リコース義務とか金銭債権譲渡とかが分かるようになる話

日商簿記1級商業簿記の難問

第141回日商簿記1級商業簿記で次のような出題がありました。

長期貸付金のうち,5,000千円を当期末に4,950千円で譲渡することとし,売却代金については翌月決済することにした(この売却取引は支配が移転するための条件を満たしている)。当該貸付金の回収業務は引き続き当社が担当し,回収サービス業務資産の時価は100千円である。また,将来当該貸付金を買い戻すことができる権利の時価は150千円で,貸付金からの資金の回収が滞った場合に延滞債権を買い戻すリコース義務の時価は90千円である。

仕訳を示しなさい。

要するに簿価5,000千円の長期貸付金(金銭債権)を売却して対価として4,950千円をもらったというわけです。それだけでしたら、仕訳は極めて簡単です。

未収金 4,950 長期貸付金 5,000
債権売却損 50

ですね。ところが、これにいくつかの条件が加わります。

まず、回収サービス業務資産100千円がつきます。”資産”っていうくらいですから将来何かしらのキャッシュを生んでくれるのでしょう。さらに買い戻す権利(買戻権)150千円もつきます。”権利”とあることからこれも資産でしょう。最後に、回収が滞った場合、買い戻す義務であるリコース義務90千円もあります。「買い戻す」という点ではさきほどと同じですが、今度は義務だそうです。負債ですね。

さて、この取引を仕訳してみましょう。文字面どおりに仕訳すると次のようになりますよね。

未収金 4,950 長期貸付金 5,000
買戻権 150 リコース義務 90
回収サービス業務資産 100 債権売却益 110

買戻権と回収サービス業務資産は資産だから借方に、リコース義務は負債なので貸方に計上しました。
そして、貸借差額で債権売却益を計上したわけです。合ってそうですよね。しかし、解答を見ると少し違うんですよね。正解は次のとおりです。

未収金 4,950 長期貸付金 5,000
買戻権 150 リコース義務 90
回収サービス業務資産 98 債権売却益 108

回収サービス業務資産が100ではなくて98になっています。これに伴い売却益も110ではなく108になっています。なんだこれ?って感じです。今回は、この仕訳をじっくり丁寧に解説していきます。

そもそも金銭債権の譲渡ってなんだ?

そもそもの取引の背景と意味を理解しましょう。

まず、金銭債権の譲渡というのは、一般の商取引ではあまり行われません。
金銭債権の譲渡って、要するに貸付金とか売掛金とかを他人に売るわけですよ。
これ、債務者にとっては恐怖ですよね。だって返済する相手が知らない人に変わるわけですよ。
「騙されているんじゃないか?」「暴力団みたいな人で怖い取り立てをするんじゃないか」など思わず想像しちゃいます。
ですから、(簿記とは関係ありませんが)債権者は債権譲渡のさい債務者にそのことを知らせて承諾を得る必要があるのです。まあ、内容証明郵便で告知するだけなんですが。

これ、具体的にどのようなケースか分かりますか?一例として考えられるのが不良債権です。
お金を貸したのに返してくれない、このまま逃げられるんじゃないか?など不安だらけ。
借金の取り立てなんてやったことないし、やり方も分からない。
いっそ貸倒処理をしようとしたら税務署から「まだ取り立てられる可能性があるから損金にできない」と否認された。
手詰まりです。みなさんなら、どうします?

そこで、そういう厄介な取り立てを専門に行う会社があるわけですよ。
サービサーっていいます。そこに債権を売っちゃうわけです。
サービサーは額面に対して極端に安い価額で債権を買取ります。例えば1,000万円の額面に対して200万円とか。
で、額面の半分でも取り立てられれば御の字という感じの商売なんです。

もとの債権者は800万円の損失が確定しますが、それでも良い面もあるんです。
まず、不良債権が手元を離れるとその債権についての管理コストがかからなくなります。
あと、800万円の損失が確定すると、税務署も損金算入してくれますから、税金がその分安くなります。
法人税等の税率が35%であるとすると、280万円の節税になりますよね。なので実質520万円(=1,000万円−200万円−280万円)の損ですむのです。
そういったことを勘案して、損を承知で債権を売却するってことがあるのです。

また、この債権を買い取った業者が、債権を転売することもあります。
債権譲渡はこのほかにもいろいろなケースがあります。

リコース義務とか買戻権とは?

