1級商会・新株予約権を完全マスター(基礎)

新株予約権の基礎

はじめに

テキストで新株予約権の章を見ると分かりますが、この論点、会計処理はまるで難しくありません。新株予約権を発行するとお金が入ってくるので、現金預金/新株予約権 という仕訳を切り、権利行使を受けたら、新株予約権と払込額を資本金・資本準備金に振り替えればいい、ただそれだけの話しです。

では、何が難しいのか。新株予約権は、他の論点と絡むことが多いため混乱しやすいのです。たとえば、従業員に対して新株予約権を報酬の一種として与えてみたり(ストック・オプション)、社債と組み合わせてみたり(ワラント債とか転換社債型新株予約権付社債と言います)するケースです。

また、新株発行と同時に自己株式を処分することもあります。このとき、自己株式の簿価と処分価額との差をどう処理するかといった点も出題されがちです。そのほか、新株予約権が行使されたときの株主資本等変動計算書の記載の方法なども過去には出題されています。

このように、新株予約権が単独で出題されることはあまりなく、何かしら他の論点と絡めて出題されます。ですから難しく感じるのだと思います。しかし、論点を切り分けて考えれば、決して難しくはありません。既に学習済みの論点の組み合わせにすぎません。

また、本試験で出題される問題は総じて難易度も低く、短時間で確実に得点出来ます。食わず嫌いをなくし、得点源にしていただきたいと思います。

今回から3回に渡って紹介していきます。1回目(今回)は、新株予約権の基礎、2回目はストック・オプション、3回目は新株予約権付社債です。

そもそも新株予約権とは何か

取得側から見た新株予約権

会計処理は簡単とは言え、そもそも新株予約権が何か、という具体的なイメージを持てない人も少なくないかもしれません。試験では、ほとんどの場合、発行側の処理が求められますが、多くの方は、取得側の方がイメージしやすいと思います。過去にストックオプションをもらったことのある人もいるかもしれません。(ちなみに私もあります。)

新株予約権は、デリバティブの一種です。覚えていますか、デリバティブ。金融派生商品ともいい、以前、こちらの記事で、先物取引や金利スワップ、オプション取引を紹介しました。

新株予約権は、このうちのオプション取引(コール・オプション)と同じです。つまり、ある株式をある一定の金額で買うことの出来る権利です。権利ですから放棄しても構いません。例えば、行使価格が1株100円で1万株買える権利があるとします。現時点での株価が150円なら、この権利を行使した瞬間に100万円払えば、150万円分の株が手に入ります。逆に現時点での株価が50円なら放っておけばいいのです。別に損はありません。最初に新株予約権を入手するのに掛かったコスト以上は損しません。この意味で、掛け捨ての保険のようなものと思えばいいかもしれません。

ですから、新株予約権の取得側は、今まで学習してきたデリバティブ取引と同じような会計処理をします。ただし、デリバティブは、決算時に時価評価し損益計上することが原則でした(ヘッジ会計のときを除いて)。これに対して、新株予約権は有価証券ですから、その所有目的に応じて会計処理が異なります。つまり投機目的に所有することもあるわけで、この場合は売買目的有価証券、それ以外でしたらその他有価証券として計上し、その所有目的にあった会計処理を行います。

なお、1級本試験の過去10年分の出題実績を調べましたが、取得側の問題は一度も出題されていませんでした。したがって、無理に覚える必要はありません。しかし、新株予約権がどのようなものかを知ることは、論点の本質を理解する上で有用ですのでイメージだけはしっかり押さえてください。

発行側から見た新株予約権

取得側から見ると単なる有価証券である新株予約権も、発行側から見ると少し違った景色になります。というのも、新株予約権は、将来的に支払い義務が生じるとか、商品・サービスを引き渡すといった、何かしらの義務を負うものではありません。したがって、負債ではないのです。

では、株主資本かと言えば、取得者が権利行使する前は、株式を発行していませんから、株主資本でもありません。そこで、純資産だけど株主資本ではない、というちょっと中途半端な位置づけにあるのです。注意すべき点はこれくらいです。

新株予約権が権利行使されたとき

取得側

単に、その他有価証券(新株予約権)がその他有価証券(株式)に替わるだけの話です。なお、新株予約権を投機目的で所有している場合、売買目的有価証券で計上されていることもあります。

発行側

これも、特に難しい点はありません。通常の新株発行と何ら違いはありません。現金と新株予約権を払い込んでもらい、新株を発行するだけです。

設問

新株予約権の帳簿価額 3,000千円のうち半分が権利行使されたため、新株を発行し権利行使に伴う払込金 8,000千円を受領した。会社法の定める最低額を資本金とすることとし、未行使の新株予約権については本日失効するため、適切な処理を行う。

