万円値下げして販売したようなものだ。
だから、(売掛金)98万円(売上)98万円 というシンプルな仕訳になるわけだ。

3.振当処理・取引以前に為替予約の特殊なケース

最後にちょっと特殊なケースを見ていこう。振当処理では、為替予約を付すタイミングが、取引と同時でも、取引以前でも、基本的に同じ仕訳をする。だけど、あまりにも為替予約を早く付してしまうと、取引前に決算を迎えてしまうことがある。つまり為替予約だけして、実際の取引はしていない状態だ。このとき、決算では何もしなくていいのか?という問題が生じる。

どう思う?何もしなくてもいいのだろうか。具体的な問題で考えてみよう。

次の各取引について仕訳を示しなさい。なお、会計処理は、振当処理によるものとし繰延ヘッジ会計を適用すること。会計期間は1年、決算日は3/Eである。決済額は現金である。

  • 2/5/1に商品100ドルを輸入し2/5/Eに買掛金を決済する予定である。2/2/1においてこの決済における為替差損のヘッジとして為替予約を行った。
  • 2/3/E、決算日である。
  • 2/4/1、洗替法を採用しているため評価差額を振り戻す。
  • 2/5/1、予定通り商品100ドルを掛にて輸入した。
  • 2/5/E、決済が行われた。

直物為替相場と先物為替相場は以下のとおり。

  直物為替相場 先物為替相場
予約日 2/2/1 98円/ドル ① 95円/ドル
決算日 2/3/E 100円/ドル ② 97円/ドル
取引日 2/5/1 108円/ドル 107円/ドル
決済日 2/5/E 110円/ドル 110円/ドル

前回の記事でも書いたけど、そもそも為替予約というのはデリバティブであり、会計処理は売買目的有価証券と同じだ。だから決算時に何をしない、というわけにはいかない。じゃあ損益を計上しちゃえばいいかというと、これも少し違う。というのも、この為替予約は、将来行われる取引のためのヘッジであって、そのヘッジ対象と損益のタイミングが一致していないといけない

ということは・・・覚えているかな?デリバティブのヘッジ会計の記事で解説したよね。あれと同じだ。決算時に時価評価して評価差額を出すけれど、それを損益として計上するのではなくて、翌期に繰り越しちゃえばいいわけだ。ヘッジ対象の取引が翌期だからね。

つまり、仕訳にすると次のようになる。

  • 予約日:デリバティブは”約束”なので、約束しただけでは何を仕訳しない。
  • 決算日:(為替予約)200(繰延ヘッジ損益)200
  • 翌期首:(繰延ヘッジ損益)200(為替予約)200
  • 取引日:(仕入)9,500(買掛金)9,500
  • 決済日:(買掛金)9,500(現金)9,500

決算日の200円というのは、①と②の差である@2円/ドル×100ドルだ。デリバティブだから時価評価しているわけだ。ポイントは、勘定科目が繰延ヘッジ損益であること。これ、科目名に”損益”とついているけど損益勘定じゃないからね。純資産勘だよ。つまり、評価差額は認識するけど当期の損益にするのではなくて、純資産に直入しちゃうということだ。そして、洗替法なので翌期首には再振替仕訳を行う。

ここまでくれば、あとは、「2.振当処理・取引以前に為替予約」と全く同じだ。予約レートが①の95円/ドルで、100ドルの営業取引をしたというだけのことだ。

少し応用

実は、その他有価証券評価差額金もそうだけど、繰延ヘッジ損益も純資産に直入される科目だ。この場合、税効果会計の対象になるので、もし税効果会計(税率40%)が適用されているのなら、決算日の仕訳は次のようになる。ここは問題文に従うこと。

(為替予約) 200 (繰延ヘッジ損益) 120
    (繰延税金負債) 80

4.最後に

私が受験生のとき、この為替予約が嫌いでしょうがなかった。腹落ちしていないから全パターンを暗記で乗り切った。だって、意味分からないんだもん。

特に理解不能だったのが、本記事の「2.振当処理・取引以前に為替予約」だ。なぜ資金取引と営業取引でこれほど仕訳が異なるのか。ずっとモヤモヤしていた。

理解できないのには布石があった。当時使用していたテキストは「2.振当処理・取引以前に為替予約」の営業取引パターンを一番先頭で解説していた。それで、この方法が理論的に正しい仕訳なんだと思い、それをベースに他の仕訳を考えるようになったのだ。それじゃあ分かるわけないよね。しかもそのテキストは、デリバティブを学ぶ前に為替予約を学ぶ章立てになっている。だから余計に理解しにくかったのだ。