では、リコース義務とは何なんでしょうか。今度はさきほどとは立場を変えて、サービサーが手持ちの金銭債権を、あなたに売り込みにきたケースを考えてみましょう。

サービサー 「この貸付金買いませんか?額面1,000万円となっていますが500万円でいいですよ。多分ですが600万円は回収できます。」
あなた 「確かに回収できれば魅力的だけど、危ないんでしょ。つぶれたらおしまいじゃない。」
サービサー 「ご安心ください。万が一つぶれたら、頂いた500万円をお返ししますよ(=リコース義務)」
あなた 「それなら安心だ。でも、取立なんてやったことないからなぁ」
サービサー 「ご安心ください。当社は取立のプロです。なんでしたら取立はこちらで行います。料金はかかりますが(=回収サービス業務資産)」
あなた 「ああ、ぜひお願いしたいね。」
サービサー 「ただし1点お願いがあります。ある一定の条件を満たした場合、申し訳ないのですが債権を当社に戻したいのです。それをお認め頂けないでしょうか。(=買戻権)」
あなた 「最初に払った500万円は返してくれるの?ならまあいいかな。」

イメージつきましたか?

リコース義務、買戻権の時価の算定方法

さて、リコース義務の時価ってどうやって計算するのでしょう?これは、多分ですが債権額×倒産確率だと思います。具体的には、1年後の倒産確率、2年後の倒産確率、3年後の…という感じで年度ごとの倒産確率を計算して、回収不能額の期待値を出すのだと思います。そして現在価値に割り引いて算定するのでしょう。

まあ、簿記の試験だとそんな計算はする必要はなく時価が問題文に与えられますから、それを使えばOKです。

また、買戻権ですが、これはいわゆる債権を買う権利ですから、ずばりデリバティブ(コール・オプション)です。デリバティブの時価の算定式はいろいろありますが(ブラック・ショールズ方程式など)、これも、簿記の試験では問題文に与えられますのでそれを使えばOKです。

ということで、金銭債権を売却するに付随して、リコース義務という新たな負債や、買戻権という新たな権利が発生するわけです。これらをセットで売却しているのです。で、もう1つ大事なことがあります。回収業務サービスです。これ、リコース義務とか買戻権とは少し質が異なります。何が違うか分かりますか?

回収業務サービスは新たに発生した仕事ではないのです。サービサーはもともと回収業務をやっていました。で、金銭債権を売却したあとも引き続きやりますよ、って話です。リコース義務や買戻権が新たに発生した資産・負債であるのに対して、回収業務サービス資産は最初からあったということですね。

さて、以上の状態を踏まえてどう仕訳をすればよいのか、という話です。

金銭債権の譲渡の仕訳

”金銭債権”と簡単にいいますが、これ、いろいろな権利や義務が一体となったものなのです。
まず利息をもらったり元金を返済してもらえる権利があります。一方で、回収するためにはコストがかかります。また、貸倒れるリスクもあります。これらが一体となって、金銭債権という価値を構成しているわけです。

ですからひとこと”金銭債権”を売却と言ってますが、細かく分けると

  • 利息や元金の回収という経済価値
  • 貸倒リスク
  • 回収業務

という内容を一体として売却しているわけです。

で、本問は、回収業務については、サービサーが引き続き行うわけです。もともと自分がやっていたことを売却後も引き続きやるわけですから、この部分は売却していません。つまり、売却損益は出せません。

