過去問119回を使って部門別計算の連立方程式法の本質をつかむ

部門別計算を苦手にする人が多い理由

部門別計算に不得意感のある受験生は少なくない。

部門別計算は、部分部分の計算は簡単だけど、全体の計算プロセスが長く、また計算バリエーションが多いので「今、自分はどの部分の何の計算をやっているのだろう?」と混乱しやすいのだ。これが、苦手とする人の多い理由だろう。

部門別計算は、まず第1次集計で部門個別費を各部門に直課し、部門共通費を配賦する。さらに、第2次集計で補助部門費を製造部門に配賦し、これを製品に配賦するという手順をとる。

この配賦計算は、実際配賦をする場合と予定配賦をする場合があり、さらに配賦対象となる費用も変動費と固定費を合算して処理(=単一基準配賦法)する場合と、変動費と固定費を別々に処理(=複数基準配賦法)する場合があり、混乱を加速させる。

このあたりで混乱している人は、面倒がらずに一度しっかりテキストを読み込んだ方がいい。特に用語は正確に覚えた方がいい。第1次集計と第1次配賦の違いって分かる?2級でやってるよ。

こういう用語を丁寧に扱ってワンステップずつ流れを把握するように努めよう。きっと部門別計算に対する見え方が変わってくるだろう。

部門別計算の超難問

さて、今日は、そんな部門別計算の基本の話ではなく、いきなりだけど超難問の解説をしてみたい。

日商の過去問を分析すると、がっつりした部門別計算はここ25年間で7回出題されている。3〜4年に1回のペースって感じかな。

で、中でも特異的な出題が第119回の1級工業簿記で、これ初めて見た時「はぁ?」という声しか出なかった。著作権の問題があるので、まんまには書けないけどざっくり言うとこんな感じの問題。(過去問119回を持っている人はぜひ参照してほしい)

当社には第1製造部門、第2製造部門、X補助部門(部門費900万円)、Y補助部門(850万円)がある。X補助部門とY補助部門の用役提供量は次のとおりである。

  第1製造部 第2製造部 X補助部門 Y補助部門 合計
X補助部門 8千単位 7千単位 2千単位 3千単位 20千単位
Y補助部門 20万単位 30万単位 15万単位 15万単位 80万単位

さて、Y補助部門の提供しているサービスを外部の会社が@15円で買わないか?と言ってきた。買った方がいいかどうか?

要するにY補助部門を廃止して、外部からサービスを買った方がいいのか、Y補助部門を継続した方がいいのか、という業務的意思決定の問題だ。

1級の工原講師の間では結構有名な問題で、ちょっと話せば「ああ、あの問題ね」って感じで話が通じる。逆にこの問題知らないならモグリだ。

で、受験生に言いたいのは、こんなの出来なくて全く問題ないということ。検定試験の問題としては適切ではないと思う。これは簿記ではなく数学パズルだ。

簿記だと思って受けに来ている受験生が、緊張した中、初見で、たかだか数分間という限られた時間の中で解法を思いつくはずもなく、多分出来た人は1%未満だ。まあ埋没したことだろう。

じゃあ、なぜ出題者は埋没することが確実なこんな問題を出しちゃったのか。

多分だけど、出題者はこのアイデアを思いついちゃって出したい気持ちを押さえられなかったのだろう。それくらいアイデアは素晴らしいと思う。

受験生目線ではなく、作問者目線で見ると、これはすごく良く出来た問題で、問題の質という点では感心しきりだ。よくこんなの思いつくなと。嫉妬を覚えるレベル。大学の演習とかで出すなら超いい問題だろう。