(新株予約権) 1,500 (資本金) 4,750
(現金預金) 8,000 (資本準備金) 4,750
(新株予約権) 1,500 (新株予約権戻入益) 1,500
  • 新株予約権の払込金額(1,500千円)と権利行使による払込金額(8,000千円)の合計額が株主資本となります。
  • 会社法では、原則として払込金額の総額を資本金としますが、容認規定として払込金額の半分までを資本準備金とすることを認めています。
  • 新株予約権の権利行使期限が到来して、失効したときは、新株予約権戻入益に振り替えられます。これは、損益計算書上、特別利益に表示されます。

新株予約権が権利行使されたとき(自己株式が絡むとき)

これも、新株予約権の論点というよりは、自己株式処分の論点と言えるでしょう。こちらの記事にも記載があります。さきの問題を少し変更してみましょう。

設問1

新株予約権のうち帳簿価額4,000千円のうち、3,000千円について権利行使されたため、新株350株の発行と所有する150株の自己株式(簿価3,100千円)すべての処分を行い、権利行使に伴う払込金 8,000千円を受領した。会社法の定める最低額を資本金とすることとし、未行使の新株予約権については本日失効するため、適切な処理を行う。

(新株予約権) 3,000 (資本金) 3,850
(現金預金) 8,000 (資本準備金) 3,850
    (自己株式) 3,100
    (その他資本剰余金) 200
(新株予約権) 1,000 (新株予約権戻入益) 1,000

先程の設例とほとんど同じ問題です。ポイントは、自己株式の処分差益である200千円*は、その他資本剰余金で処理されるという点です。これは、新株予約権というより自己株式の処分の論点です。忘れてしまっている人は、こちらの記事の「自己株式の処分と新株発行(1級)」を参照してください。

*(3,000千円+8,000千円)×150株÷(350株+150株)−3,100千円=200千円

設問2

新株予約権のうち帳簿価額4,000千円のうち、3,000千円について権利行使されたため、新株350株の発行と所有する150株の自己株式(簿価4,100千円)すべての処分を行い、権利行使に伴う払込金 8,000千円を受領した。会社法の定める最低額を資本金とすることとし、未行使の新株予約権については本日失効するため、適切な処理を行う。

(新株予約権) 3,000 (資本金) 3,450
(現金預金) 8,000 (資本準備金) 3,450
    (自己株式) 4,100
(新株予約権) 1,000 (新株予約権戻入益) 1,000

ポイントは、自己株式の処分差損である800千円*は、その他資本剰余金では処理せず、資本金および資本準備金から減額するという点です。これも自己株式の処分のところで勉強していますよね。

*(3,000千円+8,000千円)×150株÷(350株+150株)−4,100千円=△800千円


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“1級商会・新株予約権を完全マスター(基礎)” に対して5件のコメントがあります。

  1. ラーメンが好きです より:

    初めまして。いつもお世話になっております。
    初歩的なところかもしれないですがご質問があります。
    会社側が新株予約権を発行して権利が行使されたときに発行額を新株予約権の権利を行使された分と約束していた値段で売った分とを合わせて発行額にするのは何故でしょうか?
    実際に発行したのは元々決められていた値段で取引した株式の額分ではないのでしょうか。
    お手数がご回答お願いします。

    1. pro-boki より:

      ちょっと質問が見えないのですが、具体的な数値で確認させてもらっても良いですか?

      例えば、新株予約権(@1,000円)を1個行使すると、1株5,000円で10株買えるとします。1株の時価が8,000円のときに、新株予約権を1個行使され、全額、資本金に計上したとします。すると次のような仕訳になります。

      新株予約権 1,000 / 資本金 51,000
      現金預金 50,000

      ラーメンが好きですさんは、これがどのようになるべきだと、お考えですか?時価8,000円を使うべき、ということですか?

    2. ラーメンが好きです より:

      お忙しい中ご返信ありがとうございます!
      分かりにくくて申し訳ないです!
      提示してくださった数値例で、発行者側が、新株予約権の権利を行使されると新株予約権で定めていた5000円✖︎10株の50000円が発行額にならずに新株予約権を含めた51000円になるのかということです。
      ご回答お願いします。

    3. pro-boki より:

      新株予約権を購入した人の立場で考えてください。
      この企業に対して、出したお金はいくらですか?
      最初(新株予約権買ったとき)に1,000円、そのあと(行使したとき)に50,000円で、51,000円ですよね。
      51,000円払った代わりに得たものはなんですか?株主としての地位ですよね。

      取得者からすれば、51,000円払って株を買って、株主になった。
      企業からすれば、51,000円お金もらって株主になってもらって、株券発行した。

      いくらを資本金などの払込額にするべきかといえば、51,000円だよねって話です。

    4. ラーメンが好きです より:

      ご返信ありがとうございます!
      株主になる方の立場も踏まえた上で考えたら良かったのですね。
      とても分かりやすく納得のできるご説明ありがとうございました。

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