しかし、それ以外の部分は売却が完了していますから、損益を出せます。このことを考慮して仕訳を行わないといけないのです。では、どう考えましょうか。

まず、自分が相手に引き渡すものは長期貸付金5,000円(簿価)です。これに対して、相手から得られるものは、5,110円(時価)です。その内訳は次のとおり

  • 未収金4,950(時価)
  • 買戻権150(時価)
  • △リコース義務90(時価)
  • 回収サービス業務資産100(時価)

上記を全て売ったとすると原価5,000円のものを5,110で売ったわけですから110円の売却益となります。しかし、上記のうちの回収サービス業務資産は、売却の前も後も自分がやるわけですから事実上売却していません。よってそこから売却損益なんて出しちゃいけないのです。

ということで、回収サービス業務資産100(時価)の簿価(長期貸付金5,000の中に含まれている簿価)を算定し、その部分は簿価のまま相手に移転しただけだと考えます。簿価が簿価で移転しただけですから当然損益出ません。

では、どうやって簿価を算定すればいいのでしょうか。

相手から対価として得られる5,110円は時価です。これを回収サービス業務資産100(時価)とそれ以外の長期貸付金5,010円(時価)に分けます。

長期貸付金の簿価は5,000円ですから、これを100:5,010で按分すれば、回収サービス業務資産とそれ以外の長期貸付金の簿価が算定できるわけです。

式にすると、回収サービス業務資産の簿価:5,000円×100円÷5,110円=97.8…≒98円です。

これにもとづけば、次のような仕訳になるわけです。理解できました?

未収金(時価) 4,950 長期貸付金(簿価) 5,000
買戻権(時価) 150 リコース義務(時価) 90
回収サービス業務資産(簿価) 98 債権売却益 108

ちなみにソースは?

日商1級では実務指針や適用指針の設例からソックリな問題がよく出題されます。

ちなみに、この金融債権の譲渡については、公認会計士協会の実務指針にほぼ同じ内容の設例がありました。ご参考までリンクを貼っておきます。リンク先の設例2です。

リコース義務とか金銭債権譲渡とかが分かるようになる話” に対して1件のコメントがあります。

  1. room より:

    富久田先生
    はじめまして

    いつも興味深く拝見してます。
    先生の解説は具体例でイメージしやすく、記憶に残りやすいため、感動しています。
    今回の金融債権の譲渡の仕訳も、スッと理解できました。ありがとうございます。

    一つだけ質問があるのですが、お教えいただけますととても嬉しいです。
    譲渡側に残った、簿価98の回収サービス業務資産について、仮に時価100の時に貸付金を回収した場合、

    (借方)
    現金 100
    /
    (貸方)
    回収サービス業務資産 98
    ◯◯損益 2

    となる。という理解でよろしいのでしょうか。
    債権の譲受側が、譲渡側に対して
    「代わりに回収してもらってありがとうございます。対価として100払います。」
    という意味だと理解したのですが、間違っていたら教えてください。

    よろしくお願いします。

    1. pro-boki より:

      まず、回収サービス業務はその名のとおりサービスなので、そこから得られる収益は役務収益になると思います。つまり、仕訳にすると次のとおりです。

      役務原価98/回収サービス業務資産98
      現金100/役務収益100

      ただ現実には回収が1度で済むとも限らず、ある程度の期間を要することもあると思います。この場合、期を超えるなら、回収サービス業務資産は前払費用(サービス期間が1年超であれば、長期前払費用)として計上します。で、サービス提供の都度、残高などに応じて取り崩していきます。たとえば、半分を回収したのなら、以下のような仕訳になると思います。

      役務原価49/回収サービス業務資産49
      現金50/役務収益50

    2. room より:

      富久田先生!
      ありがとうございます!

      なんかもやっとしてたんですが、言われてみればその通りでとてもスッキリしました!
      現金収入は収益そのものですし、資産は費用に振り替わって、純額が損益になるんですね!
      前払費用だよと言われて、あぁ、貸し付けたときのCOFだわ、なんというか言葉が出てきませんでした。

      ありがとうございます以上の感謝を伝えたいのですが、語彙力がなくて言葉が見つかりません。

      貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。

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