ということで、この問題を解説したい。みなさんは以下の解説を読む前に是非、考えてもらいたい。Y補助部門を廃止して、外部からサービスを買った方がいいのかどうか。

部門別計算の超難問の解説

これ考え方というか問題の捉え方さえ分かってしまえばさして難しくない。具体的な会話文にしたのでイメージしてみてほしい。

補助部門は修繕部(=X補助部門)と電力部(=Y補助部門)であると思って読んでほしい。

社長 ○○電力から電気を@15円で買わないかと売り込みが来ている。検討したいから、うちの電力部門が作っている電気の単価っていくらか教えて。
部長 80万kwh消費して、850万円かかってますから@10.625円ですね。@15円よりはかなり安いですね。
社長 おいおい、バカ言っちゃ困るよ。きみ、それでよく部長できるね(謎のパワハラ)
部長 どういうことですか
社長 だって、電力部門は自分たち自体でも電気使ってるわけだろ。それが15万kwhある。外部から電気を買うってことは、電力部門を廃止するってことだから、電力部門が使っている15万kwhは少なくともなくなるわけだろ。
部長 なるほどですね。ということは、80万kwh−15万kwh=65万kwhということですかね。
社長 君は甘いね。それでよく部長できるね(謎のパワハラその2)
部長 どういうことですか
社長 現在、修繕部門は15万kwh使って、修繕サービス提供しているけど、どの部門にサービスを提供しているの?
部長 第1製造部と第2製造部と電力部門ですね。
社長 外部から電気買ったら、電力部門なくなるんだよ。それでも修繕部門は15万kwh使うの?
部長 あ、そうか。第1製造部と第2製造部だけにサービス供給すればよくなるので15万kwhも使わないのか。
社長 だよね。じゃあ、どれくらい提供すればいいの?
部長 現在の修繕時間が、第1製造部:第2製造部:電力部=8千時間:7千時間:3千時間です。合計18千時間で15万kwh使っています。で、電力部がなくなるってことは、3千時間、つまり6分1なくなるので、2.5万kwh使わなくなるってことですね。
社長 からの〜?
部長 現在全社的には80万kwhだけど、電力部門の自家消費15万kwhがなくなって、さらに修繕部も2.5万kwh使わなくなるので、80−15−2.5=62.5万kwhということですかね。
社長 正解!
部長 つまり実質的には当社は62.5万kwhしか消費していないと。それだけの量を、○○電力から買えばいいわけですね。
社長 そういうことだよね。で、もし電力部門を廃止するといくらお金が浮くの?
部長 えーと、現在の電力部門費は850万円ですから、850万円ですかね。
社長 そういうところだよ。君。
部長 は?何か間違えていますか?・・・あ、そうか。修繕部門も電力部門の設備の修繕とかしなくて良くなるからその分のコストも浮くのか。
社長 だよね〜。で、いくら?
部長 えーと、修繕部門は900万円コストがかかってます。で、第1製造部:第2製造部:電力部=8千時間:7千時間:3千時間です。この3千時間がなくなるので、900万円÷18千時間×3千時間=150万円浮きます!
社長 ということは?
部長 850万円+150万円=1,000万円浮きます!
社長 結構浮くじゃないか。
部長 つまり、電力部門を廃止するとなると、1,000万円浮くわけですね。で、○○電力からは62.5万kwh買えばいいと。つまり、○○電力から@16円未満で買えれば得ってことですね。
社長 ○○電力からは、@15円でオファー来ている。では、電力部門は廃止することにするか。
電力部門長 ちょっとまって〜

 

連立方程式法

さて、本問を全く別の角度から見てみよう。部門別計算の第2次集計の話だと思ってほしい。このとき、補助部門はお互いに用役を提供しあっているので、正確な計算をするのであれば連立方程式法が望ましい。それでは、自家消費を無視して連立方程式を立ててみよう。

  第1製造部 第2製造部 X補助部門 Y補助部門 合計
X補助部門 8千単位 7千単位 3千単位 18千単位
Y補助部門 20万単位 30万単位 15万単位 65万単位

 

  • X=900万円+15/65Y
  • Y=850万円+3/18X

これを解くと、X=1,140万円、Y=1,040万円だ。

で、連立方程式法でよく聞かれるのが、この方程式を解いた結果であるXとかYが何を意味しているのか?ということだ。Y=1,040万円は、Y補助部門(電力部門)の第1次集計費(850万円)に、他の補助部門(修繕部門)から受けている用役の対価を足した金額ですよという説明をするわけだけど、どうもピンとこない人が多い。

で、本問に戻って、Y補助部門(電力部門)は自部門費としては850万円使っているだけだけど、X補助部門(修繕部門)はY補助部門が存続するために190万円(=3/18X)使っていて、結局Y補助部門(電力部門)が存続するためには1,040万円必要なわけだ。こう考えるとX=1,140万円とかY=1,040万円のもつ意味を理解しやすくないだろうか。

さらに、Y補助部門(電力部門)は1,040万円を使って、自部門を除いた部門に65万kwhを提供しているわけで、その意味では、1,040万円÷65万kwh=@16円で、実質的に電力を自製するときの単価は@16円となるわけだ。