今、こうして理解できるようになってから思うのは、学習する論点の順番も大事だということ。このブログの記事は、最初にデリバティブ、続いてヘッジ会計、そして、為替予約の独立処理、為替予約の振当処理という順に解説している。これがもっとも理解しやすい順だと思うからだ。そして「2.振当処理・取引以前に為替予約」の営業取引パターンがイレギュラーなんだよ、という順で話を進めた。こう考えれば全体を理解できると思ったからだ。

いま、手元に最新の1級商会のテキストが4種類ある。T社3種類、N社1種類だ。全て見たけど、どれも厳しい。基本的に結論しか載っていない。これじゃあ暗記するしかない。あと、私が当時使っていたテキストは、現在、全面改訂されているけど、見た目が変わっただけで中身は相変わらずのようだ。これじゃあ理解できないと思う。

商会のテキストも大改訂の余地あるよなぁと思う次第。どっかの出版社に売り込もうかな・・・


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1級商会・為替予約(その他)” に対して1件のコメントがあります。

  1. ファイティン より:

    富久田先生、こんばんは。
    少し応用のところ・・仕訳
    為替予約 200/繰延ヘッジ損益 120
    /繰延税金負債 80 ですね?
    資金取引の為替予約の解説を読んで、EXERCISEⅡと過去問137回、138回を
    解きました。
    137回では、日数計算両端入れとするパターンありで割り切れず・・
    迷いましたが割り切れずが正解でした。
    138回は、1-(2)予定取引での為替予約のヘッジ会計ですが、問題文に
    繰延ヘッジ損益とすると指示はないですが、
    来期納入予定なので、繰延ヘッジ損益とするんですよね?
    為替予約の取引についてだいぶ理解できました。
    この2問もなんとなく解いていましたが、以前と違って意味がよくわかります。
    ありがとうございます。
    次の純資産の解説では、特に自己株式についてしっかりポイントをおさえていきます。

    1. pro-boki より:

      >137回では、日数計算両端入れとするパターンありで割り切れず・・

      私もやってみました。確かに割り切れないとちょっと不安になりますよね。
      多分、本番だったら、両端でも片端でもどっちでも割り切れないので、まあ、大丈夫かな、という感じでしょうね。

      >138回は、1-(2)予定取引での為替予約のヘッジ会計ですが、問題文に繰延ヘッジ損益とすると指示はないですが、来期納入予定なので、繰延ヘッジ損益とするんですよね?

      もし、単独で為替予約をしたのであれば、デリバティブを時価評価し、その評価損益を計上すればいいので、次の仕訳になりますね。

  2. ぐっちー より:

    プロ簿記ブログも隙間時間で活用させて頂いております。

    「少し応用」の税効果適用後の仕訳は、
    借方 (為替予約) 200 貸方 (繰延ヘッジ損益) 120
    (繰延税金負債) 80
    でしょうか?

    1. pro-boki より:

      はい、おっしゃるとおりです。
      ご指摘ありがとうございました。修正しました。

      なんか、半年以上前にファイティンさんからもご指摘を受けていいたのですね…
      放置してしまい申し訳なかったです。

      なんか、校正してもらっているみたいで申し訳ないです。
      ほんと、ありがとうございます。

  3. 大澤 徹 より:

    営業取引と資金取引でまるで異なる仕訳 について、様々HP等で見たのですが、
    分かりやすい情報提供ありがとうございます。以下は疑問でございます。
    原則処理は、営業でも資金取引とは関係無く、
     売掛98   売上100
     前払費用2
     ということで良かったでしょうか?
     簡便処理として
     売掛98  売上98  又は
     売掛98  売上100
     為替損2
     ということで良かったでしょうか? 
     よろしくお願いいたします。

    1. pro-boki より:

