第170回日商簿記1級・詳細解説【会計学】

第1問 理論問題

1.有価証券
  1. 市場価格のない株式等は、取得価額をもって貸借対照表価額としますが、社債は市場価格のない株式等には該当せず、これをその他有価証券として保有している場合には時価を算定し、これを貸借対照表価額とします。したがって誤りです。
  2. 満期保有目的債券を満期前に売却した場合でも、買い戻す必要はありません。したがって誤りです。
  3. 正しい記述です。
  4. 満期に額面金額の償還を受けられる債券も売買目的有価証券に分類することはできますので誤りです。
2.制度会計
  1. 企業会計基準委員会が公表した会計基準は、大会社および上場企業においては適用が義務付けられていますが、すべての株式会社に対して適用が義務づけられている訳ではありません。したがって誤りです。
  2. 計算書類の中にキャッシュ・フロー計算書は含まれませんので誤りです。
  3. 金融商品取引法の改正によって四半期報告制度は廃止されましたので誤りです。
  4. 正しい記述です。
3.引当金の設定要件
  1. 正しい記述です。
  2. 発生の可能性が低い場合は、引当金の4要件(将来の特定の費用又は損失、発生が当期以前の事象に起因、発生可能性が高い、金額を合理的に見積れる)を満たしませんから引当金は設定しません。したがって誤りです。
  3. 金額を合理的に見積ることができない場合は、引当金の4要件を満たしませんから引当金は設定しません。したがって誤りです。
  4. 引当金の計上要件をすべて満たした場合は、引当金を設定しなければなりませんから、誤りです。
4.連結固有の税効果会計
  1. 連結固有の将来減算一時差異のうち繰延法により繰延税金資産を計上する項目とは、未実現利益の消去に係る一時差異のことです。個別財務諸表上、すでに法人税等の納付は完了しているため、回収可能性の判断は必要ありません。したがって誤りです。
  2. 法人税等は、販売した側の税率によってすでに納付されています。したがって資産を保有している会社(=購入した側)の税率を適用するという記述は誤りです。
  3. 法人税等は、販売した側の税率によってすでに納付されています。したがって改正後の法定実効税率によって繰延税金資産の額を修正するという記述は誤りです。
  4. 正しい記述です。

難易度

  1. 有価証券について。イとエが明確に誤りであるとわかりやすいので、2択までは絞れますがそこからは難しいと思います。
  2. 制度会計について。会社法の計算書類はすべての株式会社が作成しなければなりませんが、企業会計基準委員会が公表した会計基準はすべての株式会社に適用されるわけではないことを知っていれば、アとエについては判断できたと思いますが、知らないと難しいでしょう。イのキャッシュ・フロー計算書が会社法の計算書類に含まれないことは、税理士試験の財務諸表論や会計士試験の勉強をされている方にとっては簡単な問題でしたが、1級のみを勉強されている方にとっては難しかったかもしれません。ウの四半期財務諸表が廃止されたことくらいはキャッチアップしておきなさいという作問者の意図を感じます。
  3. 本問のなかで唯一を普通の難易度の問題でした。これは取らなければなりません。
  4. かなり細かいところで、非常に難しい問題です。ただし、繰延法による繰延税金資産が、いわゆる未実現利益の消去に係る一時差異から生じるもので、資産負債法による繰延税金資産が支配獲得時の評価差額に係る一時差異から生じるものであることがイメージできれば、これらは普段の計算で合算していることを経験しているはずですから、エが正解であることは比較的容易に分かったのではないかと思います。

以上から、3と4の2問は取りたいところで、さらに1と2のうちどちらか1つ取れれば上出来だと思います。

第2問 減損会計

  資産A 資産B 資産C 資産D のれん より大きな単位
当期末帳簿価額(減損前) 300,000 450,000 500,000 200,000 800,000 2,250,000
減損の兆候 あり なし あり あり あり あり
割引前将来CF 250,000 480,000 550,000 230,000 ─ 1,510,000
減損の認識 する しない しない しない ─ する
回収可能価額 223,000 420,000 470,000 220,000 0 1,333,000
減損損失 ① 77,000 ④ 20,000 ⑤ 20,000 0 ③ 800,000 ② 917,000

 

解法手順
Step.1 個々の資産の減損の認識

資産Aは減損の兆候があり、当期末帳簿価額が割引前将来キャッシュ・フローを上回っているため、減損の認識をします。
資産Bは減損の兆候がないため、減損の認識をしません。
資産CとDは減損の兆候があるが、当期末帳簿価額が割引前将来キャッシュ・フローを下回っているため、減損の認識をしません。したがって、資産Aのみ減損損失を測定します。

Step.2 資産Aの減損損失の測定

①:帳簿価額300,000千円-回収可能価額223,000千円=77,000千円

Step.3 のれんを含むより大きな単位での減損損失の測定

のれんを含むより大きな単位でも減損の兆候が発生しており、当期末帳簿価額が割引前将来キャッシュ・フローを上回っているため、減損の認識をします。のれんを含むより大きな単位の減損損失は次のとおりです。