よって、外部から@15円でオファーが来たなら、乗り換えた方がいいよねっていうのが、本問の趣旨なのだ。

事実、この第119回の1級工業簿記は、小問3問からなる構成で、問1と問2では連立方程式法を使って補助部門費の用役単位あたりの金額を算定させている。そして、問3で業務的意思決定の問題として補助部門費の用役単位あたりの金額を算定させている。

で、ほら、同じになるでしょ?ってことを分からせようとしている。

正直、うなってしまった。素晴らしい問題だ。感動した。

でも、本試験で出すのはどうかと思う。

過去問119回を使って部門別計算の連立方程式法の本質をつかむ” に対して1件のコメントがあります。

  1. 槍男 より:

    早速の更新ありがとうございます。
    そして、修繕部門の消費割合を無視し、謎のパワハラ2にまんまとやられてしまいました。部長失格です(笑)

    解説お見事です。製造部門への配賦額に差額収益分が含まれている【個人的見解】という見方をした事がなかったので素直に感動しました。

    以前、先生が言っていた問題を解く前に出題者の意図を考えるという事がほんの少しですが分かりそうな気がします。自分のような独学人にはとてもありがたいです。

    お忙しい中、サイト更新から解説までありがとうございます!引き続き152回合格に向けて頑張ります。

  2. パーシモン より:

    こんばんは。サラリーマン独学者です。いつもためになる記事ありがとうございます。ずいぶん前に本問に挑戦して問3がイミフだったので、本記事の詳細な解説で大変勉強になりました。
    一点質問です。X補助部門が使わなくなるY補助部門の供給サービスについて、減少分が何故6分の1(3千単位÷18千単位)になるのかということです。
    最初に考えた時は、減少分は15万のうち15%(3千単位÷20千単位)と考えて、15万×15%=2.25万としてしまいました。解説の6分の1(3千単位÷18千単位)が正しくて、15%(3千単位÷20千単位)が不正解の理由がいくら考えてもピンとこない状態です。
    お手数お掛けしますが、ご掲示いただけますと幸いです。

    1. pro-boki より:

      なるほど。
      ごもっともな質問だと思います。

      もし、パーシモンさんの考え方(分母に修繕部門の2千単位を算入して20千単位として計算する)なら、分子も変えなければなりません(つまり分子にも自部門の節約量を算入しなければなりません)。くわしく見ていきましょう。

      まずは、修繕部門が消費する合計20千時間の内訳を考えてみてください。
      これ、第1製造部8千時間、第2製造部7千時間、電力部門3千時間と、自部門(修繕部門)2千時間の合計ですよね。

      さて、修繕部門は、なぜ、自部門に向けて2千時間も修繕時間を要するのでしょうか。
      これは、修繕部門が他部門に修繕サービスをほどこすために設備を保有していて、その設備そのものに修繕を要すると考えると分かりやすいと思います。

      で、この設備はどれほど稼働するのかと言えば、第1製造部、第2製造部、電力部門に対してトータル18千時間稼働するわけです。
      それだけ稼働することを前提に2千時間の修繕が必要と考えているのです。

      ところが、電力部門がなくなるとこの設備は第1製造部8千時間と第2製造部7千時間の合計15千時間のみ稼働すればいいのです。
      すると、設備の消耗も少なくなるので、この設備への修繕も少なくて済みます。この設備への修繕時間が、この設備の稼働量に比例するものとすると、2千時間÷18千時間×3千時間=0.333…千時間、節約することができるのです。

      よって、電力部門を廃止することで節約できるのは、
      (電力部3千単位+修繕部0.333…千単位)÷20千単位=16.666…%(6分の1)となります。

      つまり、自部門を考慮しても無視してもどちらにせよ6分の1の削減になるのです。

  3. パーシモン より:

    御回答ありがとうございました。先生の説明により、とても良くわかりました。
    電力部門がなくなると、修繕部門の設備の消耗が少なくなる(=修繕部門の自家消費が少なくなる)ということがわかってなかったようです。
    貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。

  4. FYOSHIB より:

    こんばんわ。119回を軽い気持ちで解いてみたらハマってしまいました。これを45分程度でとく、、、凄まじいですねこの回は。富久田先生の解説のおかげで最後まで理解できました。非常にわかりやすい記事ありがとうございます。

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