      >原則処理は、営業でも資金取引とは関係無く、

      原則処理とは、「独立処理」のことを指していますか?
      そうだとすると、デリバティブと金銭債権債務を独立して処理しますので、全く異なる仕訳になります。もし、独立処理で処理をするなら、決算日における直物と先物の為替レートが判明しないと解けません。「独立処理」については、こちらをご参照ください。

      >簡便処理として

      簡便処理とは「振当処理」のことを指していますか?
      もし、そうだとすると、本記事のとおりです。つまり、営業取引で取引と同時(もしくは以前)に為替予約をしたなら、(売掛金)98万円(売上)98万円 のように仕訳を切ります。為替差損益は出ません。
      一方、資金取引で振当処理なら、為替予約をするタイミングにもよりますが、為替差損益を計上します。

      もし、ご質問の主旨と回答があっていないようでしたら、ご遠慮無くご指摘ください。

  4. 川崎 佳代 より:

    お世話になります。1級独学で勉強していて良いサイトに巡り合い感謝しています。すみません。138回の商会を解いていてこんがらがっていたので質問です。なぜ、繰延ヘッジをするのかわからなくなりました。為替差損益400と長期前払費用800を予約時にし、決算時に前払金の3ヶ月分100を為替差損益に振替ているのに、なぜ2400を繰延ヘッジする必要があるのですか?また、この2400は24ヶ月分と思うのですが、繰延ヘッジは残り21ヶ月分ではないのですか?為替差損益や前払は繰延ヘッジと全く関係なくそれぞれ別々に処理する必要があるのか等わからなくなってきました。。。ご教授頂ければと思いますので宜しくお願いいたします。

    1. pro-boki より:

      >為替差損益400と長期前払費用800を予約時にし、決算時に前払金の3ヶ月分100を為替差損益に振替ているのに、なぜ2400を繰延ヘッジする必要があるのですか?

      138回の商簿の為替予約というこで、【Ⅱ】1.のご質問ということでよろしいですか?(過去問の質問など、記事に対するコメントではない場合、質問箇所を明示してください)

      「為替差損益400と長期前払費用800を…」と書かれていますが、これは(1)のことですか? また「2400を繰延ヘッジする必要があるのですか?」というのは(2)のことですか?

      (1)は、単なる振当処理です。すでにある外貨建ての借入金に対して、為替予約をしているのです。直々差額を当期の損益にして、直先差額のうち当期分を為替差損益にする典型的な問題です。
      一方(2)は全然状況が異なります。外貨での支払いをするのは来期と書かれています。つまり、まだ取引をしていないのです。将来の取引に備えて、為替予約だけを先行して行っているのです。予定取引といいます。この場合、為替予約はしたものの、取引自体は翌期ですから、当期に為替差損益を計上してはまずいのです。(取引していないのに、損益だけ計上するのはマズイ)。なので、繰延ヘッジ損益で翌期に繰り越しているのです。

      (1)と(2)は全く別の問題です。この点に誤解があるのではないでしょうか。

      最後に1点お願いがあります。
      独学で頑張られている方のご質問にはなるべくお答えしようとは思っています。一方、ご質問される方にもお願いがあります。質問マナーを守って頂きたいのです。
      質問をされるなら、まずは質問箇所を明示する(過去問なら第何回の商簿の第何問目とか)、何を聞きたいのかを明示する(解答?解き方?意味?何を聞きたいの?)、どこまでをどう理解しているのかを明示する(自分はこう考えてこのように処理したと書いてもらえるとありがたい)、こういった点にご留意頂きたいのです。

      質問にはなるべく答えようと思っているのですが、いったいどこの質問なのかを探して、質問の意図は何なのかを探り、また質問者は何を勘違いしているのかを探ってと…何というか、質問自体よりもその手前の段階で多くの時間を取られてしまい、面倒だから放置しようか、とも思ってしまいます。(いや、それでも1回めは答えますけどね。2回めは回答を遠慮させて頂きます)

      お手数ですが質問マナーにご留意頂けると幸いです。

    2. 川崎 佳代 より:

      ご回答ありがとうございます。私の勘違いで、(1)と(2)が混合していたようで大変申し訳ありませんでした。また、気付いていなかったのですが、質問の仕方がマナー違反となっていたようで大変申し訳ありませんでした。以降注意して質問するようにしますので、また宜しくお願いいたします。今後とも宜しくお願いいたします。

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