②:帳簿価額2,250,000千円-回収可能価額1,333,000千円=917,000千円

Step.4 のれんを加えることによって生じた減損損失の増加額の配分

のれんを加えることによって生じた減損損失の増加額840,000千円(=917,000千円-77,000千円)は、優先的にのれんに配分します。のれんの回収可能価額は0ですから、その帳簿価額である③800,000千円を減損損失とします。

Step.5 配分しきれなかった残額の各資産への配分

配分しきれなかった残額は、40,000千円(=840,000千円-800,000千円)です。これを各資産の帳簿価額と回収可能価額の差額の比率を基準に配分します。

各資産の帳簿価額と回収可能価額の差額は、資産Aが0(すでに回収可能価額まで減損済であるため)、資産Bが30,000千円(=450,000千円-420,000千円)、資産Cが30,000千円(=500,000千円-470,000千円)、資産Dは0千円(回収可能価額が帳簿価額を上回っているため)です。

よって、配分しきれなかった残額40,000千円を資産Bと資産Cに対してそれぞれ30,000千円を基準として配分します。

④:40,000千円÷(30,000千円+30,000千円)×30,000千円=20,000千円
⑤:40,000千円÷(30,000千円+30,000千円)×30,000千円=20,000千円

難易度

テキストの例題レベルの問題でしたので満点を取りたいところですが、市販されている簿記1級のテキストを参照したところ、多くのテキストはのれんではなくて共用資産を使って解説をされていたため、「共用資産なら解いたことがあるけど、のれんの場合は分からない」と苦戦された受験生もいたようです。

第3問 工事契約

問1

  第1期 第2期 第3期
累計発生工事原価 1,170 6,120 6,720
見積総工事原価 6,500 6,800 −
工事進捗率 18% 90% 100%
請負金額 8,000 8,000 8,000
累計工事収益 1,440 7,200 8,000
④工事収益 1,440 5,760 800
⑤工事原価 1,170 4,950 600
工事利益 270 810 200

 

第1期における契約資産、契約負債

工事収益1,440千円(契約資産)、受取代金1,600千円(契約負債)ですから、これらを相殺して、契約負債が160千円(=1,600千円-1,440千円)となります。

第2期における契約資産、契約負債

工事収益の累計が7,200千円(契約資産)、受取代金の累計が4,800千円(契約負債)ですから、これらを相殺して、契約資産が2,400千円(=7,200千円-4,800千円)となります。

第3期における顧客との契約から生じた債権

工事収益の累計が8,000千円(顧客との契約から生じた債権)、受取代金の累計が4,800千円(契約負債)ですから、これらを相殺して、顧客との契約から生じた債権が3,200千円(=8,000千円-4,800千円)となります。

問2

工事損失引当金考慮前
  第1期 第2期 第3期 第4期
累計発生工事原価 400 3,100 5,440 6,410
見積総工事原価 見積り不可 5,000 6,400 −
工事進捗率 − 62% 85% 100%
請負金額 6,000 6,000 6,000 6,000
累計工事収益 400 3,720 5,100 6,000
工事収益 400 3,320 1,380 900
工事原価 400 2,700 2,340 970
工事利益 0 620 △960 △70
累計工事利益 0 620 △340 △410

 

第3期における工事損失引当金の計上

第3期の見直しにより見積総工事原価6,400が工事収益総額6,000を上回ったため、この時点でこの工事は完了させても400の工事損失が出ると見込まれます。一方、第3期における累計工事利益は△340であるため工事損失引当金60(=400-340)を計上します。この繰入額60は、工事原価に算入するため、第3期の工事原価は2,400(=2,340+60)となります。

第4期における工事損失引当金の取り崩し

第4期には工事が完了したため、第3期に計上した工事損失引当金60を取り崩します。この取り崩し額60は、工事原価に算入するため、第4期の工事原価は910(=970-60)となります。

3,200千円(=8,000千円-4,800千円)となります。

問3

  第1期 第2期 第3期 第4期
累計発生工事原価 400 3,100 5,440 6,410
見積総工事原価 見積り不可 5,000 6,400 −
工事進捗率 − 62% 85% 100%
請負金額 6,000 6,000 7,500 7,500
累計工事収益 400 3,720 6,375 7,500
工事収益 400 3,320 2,655 1,125
工事原価 400 2,700 2,340 970
工事利益 0 620 315 155
累計工事利益 0 620 935 1,090

 

難易度

契約資産、顧客との契約から生じた債権、契約負債といった収益認識基準に関連する論点は難しかったかもしれません。契約資産と契約負債については、異なる工事から生じた場合は総額表示をするけど、同じ工事から生じた場合は相殺することを知っているかどうかも問われていました。ここは失点しても仕方がありませんが、それ以外の工事収益と工事原価に関する問は全て取りたいところです。